Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第五章 成長

【一】集団デート

空梅雨と言われてはいたけど、とっくに明けてるんじゃないか、と思われるほど、毎日暑い日が続いていた。
教室にはクーラーなどあるはずもなく、あと少しで溶けてしまいそうな状態で何とか留まって授業に臨んでいた僕らだったんだ。

「こんとこすげーあちーずら。三保のプール(※2006年閉鎖)もヤングランドプール(※1993年閉鎖)もうオープンするんて、
泳ぎにいくってのはどーだかね。」
淳の提案だった。
空梅雨とはいえまだ明けてないので、予定した日の気温が上がらないって危険もあるなあとは思ったが、
それ以上に絵里ちゃんの水着姿への期待が大きく、もうすでに僕の頭はプール一色になっていた。
「ここ一週間くらい暑い日が続くって天気予報で言ってたな。いいじゃん。今度の日曜日なんてどうかな。」
「よし、その線で行こう。まずあれだ、青石に電話してみそ。」
「うん。えーと、35‐28XXと。もしもし、青石さんのお宅ですか?ああ、青石?
デートのお誘いだ。」
(え?何?デート?僕、男とデートする趣味はないけど?)
「ちげーよ。今度仲間集めて遊びー行くだけん、お前も一緒に来ないかって誘ってんの。」
(どこに行くのさ。)
「文化ランドかヤングランド。泳ぎに行こうってことになってさ。」
(いつ?)
「こんだの日曜日。陸上部が休みだって事は調査済みだ。」
(幸利に聞いただね。まあいいや。誰ん行くだね。)
「僕と淳と、栗崎と望月だろ、幸利と遠藤にも声をかけて、あと篠宮。」
 青石の声の調子がいきなり変わる。
(行く!何があっても行く!親ん死んでも行く!)
「親ん死んだら来るな。まあでもそう言うと思った。僕らも応援するんて、頑張れよ。」
(うん。ここで決めなきゃね。ありがとう、喜んで参加させてもらうよ。)
「詳しいことは学校でな。」
(うん。じゃあね。)
 電話を切って淳に、
「オーケーだ。じゃあ、幸利と遠藤に連絡してよ。」
「ん。幸利に遠藤も一緒に来させろって言っときゃいいよな。」
「いいんじゃない。」
淳が幸利に電話した。
「行くそうだ。つーか、陸上部の練習が休みだもんで、遠藤を誘って何処かに行こうと思ってたらしいんだけど、
どこ行ったらえーだかわかんないっけもんでちょうどいいとかぬかしてたぞ。」
「よしよし。じゃあ時間と予算だな。」
「予算?」
「うちの親みたいにカネ出すときにその根拠を追求してくる親もいるかもしんない。」
「なるほど。先んずればなんとやらか。芸が細かいねえ。」
「生活の知恵と言って。」
「あんたんちのでしょ。おらっち親はその辺いい加減だからな。」
「八人か。結構な人数だな。どっちがいいかな、文化ランドかヤングランドか。」
「ここはやっぱ思い出のヤングランドでしょうな。七月十二日オープンだから・・・・・オイオイ初日かよ。混むんじゃねーかな。」
「混むっつっても真夏の混み方に比べればたいしたことないらしいぜ。よし、ヤングランドでいこう。」
「OK。じゃ、細かい時間とかだけど・・・・・」
あーだこーだ言いながらしおりを作っていると、途中で幸利がやってきた。
エンジェルのアルバムが手に入ったので持ってきたんだそうだ。
1曲目のTOWERSにぶっ飛びながらもしおり原稿をまとめる。
うーむ、パンキー・メドウズのギターがいい。
ギター、欲しいなあ。
でも次のお年玉まではおあずけだな。なんて思ってたら、いきなり淳が、
「亮チン、ギターやんない?うちのレスポール(モデル)しばらく貸すからさあ、練習しなよ。そうそう、幸利がベース買うらしいぜ。
そしたらおらっちでバンド組めちゃうぞ。」
「何、幸利、マジで?買ってもらうの?」
「こつこつとためた小遣いを使うときが来た。」
「いくら貯めたんだよ。」
「五万。」
すげーこいつ。僕の貯金って今いくらあったっけ・・・・・・一万円ちょっとじゃなかったかな。
ううむ、次のお年玉で買えるかなあ。
それにしても、いいのか?淳。結構いいギターなんだろ?
「いいんだよ。俺はドラマーだし、飾っておいてもしょうがないしな。ギターだって使ってもらったほうがうれしいに決まっている。
このまま飾っておくと化けて出てきそうで。」
「鬼太郎呼ぶわけにも行かないし。」
「そうそう。」
そうやってくだらない話をしながらすごす時間が僕はとても好きだった。
しおり原稿が完成して、淳のお母さんに挨拶してその日は帰った。
ギターは次の土曜日に借りて帰ることにした。うひひ、楽しみ楽しみ。
おっと、ギターもいいけど、もっと楽しみなのは、集団デートだな。

