Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第四章 変化

【一】新クラス

神様ありがとう。

僕は天を仰ぎ、いつもは見向きもしない神様に感謝の言葉を述べた。
天から「知らねーっつーの」と言う声が聞こえそうだ。

何しろこれは願ってもない展開である。
そう、二年になっても絵里ちゃんと同じクラスになれたんだ。
今度は二年三組。
担任は英語の加藤先生。四十過ぎのおじさん先生だ。
なんといっても字がでかい。っつーかバランスが悪い。
落ち着いた感じでとても頼りになりそうなんだけど、
いきなり自分で作った詩をプリントして配られたのには困った。
読んで説明してくれるんだけど、先生、あなたの詩は僕らには難解すぎます。
旧一年六組から来たメンバーは、僕と絵里ちゃん、石川と岩崎、佐島もいる。
そして山梨に鈴木、といったところだ。
部活で一緒のブー太、フルートの大竹やサックスの篠宮も一緒だ。
まだそれぞれの出身クラスごとにまとまっている感じだけど、
早いとこシャッフルしてみんなで楽しくやれるといいな。
淳と望月はクラスが別になった。
「亮チンこのやろう。羨ましいやつめ。」
その日の放課後、部活へ向かう廊下で淳がヘッドロックをかけてきた。
「これで絵里ちゃんと卒業まで一緒って訳じゃねーか。ああ、それに比べて俺は・・・・・・
見てて飽きない亮チンとも別れ、愛する麻美とも別々になり・・・・・・何たる天の配剤か!
神よ!お恨み申上げますぞ!」
また天から「知らねーっつってんの!」と言う声が聞こえた。
そう、僕らの学校では二年から三年は持ち上がりなので、ここで同じクラスということは、
卒業まで一緒、って言う事なのだ。わりーな、淳。
でも、幸利が同じクラスだろ。つーか見てて飽きないって何だ。

ま、淳とは部活も同じだし、淳を通じて望月とかとも遊べると思うし、
なんといっても同じ学校の中にいるんだから、別に問題ないさ、と肩を落とす淳を励ましてやる。
「そうだな。別の学校に行ったとか行かないとかそんな話じゃないしな。
まあ、俺と麻美を結ぶ絆は生半可なものではないからな。」
勝手に納得して頷いてやがる。愛する麻美だって?はいはい、ご馳走様です。
「そういえば、俺のクラスにいる中ム、亮チンと仲良いんだって?」
「は?なに、中ム、いや、中村がそう言ったのかい?」
「なに、違うの?」
「いや別に違うってわけでもないけど、特別仲が良い言ってわけでもないかな。」
「ふーん。そう。」
「なんでそんなこと聞く?」
「べーつーにー。」
「あ、わかった。お前、妬いてるんだろ。」
「は?何言ってんの?馬鹿じゃねーの?」
かわいいやつ。
「中ムも結構いい奴だぜ。お前さん得意の眼力であいつの力、はかってみろよ。
クラスの力になってくれると思うぜ。」
「ふん、そんなことわかってるさ。お前に言われなくてもな。ま、新しいクラスも俺のもんだ。
今年は俺もちょっと前面に出るよ。とりあえずは学級委員だな。」
へえ、どういう心境の変化だろう。
ちなみに、新しいクラスでは僕は学級委員に自ら立候補し、当選した。
絵里ちゃんも立候補しようと考えてたらしいんだけど、
同じ部活の篠宮が学級委員をやりたいといってるのを聞いて譲っちゃったとのことだった。
結局絵里ちゃんは放送委員になった。
お昼の放送で彼女の美しい声が校内に響くことを考えると、それも悪くないな、と思ったんだ。

第一回の学級委員会、そこに淳はいなかった。
あっさり中ムにそのポストを持っていかれた淳のセリフ。
「四人も立候補しやがったんだ。中ムとの一騎打ちなら勝てた自信はあるんだが、浮動票が他の二人に流れたらしくてな・・・・・・」
色々言っちゃいるが、要するに負けたんでしょ。
「まあ、そうだけどさ、そう言っちゃ身も蓋もないでしょ。」
でもそう言った淳の顔がそれほど落ち込んだ風には見えない。
やっぱりこいつ、自分に自信を持ってやがる。
僕だったらそう、二日三日は落ち込むところだ。見習いたいね。

「これで三年間一緒のクラスになるね。いろいろとお世話になります。」
絵里ちゃん、何を言ってるんだ。お世話になるのは僕の方で・・・・・・
「へへへ、なんちゃって。また楽しいクラスになるといいね。」
そう言って笑う絵里ちゃんの可愛いこと可愛いこと。去年一年間のいろんな想いが頭の中に浮かんで、
プチ感動状態の僕。
部活が終わったあと例によって校門前でおしゃべりタイム。
たまたま今日は絵里ちゃんと僕だけ先に来てたんだ。
ふと気が付くとあのおしゃべり絵里ちゃんが黙って遠くを見つめてる。
その横顔がまた可愛くて・・・・・・しばらく見とれちゃった。
しげしげと見つめる僕に気が付いて絵里ちゃんがまたしゃべり始めた。
「なに見てるー?おぬし、このわしに惚れたな?」
何を言い出すのか、この娘は。
「うん。惚れちった。」
自分でも恥ずかしくなることを口にしてしまった。
お互いに真っ赤になっちゃった。
「あ〜あ、暑い暑い。まだ春だってのになあ!」
びびった。淳、心臓に悪いぞ。イキナリなんだっつーの!
「イキナリじゃないよ。『おぬし、惚れたな?』のあたりからかな。」
また僕らは真っ赤になった。
「あんまりいじめないの。」
助け舟を出したのはやはり望月麻美だった。

