Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第二章 ともだち

【四】県大会で

八月十八日、僕らは静岡の駿府会館にいた。
今日は静岡県の吹奏楽コンクール、県大会の日だ。
我が清水市立富士見ヶ丘中学校も見事県大会に出場する事となり、
僕ら一年生は応援に来ているのだった。

朝から僕らは勉強もかねてすべての団体の演奏を聴いていた。
午前の部の演奏が終わり、休憩に入ったので、何人かでトイレに行こうとロビーに出たところ、
楽器を持って移動する先輩たちが見えた。移動路の一部がロビーの端を通っているのだ。
先輩たちはみな緊張の面持ちだった。
あの大西さんがニヤついてない。部長さんでさえいつもより硬い表情をしていた。

独特の雰囲気の中、僕たちの中で何かが少しずつ変わっていった。
各地区の代表の演奏を次々に聞くのだが、どこもものすごくうまく聞こえる。
地区大会とは比べ物にならない。
半分遊び感覚で部活に臨んでいた僕たち一年生だったが、少しずつドキドキしてきていた。
先輩たちの演奏順が近づくにつれてその今まで経験したことのないドキドキが増してくる。

とうとう先輩たちの番が来た。
課題曲を演奏する。
やっぱりうまい!でも、他の学校と比べてどうなんだろう・・・
自由曲になると、さらに素晴らしい気がした。でも他の学校もみんなすごかったし・・・

先輩達の演奏が終わり、僕らが感動していると、
自分達の後ろに座っている連中がこんなことを言い出した。
「やっぱ初出場だね。こりゃ良くて銀賞だな。」
そのあともなんだかんだと演奏にけちをつけてばかりいる。
どこの連中だ!と僕らはカンカンになった。
でも一年生なので振り返って文句を言う度胸は無かった。
すると、そのうちのひとりが、
「この調子なら今年もうちら島田西中が代表かな。」
と、学校名を出しやがった。
し、島田西中?全国大会にも出たことのある強豪校じゃないか。
そんな学校の部員達がこんな奴らだなんて!と、がっかりしたのだった。
今考えればみんながみんなそうだったわけじゃないと思うけど、
強豪校であればあるほど、思いやりとか何とか、演奏技術以外の部分もしっかりしていて欲しいな、と思ったんだ。
いつの間にか僕ら一年生はそれぞれが音楽評論家になっていたけど、
そんなこともあってみんなで「それぞれの団体のいいところを探そう!」と決めたのだった。

すべての学校の演奏が終わり、審査発表まで休憩となったが、
僕らはプログラムを見ながらああでもないこうでもない、
ここがいいあそこがいいと意見を述べまくっていた。

いよいよ発表である。金、銀、銅のいずれかの賞が必ず与えられ、
金賞を受賞した団体の中から三団体だけが九月に行われる東海大会に進めるのだそうだ。
僕ら一年生は先輩たちが金賞だと思い込んでいる。

いよいよ発表だ。
出演順に読み上げられていく。賞が発表になるたび、会場は歓声の渦となった。
「清水市立富士見ヶ丘中学校、銀賞!」
歓声と拍手が渦巻く。初出場で銀賞ならまずまず、といったところなんだろうが、
僕らにはそんなことは関係ない。金賞だと思っていたあんなに上手な先輩たちがどうして銀賞なんだ!
とブーイングの嵐である。女子たちは泣いていた。絵里ちゃんも泣いていた。
くやしいけど島田西中のやつらの言ったとおりになった。
(でも島田西中、ダメ金=東海大会にいけない金賞=で泣いてた。悪いけど同情しないぜ。)
先輩たちはそんな一年生に優しく声をかけてくれている。
壇上にいる部長の斉藤先輩と副部長の大西先輩は、笑顔で胸を張っている。

その日の学校に戻っての反省会で、三年生の先輩たちは笑顔と涙で後輩にエールを送ってくれた。
特に部長、副部長、パートリーダーの挨拶では下級生は泣き通しだった。
僕ら一年生も何かそんな雰囲気の中で「来年こそは」みたいな気持ちが胸の底に沸いてくるようだった。
とりあえず三年生も文化祭までは部活に参加するということで、
まだまだいろいろ教えてもらわなきゃね、と、ちょっとだけ成長した僕ら一年生は思ったんだ。

