Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第六章 あしぶみ

【六】作戦決行(第一ステージ)

【淳・純コンビ】
改札でみんなと別れた後、まっすぐ新静岡センターに向かう淳と上田純子だったが、ふと淳がつぶやいた。
「わりーな上田。こんなとこまで引っ張り出しちゃって。
つーかここまで付き合ってくれるとは正直思ってなかっただけんな。」
「ええってええって。それより、ホラ見て。」
純子は笑顔で答えると、バッグから荷物を出して見せた。
「サングラスに帽子。顔を隠せるように雑誌もあるよ。」
淳が驚く。
「すげー。なんか悪いな、そこまでしてもらって。」
「ええって。前も言ったけどさ、元六としてはあんたっちには期待してるだよ。」
怪訝そうな顔で淳が聞き返した。
「期待?」
「そう。あたしっちの原点、一年六組の象徴として輝いてたけん、これからもそうあり続けて欲しい、ってみんな思ってる。」
「なんだよ、俺たち、そんな大変な事になってたのか?」
「みんなってのは大げさじゃないよ。まあ、実際にそんな事口に出して話題にしてるのはあたしとか雪絵とか京子くらい
かもしんないけど。でも、心の中ではみんなきっとそう思ってる。」
「へへ、責任重大だな。」
上田純子はくるりと淳の方を向くと、腰に手を当て、胸を張って言った。
「そうよ。本作戦も、大変重要な意味を持っているのであるぞ。」
「おまえ、面白がってねえ?」
「へへ、わかる?だってそうでしょ。こんな面白い事に関われるんだもの、楽しくてしょうがないわよ。
実際のところ、あたしってどっちかっていうと輪の中心から少し外れたところから眺めてる、みたいな事が多かったし。
今回、あんたから話を持ちかけられたとき、実はものすごくうれしかったんだ。」
しみじみと語る純子だった。
「そんなもんかなあ。でもそんなふうに言ってもらえるとなんかうれしいな。ところで、一組、どうなのよ。」
「楽しいわよ。小原先生も相変わらず素敵だし、麻美を中心として、結構まとまってきてると思う。でもまだまだよ。
あのときの六組にはかなわない。そういう意味でも麻美にはしっかりしてもらわないと。文化祭で去年の六組を越えられないもの。」
「へえ、そんなに燃えてんだ。上田。」
「そうよ。去年はどっちかっていうと引っ張ってもらってたほうだったけど、今年は引っ張る側なんだから。」
「文化祭終わったら、生活委員長、やるんだろ?」
「相変わらず人のこと見てるわねえ。もちろんそのつもりよ。富士見中生の風紀の乱れは許しません!なんてね。」
 思わず頭を抱えた格好でおどける淳だった。
「おー怖い怖い。お手柔らかに頼むぜ。」

「それはそうと、一時までどうするの?あたし、何にも考えてなかったけど。」
「センターで買い物して、それから飯でも食おうぜ。俺、ちょうど探してる本があってさ。あとレコードも。」
「それいいかも。あたしも欲しいレコードがあったんだ。」
「じゃあまず『すみや』だ。で、そのあと『丸善』だな。」
「オーケー」
「てかさ、この大事なときに何俺買い物とかしちゃってんのって感じだよな。」
「そのくらい余裕がないとこの作戦はうまくいかないわよ。気楽に、気楽に!」
「へへ、そうだな。よし、行こう。欲しいレコードって何だ?」
「ジュリーの『コバルトの季節の中で』。出たばっかなんだ。」
「そういやおまえ、ジュリーの大ファンだったな。」
「ふふっ。あんたは何を?」
「キッスの『地獄の軍団』。青石にテープは借りただけーが、やっぱアルバム欲しくなってな。」
「男の子っちはキッスとかエアロスミスとか好きだよねえ。女子は洋楽だとベイシティローラーズかなあ。
クイーンとかも結構好きな子いるみたいね。」
「クイーンはおらっちも好きだぜ。」
「へえ、そうなんだ。ところでさ・・・・・・・」
上田純子の楽しそうな声がエスカレーターに響くのだった。

