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おだっくいLOVE
第三章 めざめ
【三】小原先生特別授業第二弾
電話のあった翌日、六組の雰囲気は表面上冷戦状態のままだった。
望月の指導は行き渡っているらしい。一日その状態で過ごして、帰りの学活の時、小原先生が宣言した。
「明日の四時間目の道徳の時間は、学年全体での特別授業となる。テーマは『男女の性の違いについて』だ。いや、質問は無しだ。
前半は体育館で保健の先生から授業を受ける。学年全体でな。後半はクラスに戻って私が話しをする。以上だ。日直!」
「起立!きをつけ!礼!」
「さようなら!」
案の定、田代を中心として女子はかたまり、男子は男子で集まってひそひそやりだした。
田代が時々山梨を睨む。山梨は小さくなっている。
絵里ちゃんと目が合った。絵里ちゃんは目をそらさずに微笑んだ。
僕も微笑み返す。田代にはわからないようにね。
淳ももうぶそくった※顔はしていない。(※機嫌が悪い)
ざっと見渡したが、遠藤、石川、檜山の三人は昨日よりも明るい顔をしているような気がした。
夕べちゃんと話が出来たらしいね。
で、その日はそのままみんな部活へと散っていった。
ここしばらくの習慣で、僕も淳と一緒に、絵里ちゃんとは別に部活に行った。
次の日は朝から微妙な雰囲気だった。
田代が周りの空気を微妙に読み取っているらしく、時々首をかしげている。
なんだろう、この雰囲気、自分だけ取り残されているような・・・・・・
なんてことまで感じていたかはわかんないけどね。
四時間目は容赦なくやってきた。
整列して体育館へ移動する。
表面上は冷戦状態なので、我が六組は体育館の整列時も男女の列の間が広くあいている。
学年主任の加藤先生から今日の学年合同授業の主旨が説明された。
続いて保健の平原先生が壇上に上がった。
「はいこっちみてー。今日はね、みんなに大切なことをお話します。
中学校に入ってもうすぐ一年。みんなもすぐに二年生になるだよねー。
この一年間で、いろんな意味で成長してきました。
よく勉強したねー。あれ?三組の吉田は全然してないかー。(笑)
よく運動したねー。六組の高橋なんか、高飛びで百六十センチ跳んじゃったっけねー。(おおー―どよめき)
背も伸びたし、体重も増えたっけでしょ。
で、それ以外にもいろんな変化があったことと思います。
おーい、一組の山田!なーにくすくす笑っちゃいるだね!何を考えてんだ?(笑)
今山田が何を思って笑ったのか知らないけど、これから話すことは、本当に大事なことだから、
笑ったり馬鹿にしたりしないだよ。えーね。
みんなの周りには大きく分けて二種類の友達がいるよね。
男子、そして女子。
で、あちこちで、だれだれ君がかっこいい、とかだれだれちゃんがかわいい、とか、
誰が誰を好きだとか何とかやってるよね。
そう、男の子同士、女の子同士の友達関係とは違う、男と女の関係を意識し始めてるはずなんだ。
なあ、山下!お前も好きな女の子がいるら?」
いきなりびびるよ先生!聞くか?そんなこと。でも思わず言っちゃった。
「はい!」
ヒューヒュー!からかう声がとびかう。
「よく言った、山下。まあ山下だけじゃない。全員とは言わないけど、男子には好きな女の子が、女子には好きな男の子がいるはずだ。
ま、ちょっと意識してる相手、位の感じかもしれないけどね。
で、そういう感情が出てくるのは当然なんだ。
大人になって、好きな異性と一緒になって、子供が出来る。
ほら岩崎!ニヤニヤしない!さっき言っただろ?