反省会が終わり、解散した後、例によって絵里ちゃんと淳、僕の三人は門のところでおしゃべりをしていた。
そろそろ帰ろうか、というとき、絵里ちゃんが言ったんだ。
「山下君、あのね・・・・・・」
「ん?何?」
「ヤングランドで山下君に言われたことだけんさあ・・・・・・」
ちょ、ちょ、ちょっと待った!横に淳もいるんだけど!こんなところでそんなこと・・・
「俺、先に帰ろうか?」
淳が言う。が、
「村中君ならいいよ。」
と絵里ちゃん。そう、なんですか?
「うん、あのことだけん・・・・・・」
僕の心臓は口から三十センチは飛び出していたと思う。
「よーく考えただけーが、山下君が、私のことを好きだってことじゃんね。」
いやどう考えてもそうとしか取れないと思うんですけど。
それにしても時間がかかりましたねえ。ご理解いただくのに。
「でね、実は私もあの時、あそこに山下君といられたことがうれしかっただよー。」
心臓はさらに五十センチ飛び出した。
「山下君って、私にとってかけがえのない・・・・・・友達なの。」
しゅううううううううううう。心臓もとにもどる。友達・・・・・・ですかそうですか。淳が目をそらす。
「友達っていうか、頼りになる仲間?っていうのかなあ、うーん、うまくいえないだけんさあ。」
しょうがない、大人になるか。
思いっきり笑顔で、こう言ってみた。
「光栄だな。そんな風に言ってくれると僕もうれしいよ。」
淳がちくっとこっちを睨む。絵里ちゃんがほっとしたような顔をした。
「よかった。あれからいろいろ考えたんだ。こんな言い方して山下君が私のこと嫌いになっちゃったらどうしよう、なんて。」
いや、それはありえないから。
「勉強のこととか、部活のこととか、いろんなことで相談できたり、お互いに向上できたり、
補い合えたり出来たらいいなって思うだよねー。そう、ある意味じゃライバルみたいな?」
そういうのって「付合ってる」って言うんじゃないんでしょうか・・・・・・いやいや、いいんだ、これでいいんだ。
「そうだね、これからもずっと。てか、あんまり深く考えずに、気楽にいこうよ。
大丈夫、僕らはそれでやっていけるさ。」
淳がまた睨む。うるさいっての。
「うん。よかった。これでちょっと安心した。ひとつ気持ちが軽くなった感じ。じゃ、またね!」
「うん。バイバイ!」

家に帰ってすぐ淳から電話がかかってきた。
「いい、わかってる。何も言うな。」
淳は黙ってなかった。
「お前さー。いつまでいい人やってるわけ?そうやって逃げてばっかいると
そのうち誰かに絵里ちゃん持ってかれちゃうぞ!」
別に逃げてるわけじゃないんだけど・・・
「いいや、逃げてるんだよ。しらっくら※してないではっきり好きだ!恋人になってくれ!って言えばいいのに。
拒否られるのが怖いだけなんだろ。」(※のらりくらりと、だらだら)
「うるさいな、いいじゃないか、頼りになる友達、ライバルで。それで仲良くやっていけるんだったらさあ!」
「そのうちさー、こんな事言われるんだぜ。『山下君、私、好きな人が出来ただけんどうしたらいい?』なんてな。
そしたらなんて答えるんだお前。」
わかんなかった。そのまま黙ってしまった僕に淳はこう言って電話を切った。
「お前ら絶対お似合いだって。村松神社の一件以来俺はずっとそう思ってる。
絵里ちゃんはもう以前の絵里ちゃんじゃない。お前がグイッと引っ張ってくれるのを待ってるにきってんじゃん※。」
(※決まっている)
ていうか中一の吐く台詞じゃないだろそれ。時々妙に大人びたことを言うよなこの男は。
「・・・・・・うるせーよ・・・・・・お前にゃわかんねーんだよ・・・・・・」
かろうじてそれだけ言うと、僕は電話を切ったんだ。

その夜僕はなかなか眠れなかった。
頭の中で、淳が僕を睨む顔、うれしそうな絵里ちゃんの顔、ヤングランドの夜のあのきれいな横顔、
部活の反省会での先輩たちの顔がごっちゃになってぐるぐる回っていた。

僕はこれからどっちを向いて歩けばいいのだろう。
ラジオでは糸○吾郎のオールナイトニッポンが始まっている。
ということは午前三時を過ぎたということだ。

「Go go go and Goes on!」って、吾郎さん、Go go goはわかりますけど、
「Goes on!」って何ですか。どうしてそこだけ三人称単数現在形ですか。
あーーーーーーわかんねーーーーー!

夏休みの宿題はまだまだ大量に残っていた。

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