「なるほどねー。青石君が篠宮さんの事を。でもどうかなー、私、篠宮さんのことは良く知らないし。
絵里に相談・・・・・って言ってもねえ・・・・・あの子も天然だからうまくやれるかどうかわかんないしねー。」
青石の恋のサポーターとしてはなんとか周りに協力を仰ぎたかったので、とりあえず困った時の望月頼みで電話してみたんだけど、
感触は今ひとつだった。よく考えてみたら、青石も篠宮も、望月とは接点がないんだよね。こりゃ誤算だった。
「そっかー。そうだよなー。いや、ありがと。わりーっけねー、何でもかんでも望月に頼っちゃって。」
「頼られるのはぜんぜん構わないよ。でもさすがによく知らないひとっちの後押しはね、ちょっと無理かも。」
「うん、わかった。こうなったら僕と絵里ちゃんで何とかしてみるよ。」
「絵里に困ったら相談してって言っといて。少しくらいなら何か役に立てるかもしんないし。」
「ありがと。言っとく。じゃあね、バイバイ。」
「バイバーイ。」

僕としたことが。今年のテーマは「自立」だったろ?(いや、今決めたんだけど。)
さてと、どうしたもんかな。うーむ、こういう問題は実は苦手だったりするんだなあ・・・・・・
いつも人に後押しされる立場だったからなあ・・・・・・
そうか、自分がされてきたみたいにしてあげればいいんじゃないかな?篠宮と青石の今の状況はと・・・・・・

【青石】
・篠宮のクールな中にふと見せる笑顔に参ってる。
・渡部先輩をあきらめたばかり(とはいえもう結構たってるだろ)で、すぐに他の人に気持ちが移るような軽薄な人間だと思われたくない。
・篠宮の気持ちは知らない。
【篠宮】
・青石に気持ちがかなり行ってる。
・普段から男女わけへだてなく対するので、青石が特に好きなのかどうか、素人目には判断できない。
 けど絵里ちゃんに軽く見抜かれ、動揺して素でばらしちゃった。
・青石の気持ちは知らない。

ん?てことは、お互い好きあってて、そのことをお互いに知らないだけなんじゃん。
そか。特別なことはしなくていいんだ。
あいつらが二人になれる機会を作れば後は何とかなるんじゃないかな。
集団デートで混み混みのプールで、二人きり?
あれ?意外と難しいかも。
んー。
絵里ちゃんに電話してみよ。

「別にいいんじゃない?何もしなくて。」
あっさり言われた。
「青石君の言い方じゃないけど、無理してそこで『決め』なくてもいいじゃんねー。
楽しく過ごせて、相手のいいとこがもっと見えたなら、そのうちきっと気持ちを伝えずにはいられなくなるんじゃないかな。
逆にあたしっちが段取りしてあげることで改まって照れちゃって身動きが取れなくなっちゃったりしたら、かわいそうじゃない?」
やっぱ絵里ちゃん、天然と言うか自然体と言うか、よく分かってるな。
淳の真似して青石にいいとこ見せようとしてた自分が恥ずかしくなっちゃった。
絵里ちゃんにそう伝えると、
「いいじゃない。淳君たちにいろいろしてもらった分、青石君にも何かしてあげたかったんでしょ?それは決して悪いことじゃないわ。
でも今回は、篠と青石君を一緒に誘ってあげたことで十分なんじゃなあい?あたしはそう思うな。」
絵里ちゃんに限ってはそんなイメージが今まではなかったんだけど、今日は改めて女の子って大人だなあって思った。
てか、僕がお子ちゃまなのか?
「またそんな事言うー。そういうネガティブなところ、なくしなさいよね。」
望月に怒られてるみたいな感じだ。
「ふふふ、わかった?真似してみたの。本当は亮君のそんなところも大好きよ。」
すいません、電話のこっちで僕は真っ赤になってます。周りで誰か聞いてませんか?
「大丈夫、子機使って部屋で電話してるから。とにかく、篠だもん、大丈夫よ。青石君だって、
ああ見えて結構大胆だったりするかもよ?どうなるか見ててあげればいいんじゃない?」
そうだね。気持ちが少し楽になった。
せっかくのレクリエーションタイム、素直に楽しまなくちゃね。
「そうよ。あたしなんか楽しみで楽しみで。そうそう、新しい水着、買ってもらうんだ。」
おうっ。どんなんだろう。いかんいかん、妄想が・・・・・頭を振って妄想を振り払い、
「ありがと、電話してよかった。また明日ね。バイバイ。」
「バイバイ。」