で、その子供が大きくなって、また好きな異性ができて、子供が出来る。
そうやって人類は今まで来たんだ。そしてこれからもそうやって続いていく。
お互いに惹かれあって、一緒になる。
それがカップルなんだけど、これから成長していくみんなに是非わかっておいて欲しいことがある。
それはな、男性が女性を求める気持ちと、女性が男性に期待する気持ちというのが、必ずしも同じじゃないと言うことなんだ。
いいとか悪いとか言うことじゃあないだよ。
いいかね、男性は女性を、本能的に求める。女性を見て興奮するんだ。
ずっと見ていたい、触れたい、抱きしめたいと言う気持ちが先にたつ。
でも、いきなり女性を抱きしめたりしたらどうなる?」
「そりゃ痴漢だろ!警察に捕まっちゃうよ!」
「正解!その通り犯罪だよな。だから男性はその本能を『この子を大切にしたい』と言う気持ちで包むんだ。
その袋には、そうだな、『理性』と書いてある。
で、女性はどうか。もちろん好きな人に見られていたい、触れられたい、抱きしめられたい、
と言う気持ちもあるだけーが、それは普段、心の奥底に隠れている。
で、それよりも、好きな人と一緒にいたい、話を聞いてもらいたい、優しくされたい、といった、
雰囲気や二人の関係そのものを大切にしたい心が前面にあるんだ。
だから、その気持ちが満たされないと、心の奥底の抱きしめられたいと言う気持ちは出てこないだよ。
男子はここをよく覚えておきなさい。
いきなりキスなんか迫ったりしたら振られちゃうぞ!」
「先生!いくら僕らでもいきなりそんなことしないよ!」
「ちょっと刺激的なんですけどー!」
ちょっとざわざわが続いたが、平原先生は笑ってそれを制し、話しを続けた。
「で、女子。さっきも言ったように、男どもはビジュアルに弱いだよ。
もう、女の裸の写真とか見ちゃあ興奮しちゃいるだよ。
でもな、好きな女の子の前ではちゃーんとその本能に袋ー被せてるんて大丈夫だから。
エロ本の女の人とあんたっちはちゃーんと区別してるだよ。
ただな、女の子のほうでその袋ー破いちゃうようなことをしちゃうと、
簡単に男どもは狼に変身しちゃうんて気をつけなよ。
夏にな、露出の多い服ー着てたりするら。
そんな時に好きな男の子と二人っきりで薄暗いところ歩いたりしちゃいけないの。
あんたは誘っちゃいないだけーが、男の子にはそれがわかんないもんで、急に狼になったりするだよ。
な、ここんとこ、よーく覚えておいて。」
このあたりになると、みんな静かに聞いていた。
そのあとも、平原先生が時折面白おかしく、でも終始真剣な口調でぼくらに男女の性の違いと、
お互いにそれを理解し、性と言うものを大切に考えていかねばならない、と言うことを教えてくれたんだ。
全体会が終わり、クラスごとに教室へ向かう時も、どのクラスもみんな静かだった。
全員が席に着くと、小原先生が話し始めた。
「平原先生のお話はどうだった?君らにもわかりやすく、しかも詳しい内容だったから、先生から付け加えることはもうほとんどないな。
でも一つだけ君らに言っておきたい。今回のこの特別授業は、学年の全部の先生が、君たち六組の男女の為に計画してくれたことなんだぞ。」
田代が口をぎゅっと結んで目線を落とした。
「男子の例のエロ本事件以来、六組の男女の雰囲気は最悪のままここまで来たよな。各教科の担任からも指摘されるような状態だった。
この世には男性と女性しかいない。しかもその二つの性が協力し合わないと次の世代は生まれてこない。
これ以上いがみ合っていてもしょうがないんじゃないか?もうそろそろ山梨を許してあげちゃどうだ、田代。」
「なんで私が・・・・・・。だって・・・・・・不潔です!エロ本なんて、ひどいよ。私って者がありながら!」
やっと本音が出た。
「今日の平原先生のお話を聞いて、どう思った?」