【堂本・青石コンビ】
「市役所過ぎたとこで左だね。」
「後はまっすぐだな。」
新静岡駅から映画館のある七間町まで急ぐ二人である。
ふと思いついたように青石が堂本に聞いた。
「堂本君って前から山下君っちと仲よかったっけ。」
いつもどおりのポーカーフェイスで堂本が答える。
「いや、前からって訳じゃないよ。二年で同じクラスになってからだな。山下とテレビの話で盛り上がってさ。
俺もあいつもスパイ大作戦が大好きで、ってなつながりさ。」
「へえ。ぼくも実は山下君とは好みが同じでね。僕は音楽、中でも洋楽つながりかな。キッスのアルバム貸してあげたり。
彼のお父さんがさ、ディスコサウンド大好きらしくて、僕そっちも好きだから何枚か借りたりしてるんだ。」
「へえ、俺もスリーディグリーズとかヒューズコーポレーションとか好きだよ。」
「へえ!なかなかやるじゃん。ミラクルズとかは?」
堂本の目がきらりと光る。
「ラブ・マシーンなんて、いいねえ。」
「うっひゃー。意外だなあ。レコードとか結構持ってるの?」
「今度家にあるレコード一覧にしてくるよ。」
「僕も持ってくるよ。いやあ、楽しみだなあ。」
「歌謡曲とかは聞かないのかい?」
「聞くことは聞くけど、やっぱ僕は洋楽派だね。でも最近の沢田研二は好きだな。」
「そうかー。けどあれだな、同じクラスでも結構話しないやつとかいんじゃん。話してみると意外と面白かったり、
同じ様な趣味とか持ってるかも知んないって考えると、しゃべってみないと損だな。」
「しゃべってみないと損かあ。面白いね、その考え方。なんかいいな、それ。」
「とか何とか言ってる間に、七間町だぜ。」
「オリオン座だよね。ええと、うまく見張れる場所、と。あそこはどうかな。」
映画館の前の道を挟んで斜め前の位置に、丁度二人が隠れていられるくらいの看板を見つけて青石が言った。
「よし。張り込みといえばアンパンと牛乳だけーが、腹は減ってないし、暑いし。」
「スコール飲んで張り込みだね。」
「いいねえ。あそこで買ってこよう。そう言えばさ・・・・・・」

【絵里ちゃんと亮介】
「ちいっと大事(おおごと)になっちゃったかな、って思ってるんだ。」
亮介がうつむき加減で言うと、見事にいつものペースの絵里が答えた。
「いいんじゃない?そのくらいあたしっちにとっちゃ大事な事よ。でも確かに、純子とか後輩君たちとかまで
付き合ってくれるとは思わなかったわ。それにしても、堂本君って、ああいうキャラだったのね。」
「どういうふうに見てたのさ。」
「いや、もっとなんていうかこう、寡黙なスポーツマンタイプっていうか。黙って俺について来いみたいな?」
「普段は確かにそんな感じかもね。クラスで一緒になってすぐは僕もそんな風に見てたかも。」
「いつごろから仲良くなったっけだね。」
頭の中を探すように右上を見上げ、ちょっと考えてから答える亮介。
「一学期の中間が終わった頃だよ。テスト返しのときに、あいつが帰ってきたテストを見つめて
『当局はテストの点については一切関知しないからそのつもりで』とかつぶやいたのを聞き逃さなかったのさ。
『なお、このテストは自動的に消滅する』って言ってやったら食いついてきたんだ。」
「好きですねえ。」
「あいつが好きなのはバーニーってやつなんだ。」
「黒人のメカ担当の人でしょ?」
「あれ?絵里ちゃんもなかなかじゃん。」
「お父さんが好きだもんで一緒に見てるうちにハマッたのよねー。」
「お父さんナイス。」
絵里が時計を見る。
「まだ十一時前だよ。一時半に駿府公園でしょ?どうする?」
「戸田書店でさ、漫画の単行本のフェアやってるんだ。付き合ってくれる?」
「えーよ。じゃあそのあと駿府公園でお昼ね。」
「気になってたんだけど、もしかしてそのバッグの中身、お弁当?」
「正解!早起きして作っちゃった。サンドイッチにから揚げだぞ。」
「ナイス絵里ちゃん!おっと、定時連絡の時間だ。幸利に電話しなきゃ。」