「来週の部活紹介、吹奏楽は何をやるの?」
そうそう、二年生になった僕らには後輩ができたんだ。
新一年生が入ってきて、去年の僕たちみたいに部活を決めなきゃならない。
来週の部活紹介からいよいよ仮入部期間が始まる。
ま、部活見学はもう自由に始まっちゃってるんだけどね。
「あたしっちはね、アンサンブルをやるのよ。」
そう。新三年の先輩達と僕ら新二年のメンバーから何人か選抜してアンサンブルをやる。
まじめなアンサンブルは、部長を中心とした木管アンサンブル。
(管楽器には、フルート、クラリネット、サックスなどの木管楽器と、トランペット、トロンボーン、ホルンなどの金管楽器があるのだ。)
で、ちょっとふまじめ、っていうか遊び心のアンサンブルが、
美里先輩と僕がトロンボーンで、スズケンに山野先輩のトランペット、淳のドラムにブー他のベース、っていうバンド系アンサンブル。
ここはビシッと決めて新入部員を大量にゲットしたいところだ。
木管アンサンブルは格調高く「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」
で、お遊びアンサンブルは「ルパン三世のテーマ」
「ふふふふ。また俺のファンが増えてしまうな。」と淳。
いや、マジでこいつのドラムはハンパじゃなくうまい。
学校でもまじめに練習してるけど、家に帰っても例の離れでドラムの練習に励んでいる。
遊びに行ってノックしても出て来やしないことがままある。
「また、ってことは今でもたくさんファンを抱えてらっしゃるのかしら?」
と望月。
「いや、ま、なんていうか・・・・・・」
淳が小さくなる。この夫婦漫才もほんと、面白い。
でも実際、同学年でも隠れ淳ファンって奴は多いらしい。
中二にしてこんなにモテモテの淳って一体・・・・・・ていうか、まあ淳を知ってる奴なら分かると思うけどね。
でもこいつは望月麻美一筋。全く軸がブレないので、ちょっかいを出す女子もいないんだよね。

「とにかくあれだ。新しいクラスを盛り上げないとな。そっちはそっちでがんばれよ。
四組も負けないように盛り上がっちゃうからな。」
「おう。一の六魂は不滅だ。」
「一組だって負けないわよ。」とは小原先生と三年間一緒になる望月。
学年全体で盛り上がってやろうじゃないの!

その夜、淳から電話があった。
「おう、どした?」
「いや、別になんてことはないだけーが・・・・・・」
「なんだよ、気持ちわりーな。」
「最近さ」
「うん。」
「麻美が女っぽくなったと思わねーか?」
は?なに言ってんだこいつ。
「胸がさ、その、でかくなったっつーか・・・・・・」
そういわれて今日、しげしげと絵里ちゃんを眺めた時になんか今までよりきれいになったって言うか、
大人っぽくなったって言うか、そんなことを感じたのを思い出した。
「言われればそんな感じもするけど。」
「お前は絵里ちゃんに何も感じないのか?」
「何もって、何をだよ。」
「なんつーか、女をっつーか。」
「バーカ、女に決まってるじゃねーか。」
「いや、そういう意味じゃなくてだなー」
「なんで急にそんなこと言い出すんだよ。」
「今日の帰りにさ、麻美と二人で歩いてて、なんかドキドキしちゃってさ。
こう、なんていうの?ぎゅーっと抱きしめたくなっちゃったって言うか・・・・・・」
「おまえ!そんなことやっちゃったのか?」
「やってねーよ。抱きしめたとは言ってないだろ。抱きしめたくなっちゃったって言ったの。ちゃんと聞けって。」
「で?」
「で?とは?」
「それでどうした?」
「いや、そのまま帰ったけどさ。お前は・・・・・・」
「何だよ。」
「絵里ちゃんに対してそういう気持ちになったことはないのか?」
あった。あのヤングランドプールの一件以来何度かあった。淳にそう言ってやった。
「そうか、なんか安心した。」
なんだよ、安心って。
「俺がどうにかなっちゃったのかと思ってさ。この冷静な俺様が胸をドキドキさせて緊張するなんて事はあってはならないのだ。
麻美ともクールに付き合ってきたと思ってたし。」
正直驚いた。こいつもこんなこと考えるんだ。へえ。
「本質的に俺ってエロエロ星人なのかな、なんてな。」
「バーカ、なに言ってんだよ。岩崎が言ってたろ、男はみんなエロエロ星人。
俺だってさ、布団の中でいろんな妄想してたりするし。」
「俺はそんな事しねえ。」
「ば、なんだよこの裏切り者!」
「何ちゃって、なんか安心したよ。俺も毎晩麻美相手にあんなことやこんなことを妄想しちゃってる。」
「こんなこと言ったらあいつらどんな顔するかな。」
「麻美なら一旦目を丸くして、そのあと鼻で笑って冷たく見下す。」
「違いねーや。」
「絵里ちゃんならどうだろうね。」
「んーと、首をかしげてきょとんとするんじゃね?何言われてんのかわかんないみたいな感じでさ。」
「はは、ちげーねー。」
しばらくくだらない話をした後、電話を切った。
正直淳がそんなこと考えてるなんて思っても見なかったから少し驚いた。
けど少し安心した自分もそこにいたのさ。

淳と二人で出した結論。
やっぱり男だもん、色々考えるよ。平原先生も言ってただろ?
で、相手に対して思いやりを持って行動し、この恋と誠実に付き合っていこう。

うわあ、教科書みたい。って二人で笑ったんだけどね。

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