「言いたいことはわかったけど、山梨君がそんなの・・・・・・見ちゃいやだ・・・・・・」
「そういうことだな。まさに平原先生が言った通りじゃないか。なあ、山梨。
これからはあれだ、そういうものは田代にわかんないようにみないとな。」
「へへへ。」
と山梨が照れ笑い。
「やーまーなーしー」
田代に睨みつけられて山梨がちいさくなる。田代がようやく笑った。
「先生、わかんないようにすれば、見てもいいってことっすかあ?」
岩崎がまじめに質問した。
「ばか。もののたとえだ。私だって女だぞ。なんて答えりゃいいんだ?」
みんなが笑う。田代が手を上げた。女子全体に向けて問いかける。
「でも、みんなはそれでいいの?男子を許してあげてもいいの?」
女子達がみな笑顔で頷いている。それが答えだった。
望月が立ち上がって発言する。
「真奈美、ごめん。もうみんな、あの件は許すことにしてたの。何人かと話しをして、それからその人たちにまた何人かに話しをしてもらって。
あとは真奈美だけってとこまで持っていってたんだ。」
「私だけ仲間はずれだったってことなの?」
田代の顔が険しくなる。
石川が立ち上がった。
「ちがうよ真奈美。あんたが一番仲直りしたがってることはみんなわかってたの。
だから、そのためにみんなが納得しておく必要があったのよ。麻美はあんたの為に・・・・・・」
田代がうつむく。涙がほほを伝った。
「真奈美・・・・・・ごめんね、あんたに黙ってこんなこと・・・・・・・」
望月があやまった。
クラスが一瞬シーンとしたが、すぐに田代が声を発した。
「ちがうの。わたし、うれしくて。ありがとう麻美、みんな。
あたし、なんかみんなの先頭を切って男子に敵対してたから、もうやめようなんていい出せなくなっちゃって・・・・・・
謝んなくちゃいけないのは私のほう。ごめんね、みんな。」
「いいや、悪いのは俺達男子だ。むしろ俺だ。調子に乗ってあんな本持ってきてみんなに見せびらかして、商売までしようとして・・・・・・」
バカ、岩崎!言わなくてもいいことまで・・・・・・小原先生がすぐに、
「岩崎、商売ってのは何のことかな?」
「はうっ。俺はまた余計なことを・・・・・・」
「後でじっくり聞かせてもらうことにしようか。ま、なにしろ今の岩崎の言葉を持って男子からの謝罪としようじゃないか。
田代、いや、女子諸君、そろそろ男子達を許してあげないか?」
「異論はありません。ね、みんな。」
と田代。
女子が頷く。望月も遠藤も、石川もそして絵里ちゃんも笑顔だった。
こうしてやっと六組に平和が戻ったんだ。
「今回はまあ、麻美のおかげだな。」
部活が終わったあとの校門での恒例のミーティングだ。
淳がそう言うと、ジャージ姿の望月がへへん、と胸を張った。
「どこかの頑固親父が意固地になるからねー。」
「俺はあんなのそんなに興味はなかったんだ。」
「もっとすごいの持ってるからでしょう?」
淳の顔色が変わった。
「げげっ。誰に聞いた?亮チン、裏切ったのか?」
「僕は何にも言ってないよ。」
「麻美、誰に聞いたんだ、それ?」
「へー。事実なんだ。」
「ええい!そうだよ!いいからニュースソースを白状しろって!」
「どうしよっかなー」
「麻美様〜〜〜〜」
だめだこりゃ。当分尻にしかれてるな。
絵里ちゃんと僕は目と目を合わせて笑った。
そんなこんなで最後にいろいろあったけど、楽しい一年六組の生活は終りを迎えた。
春休みが終われば、いよいよ僕らは二年生、上級生になる。
絵里ちゃんと一緒のクラスになれるかな。
「クラスが離れたって、大丈夫。あたし亮君のこと大好きだけん。」
ちょっと絵里ちゃん、臆面もなく衆目のもとでそういうことを言わない。
嬉しいじゃないか。
二年生になっても、そうそう楽には過ごさせないよ、と吹き過ぎる風がつぶやいた。