【幸利】
「・・・・・・」
エースをねらえの四巻を読んでいる。電話のベルが鳴った。
「はい、村中です。ああ、山下か。うむ、異常なしだ。じゃあな。」
今の電話で十一時の定時連絡が完了した。幸利は漫画の続きを読み始めた。

【後輩コンビ】
「何してたんだよ、茂田井!」
柴田が焦った様子で時計をチラチラ見ながらバスを降りて走ってくる茂田井に向かって声をかけた。
マイペースで答える茂田井。
「わりいわりい。出掛けにうん○したくなってよー。」
「急がねーと二時までに新静岡に行けねーぞ。」
「大丈夫だって。先輩たちが新静岡に来るのは予定では二時半過ぎだろ?」
「定時連絡だってあるんだから、遅刻はできねーよ。あとで堂本さんに何されるかわかんねーぞ。」
茂田井がはっとして答えた。
「そうか、そうだな。堂本さんか。やべーやべー、急がないと。」
「やっと分かったか。いけねえ、バスが来るぞ!走れ!」

【堂本・青石コンビ】
「村中か?ターゲット現着だ。たった今オリオン座に入館を確認した。どうぞ。」
(村中了解。引き続き監視を続行、退館し次第尾行を開始せよ。どうぞ。)
「堂本了解。以上。」
 堂本が村中への無線連絡を終えた。
「すごいね。感度がいい、そのトランシーバ。高橋君のお父さんに借りたんでしょ?」
「たしかに。おもちゃじゃないね、これ。壊したら大変だ。」
「それにしても、見た?望月さんって、あんなにかわいい私服持ってんだね。」
「ああ。基本的に俺なんか体操着とジャージのイメージしかないからな。ちょっとびっくりだ。」
「ああして並ぶと、三浦先輩と望月さんって、お似合いの二人だなあ、なんてちょっと思っちゃったよ。」
「そりゃ俺も思った。大丈夫かな、望月。雰囲気に流されちゃったりしねーかな。」
「さすがの村中君もそうなったら・・・・・・」
「いやいや、問題が起きる前に阻止だ。映画が終わるまで二時間ある。飯食ってこようぜ。」
「何食べようか。」
「ハンバーガーはどうだ?紺屋町のマクドナルド。」
「いいねえ。実は僕、ハンバーガーって食べた事ないんだ。」
「へえ、そうなんだ。ま、俺だって何度も食べた事があるわけじゃないけどさ。」
「決まりだね。急におなかが空いてきたよ。」
「オーケー、じゃあ行こう。」

【淳・純コンビ】
「トランシーバーの音じゃない?」
淳のポケットからタクシーの運転手の無線の問いかけの返事みたいな音が聞こえてきていた。
「おうっ、そうだ。こちら村中。堂本か?どうぞ。」
(村中か?ターゲット現着だ。たった今オリオン座に入館を確認した。どうぞ。)
「村中了解。引き続き監視を続行、退館し次第尾行を開始せよ。どうぞ。」
(堂本了解。以上。)
「いよいよね。」
「うん。じゃあ急いで昼飯食って駿府公園へGOだ。」
「何食べる?」
「寿がきやへGOだ。どうだ?」
「うん。ええよ。」
「よければソフトおごるぜ。」
「ええの?やったー。いこいこ!」

【幸利】
ただいまエースをねらえ八巻に突入中。

【ターゲット】
「ごめんなさい、だいぶ待ちましたか?」
「いや、ぼくもさっき来たばかりなんだ。じゃあ行こうか。新静岡までいくらだったかな。」
「往復で買います?」
「そうだね。」
三浦は少し考えてから言い直した。
「いや、片道でいいかな。」
「はい。OKです。」
「じゃあ、行こう。いけない、ベルが鳴ってる。」
「わあ、急がないと。」
改札を抜け、ダッシュする二人。何とかドアが閉まる前に電車に滑り込めた。
「駆け込み乗車でしたね。」
「あぶないあぶない。ドアにはさまれるところだったよ。」
「映画、大丈夫そうですね。」
「うん。この時間なら余裕で着けるよ。オリオン座だったよね。」
「そうです。」
「それはそうと・・・・・・」
「なんですか?」
「私服、かわいいんだね。よく似合ってる。いや、制服とジャージ以外の君を見るのは初めてじゃないっけかな。」
麻美は少しほほを赤らめて答えた。
「ふふっ。そうですか?実は今日、着ていく服をどうしようかで迷っちゃってちょっと遅れちゃったんですよ。」
「そうなんだ。なんか悪いね。」
「何がですか?」
「いや、そんな気を遣わせちゃって。」
「何言ってるんですか。そんなこともまた楽しいんですよ、女の子は。」
「へえ、勉強になるな。」
「ぷっ」
吹き出す麻美。怪訝そうな顔で三浦が尋ねる。
「どうしたの?」
「いや、『勉強になる』とか言うから・・・・・・」
「変かなあ。」
「そんな事ないかな。でも、先輩こそ、私服かっこいいです。」
「そ、そうかな。実はこれ、妹が選んだんだよ。いつものTシャツとジーンズで出ようとしたら、
『おにいちゃん、何考えてんの!デートにいくのに普段着って!』
とか怒り出してさ。
『これとこれ!で、これ!』
なんて、僕の持ってる服の中から選び出してくれたのが、これなんだ。」
「へえ、かわいい妹さんですね。一年生でしたっけ?」
「そう。バスケに入らなかったんだよねー。バレー部でがんばってる。」
「あれ?あたし知ってるかも。背の高い子じゃないですか?裕子ちゃん、でしたっけ?」
「うん。今百六十八センチだったかな。まだ伸びてるよ。」
「楽しみですね。」
「うん、楽しみだ・・・って何話してんだろうね。」
「先輩の事、よく考えたらあたし、よく知らなかったし。いろいろ聞けて楽しいです。」
「そうか、そうだよね。部活でしか顔を合わせない二人だし。お互いの事って、特に男子女子じゃ良く分からないのが当然だよなあ。
あんまり良く知ってても気持ち悪いけどね。」
「ですよねえ。」
「柚木か。後いくつかな。四つだ。静岡の映画館って、行った事ある?」
「いいえ、ないです。」
「そっか。ま、ぼくも一回しかないけどね。それも家族で。七間町のオリオン座で、タワーリングインフェルノを夏休み前に見たんだ。」
「わあ、あたしたちも見ました!清水でですけど。」
「へえ、例の仲間たちでかい?」
「え、ええ。そうです。悪友というか、腐れ縁というか・・・・・・」
「楽しそうな連中だよね。三年の中でも有名だよ。」
「バカな連中ですけどね。」
「僕もそんな仲間が欲しかったな。」
「え?」
「いや、なんでもない。さ、新静岡に着いた。ちょっと急いだほうがいいかな。劇場で飲み物とか買ったりするもんね。」
「そうですね。じゃ、行きましょう!」

「さ、映画館に着いたよ。入ろうか。」
「はい。え?あれって・・・・・・」
「どうしたの?」
「いえ、ちょっと知り合いに似た人がいたような気がして・・・・・・」
「どこ?」
「いなくなっちゃいました。」
「そう?さてと、何飲む?飲み物くらいおごるよ。」
「そんな、いけません、先輩。あたしたちまだ中学生なんですから。」
「いいじゃん、今日だけなんだから。僕の気持ちだよ。後で返せなんて言わないからさ。」
「そうですかあ?じ、じゃあ、コーラを、いや、ファンタグレープで。」
「わかった。おばさん、コーラとファンタグレープ、あと、ポップコーン二つね!」

【堂本・青石コンビ】
「さっきさあ、望月がこっち見てたような気がしたんだけど。」
「あれ?堂本君もそう思った?僕もちょっとそんな気はした。だもんでさっと隠れたんだよね。」
マクドナルドに到着し、注文した品をそろえて食べ始めた二人であったが、ハンバーガーを三個、フィレオフィッシュを二個、
ポテトのLをひとつ、マックシェイクを二つ抱えた青石を見て堂本が尋ねた。
「そうなんだ。お前もそう思ったか。ま、一瞬だから大丈夫だとは思うが・・・・・・
それにしてもお前、よく食うよな。小遣い、大丈夫なのか?」
「なんかさあ、二年になってから特にエンゲル係数が高まってるんだよねえ。ハンバーガー、おいしいねえ。」
ケロリとして食べ続ける青石。
「おまえ、シェイク二つ目って、気持ち悪くならねえのかなあ。」
「だって、バニラとストロベリーだよ?味が違うじゃん。」
「俺はムリだ。おねえさん、お水ってもらえる?ありがとう。俺はこれで十分だよ。」
「ポテト、残ってるよ。」
「もういいや。お前食えるなら食ってくれ。」
「いいの?サンキュー。いただきまあす。」
「うぷっ。ほんと、よく食うなあ・・・・・・」
 青石がすべてを平らげる頃、堂本が時計を見て言った。
「おい、そろそろだぞ。戻らないと。」
「そうだね。ちょっとまって、シェイク飲み切っちゃうから。」
「すげえな、ほんと。」
あれだけの食べ物がこの体のどこに収まったんだろう。
青石のスリムな体を見て堂本はそう思った。
「オーケー。行こう!」

【淳・純コンビ】
二人は寿がきやでラーメンを食べ始めた。
「この先割れスプーンだけどさ、この斜めに飛び出してるところが技なんだよな。※」
「まっすぐじゃだめなのかしら。」
「麺をすくいにくくなるし、スープも飲みづらくなるんだ。想像してみ?」
「んー。本当だ。そうだね。」
「ソフト、食うだろ?」
「ほんとにいいの?」
「任せておけいっ。」
「おばちゃーん、ソフトふたっつね!」
うれしそうにソフトクリームをなめる上田純子。
笑顔でその様子を見ながら、淳もソフトをぺろり。
「おいしいっ」
「ほんと、うめえな。」
「これ食べたら、そろそろ駿府公園にいかないと。」
「ほんとだ。いつの間にか結構時間たってんじゃん。ちょいと急ぐべえか。」
「ごちそうさまっ。じゃあ、行こうか!」
「おうっ。」
(※二○○八年一月現在ではかなりまっすぐになっていることを確認。)

【幸利】
zzzzzzzzzzzzzz・・・・・・
傍らにエースをねらえの十巻。

【後輩コンビ】
新静岡駅構内のトイレ。個室にこもるパートナーに外から声をかける柴田だった。
「茂田井〜〜〜。まだかよ。」
「わりい。マジ腹痛え。もうちょっと・・・・・・」
「しょんねえ小僧だなあ、もう。時間ねえから先行くぞ。改札前だんてな。」
「わかった〜〜〜踏ん張りきったら追っかけるから〜〜〜〜」

【絵里ちゃんと亮介】
「そういえばさっき、定時連絡で幸利君、何か言ってた?」
「いや、今のところ予定通りだってさ。あと十五分くらいで映画が終わる感じかな。それにしても、このサンドイッチ、
めちゃくちゃおいしいね。特にこのポテトサンド。たらこが混ざってるの?」
「そうよ。最近はまってるんだ、あたし。溶かしバターでたらこを解いて、マッシュポテトに混ぜるだけなんだけど、おいしいのよねえ。」
「へえ、簡単なんだね。うちでもやってみよう。双子が喜びそうだ。」
「そういえば双子ちゃんたち元気?」
「元気元気。来年あいつらが中学校に入ってくるかと思うとぞっとしないね。」
「そうかあ、もうそんななんだね。」
「あいつらの手前、あんまり馬鹿なことは出来ないな、なんて思っちゃう。」
「マイペースよ、マイペース。自分を信じて!あたしが見込んだ亮君でしょ?」
「言ってくれるねえ。まあ、変に意識するとかえってあいつらにも悪いからね。マイペースでやるっきゃないよ。
ご馳走様。本当においしかった。」
「そう言って貰えると作った甲斐があるわ。今度また作ったげる。」
「頼むよ。さあてと、待機場所に移動するかね。おっと、着信だ。はい、こちら亮介。どうぞ。」
(こちら堂本。ターゲットの映画館退館を確認した。尾行を開始する。通話状態維持のまま待機せよ。どうぞ。)
「了解。うまくやれよ。公園に到着したらこまめに連絡を。どうぞ。」
(了解。以上。)
「いよいよね。」
「いよいよだ。」

【ターゲット】
「先輩、実はああいうの苦手だったんじゃありませんか?」
真っ青な顔で足元も少々危なげな三浦を気遣う麻美だった。
「そ、そんなこと・・・ないよ。いや実に・・・面白かったじゃない・・・か・・・・・・」
「顔色、良くないですよ?」
「い、いや、もう大丈夫。」
「もう大丈夫って・・・・・・やっぱりさっきまでは大丈夫じゃなかったんじゃ・・・・・・」
「へへ。学年のヒーローとか言われながら、ざまあないや。」
「それにしても、あの音楽がすごいですよねー。迫り来る恐怖、っていうんですか?」
「ああっ。思い出しちゃう!しばらく夢に見そうだ。もう海になんて行かないぞ。」
「なんか、うれしくなっちゃう。」
「え?」
「いえ、なんでも。それより、おなかすきません?公園に着いたらお弁当にしましょ。食欲は大丈夫ですか?」
「ああ、少し歩けばすぐに戻るよ。僕がホラー映画苦手だってこと、誰にも言わないでよ。」
「大丈夫ですよ。みんなの夢は壊したくありませんからね。」
「ありがたい。回りの期待に応えるのって、結構疲れるから。」
「先輩、そうなんですか?結構自然体に見えてたんですけど。」
「妹の期待、部員の期待、先生たちの期待、いつの間にか周りのみんなに何かを期待されているような感じになっちゃったから、
なんとなく応えなくちゃいけないかな、ってね。中でもやっぱり一番の原因は妹かな。妹の期待するヒーローでいようとしてたら、
こんなんなっちゃったってわけ。まあ、口で言うほどがんばってるわけじゃないけどね。」
「て言うほどがんばっていないわけでもないんでしょ?」
「・・・・・・お見通しだね。やっぱ君は鋭いな。萱嶋も言ってたけど、女子部次期部長は決まりだね。」
「萱嶋部長が?」
「てか、三年生全員一致で君が次期部長だそうだよ。」
「全員一致、ですか。」
「そう。まあ、でも、君しかいないでしょ。そういえば小原先生、君んとこの担任?が言ってたなあ。」
「何をですか?」
「君を生徒会に欲しいって。そんな話、聞いてない?」
「それなら、先日お断りしたばかりです。」
「そうなの?」
「あたし、部活を優先したいので。生徒会との両立は無理だって、そう伝えました。」
「そか。安心した。萱嶋にも伝えとかないと。あのへんでお弁当にしようか。」
「いいですね。そう言えば朝から気になってたんですけど、先輩のその荷物って・・・・・・」
ただのデートにしてはかなり大きな三浦の荷物を見て麻美が言った。
「うん。お弁当だよ。今朝ちょっと早起きしてね、作ってきた。」
「うっわー、どれだけ完璧超人なんですか、先輩。」
「君のそれは?」
「お弁当です。あたしもちょっとがんばっちゃいました。先輩にも食べてもらおうと思って。」
「へえ、楽しみだなあ。ここがいい。敷物敷いて、と。うわあ、結構な量になっちゃうなあ。食べきれるかなあ。」
「あたしは大食いですからね。先輩だって、合宿のときの食べ方、半端じゃなかったじゃないですか。覚えてますよ。」
「実はその通り。これくらいなら問題ないね。君のそのサンドイッチ、きれいだねえ。何種類の具が挟まってるんだろ。」
「野菜中心ですけど、ちょっと変わったハムとかもはさんでみましたよ。それより、先輩のそのお弁当、
めちゃくちゃ本格的じゃないですか。お重ってなんですか、お重って。」
大きなかばんから登場したのは三段重ねのお重だった。
「弁当箱じゃたりなくてね。さ、食べよう!」
「はい、頂きます!うわ、おいしい、このお煮しめ!これも先輩が?」
「母親直伝だよ。夕べから仕込んでおいたんだ。うん、よく味がしみてる。そのサンドイッチもらっていいかい?」
「どうぞどうぞ。」
「おいしい!ただの野菜サンドじゃないね。なにこれ、ドレッシングで和えてあるの?」
「ピンポーン、正解です。母親直伝のオリジナルドレッシング。気に入っていただけてうれしいです!」
「さあ、どんどん食べよう!」
「はいっ」

【淳・純コンビ】
「こちら村中。亮チン、取れますか?どうぞ。」
(こちら山下。感度良好、どうぞ。)
「ターゲットは公園内でお弁当タイムに突入。かなりいい雰囲気だ、どうぞ。」
(阻止すべき状態か?どうぞ。)
「今のところはそこまでは行ってねーな、どうぞ。」
(了解。そろそろ合流して情報交換後、尾行を引き継ぐことにしよう、どうぞ。)
「了解。あっ!」
(どうした!)
「青石がターゲットに発見された模様!いったん通信を終了する。東御門方面にて待機、連絡を待て、以上。」

【堂本・青石コンビ】
「どうしよう堂本君。望月さん、こっちに手を振ってるよ。」
動揺しながらもマイペースな感じの青石に堂本が冷静に伝えた。
「いいから、あくまでも自然に応えろ。クラスの仲間と集まる事になってることにしよう。
あくまでも偶然だぞ、偶然ここにいたんだ、俺たちは。」
「う、うん。」

【幸利】
(そういうわけで、堂本・青石組がリタイアした。)
「そうか、わかった。連絡入り次第、みんなに伝える。」
(たのむ。淳には無線入れとく。他のメンバーはそのまま任務続行で。)
「了解。」
矢口高雄の「釣りキチ三平」が傍らに積まれている。

【後輩コンビ】
電話を切った柴田が茂田井に言った。
「おい、堂本先輩たち、三浦先輩に見つかったらしいぞ。」
「ほんとかよ。しょうがねえなあ。おれたちは任務続行でいいんだろ?」
「おう。なんかドキドキしてきた。」
「太陽にほえろっぽくね?」
「テキサス、しっかりしろよ!」
「山さん、勘弁してくださいよ。」
「なんつってな。」

【堂本・青石―ターゲット 青石視点】
「青石くん!どうしたー?何してるの?そっちは……堂本君?」
あちゃー。やっぱみつかっちゃったんだ。何とかごまかさないと。
「あ、あれ?望月さんじゃない。そっちこそ、どうしたの?こんなとこで会うなんて、ぐ、偶然だねえ。」
「堂本?どうしたっけだね。」
三浦先輩が怪訝そうな顔して堂本君に声かけちゃうしね。頼むよ堂本君。
「いやあ、三浦先輩。偶然ですねえ。いやね、今日クラスの奴らとこっちで映画を見る事になってるんですけど、
こいつ(青石)と早く来すぎちゃって、ここで時間つぶしてたんスよ。」
(ち、ちょっと堂本君、映画とか適当なこと言って大丈夫なの?)
(ええから調子合わせろ、すだこと言ってんじゃねえよ。)
「青石君、どうした?何ブツブツ言ってるだね。」
いけないいけない。自然に自然に。なんかつながないと。
「あ、いや、何でもない。そっちは何、部活の何か?」
(バカ、何聴いちゃいるだ。)
「い、いや、そんなんじゃなくて……ていうか……」
望月さんが顔赤くして困っちゃってる。いけない、追い詰めちゃったか?
「見てわかんない?デートしてるとこなんだけど。」
三浦先輩がげ、激白う?望月さんは目をぱちくりしてるし。
堂本君もどう返していいかわかんないみたい。どうしよう、作戦を続けないと……。
「ふふっ。デートとは言っても、僕が彼女に無理行って付き合ってもらってるだけなんだけどね。
卒業前に、思い出の一日を作りたくって、お願いしたんだ。」
やっぱそうだよねー、と安心しつつ望月さんを見ると、
あれ?何そのちょっとがっかり感漂う感じは?え?どういうこと?それって……
すると堂本君がこの場を逃れる一言を発してくれた。
「そっすかー。じゃあせっかくの機会を邪魔しちゃなんですから、僕等はここで退散しますね。
じゃあ、先輩たち、さよなら。ほれ、青石、いくぞ。」
「う、うん。じゃあね、望月さん、三浦先輩。」
「うん、じゃあね、青石君。堂本君。」
「悪いな、堂本。それから、青石君、だっけ?」
「うす。失礼します。」

「いやあ、ビックリしちゃったねえ。でもさ、思い出作りだって。三浦先輩言ってたね。これなら大丈夫なんじゃない?」
「馬鹿言っちゃいんな。お前も見ただろうが。その瞬間の望月の顔。」
「あ、やっぱりそうか。気のせいにしようと思ってたんだけど、堂本君もそう思った?」
「あんたは、鋭いんだかボケてんだか。おかしなキャラだねえ。でも、そうだとすると、村中の心配がズバリ的中ってやつじゃねーのか。」
「望月さんが傷ついちゃうって、あれ?」
「ああ。すぐに連絡だ。」

【淳・純コンビ】
「はいこちら村中。どうだった堂本。どうぞ。」
(お前の言ってたパターンBだ。今後の動きによりいっそうの注意を要する。どうぞ。)
「うむ。やっぱりな。ではあとは俺らが動きを見て山下組に引き継ぐ。亮チン、聞いてたか?どうぞ。」
(ああ、聞こえていた。東御門で待ってる。あと堂本たちだけど、まっすぐ新静岡センターに向かって、
後輩くんたちと合流しておいた方がいいんじゃないか?どうぞ。)
(堂本組、了解。まっすぐセンターに向かう。以上。)
(村中了解。以上。)
無線機をポケットに入れ、亮介が決然と言った。
「いよいよだ。ターゲットに見つからないように待機しなきゃ。」
「なんかドキドキしてきちゃった。太陽にほえろみたい。あの木の陰なんてどう?」
「うん、いいな。よしボン、気を抜くな。」
「はいっ、山さん!」
「ノリがいいねえ。」
「露口茂さん、渋いわよねえ。あたし大好きなんだ。」
淳から無線が入った。 (亮チン!ターゲットが東御門に差し掛かるぞ!俺たちは別ルートでセンターに向かうからな。どうぞ。)
「了解。後はまかせとけ!おっと、いよいよターゲットのお出ましだ。絵里ちゃん、いいね?」
「OK」

僕らはターゲットの尾行を開始した。

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