電話を終えると、例のしおりを親に見せ、予算要求を提示した。
今回は提示した予算に加え、夏のボーナスとして二千円の増額があった。
うっひょー、シブチンのうちの親にしてみたら、これは大盤振る舞いなのでは?と大喜びした後、
このくらいの金額で大喜びしている僕を育てた親は相当な子育て上手なのではないかと思ったりもしたのさ。

当日、晴れ渡った空に、楽しい予感がした。
「あなた、おなか冷やしやすいんだから、気をつけなさいよ。」
ああでもないこうでもないと母親がうるさい。
この人は普段こんなことないのに何で今日はこう絡んでくるんだろう。と思ったら、
「あ〜あ、いいなあ、あたしも一緒に行っちゃだめ?」
と来た。だめです。何を言い出すんですか。本当に。
双子の部屋のドアが半分開き、中から二組の目が恨めしそうにこっちを睨んでいる。
昨夜は自分たちも連れて行けという双子を説き伏せるのにものすごいエネルギーを使った。
最後に父親の「いい加減にしないか!」の一言で黙りはしたものの、まったく納得などしていなかったことがわかる。
「じゃあな、行ってくるよ。」
と声をかけると、二人で舌を出して顔をしかめ、ドアを閉めてしまった。
しょうがない、何かお土産でも買ってきてあげよう。
「じゃあね、母さん、あいつらよろしく。」
「はいはい、楽しんでらっしゃい。淳君によろしくね。」
なぜ淳に?と思いつつ、
「はいはい、じゃあ行ってきます。」
と答えて家を後にしたんだ。
年季が入ってはいるが手入れが行き届いているので良く走る自転車を駐輪場から出すと、勢いよくこぎ始めたのさ。

梅雨が明けちゃったんじゃないのかと思わせるような夏の日差しがまぶしい。
湿った暖かい風がほほをなぜる。
青石と篠宮がどうなるか?みんなとどんなことをして遊ぶか?
そんなことまったく考えてなかった。
僕の頭の中は絵里ちゃんの新しい水着の事ばっかりだったんだ。
やーね、男の子って。
プールバッグが背中で揺れた。

ヤングランドに到着、駐輪場に自転車を停めた。ちょうど幸利が着いたところだった。
「おはよっ。遠藤は一緒じゃねーの?」
「車で送ってもらうっつってた。女子何人か乗せてくるらしい。」
こいつ、また背が伸びたんじゃないだろうか。僕が今170センチ丁度くらいだから、うん、明らかに180センチを超えてるよ。
「幸利さあ、また背が伸びたんじゃね?」
「うん。181になった。」
うわあ。それに加えて筋肉がしっかりついてきて、がっしりしてきたなあ。なんか、かっこいいぞ、男の僕から見ても。
「何言っちゃいるだ。」
わ、また珍しいものを見た。こいつ、照れてる。まあいい、集合場所に急ごうぜ。

入場門からチケット売り場の前に。幸利と二人で到着。ほぼみんなそろっていた。
「おはよう!あと誰ん来てないだね。」
望月がぶそくり加減で答える。
「淳のばかっさーだけだよ。」
チケットを先に買っておこうぜ、とみんなで列に並ぶと、淳がとんで来た。
「わりーわりー。寝坊しちまって!」
望月が淳を睨むと淳は僕の後ろに隠れて小さくなった。淳が
「見逃してくれよお」
とふざけて言うと、望月も、
「ほんと、しょんない小僧よね。」
と、笑顔で答えた。
みんなで入場チケットを購入し、ゲートをくぐる。
「じゃあ、着替えたら回るプールのこっちかたね。」
そう約束して、男女それぞれの更衣室に別れた。

「栗崎、今日のために新しい水着を買ったらしいな。」
着替えながら淳が言った。何で知ってるんだこいつ。そか、望月か。
「きってんじゃん。夕べ電話で聞いただよ。」
速攻で着替えた青石が言った。
「篠宮さん、どんな水着かなあ。僕としてはスクール水着でも十分なんだけど。」
十分って何だよ!とか言ってみんなで笑う。
幸利ですらニヤリとした。なんだ?遠藤の水着に期待してるのか?
「淳が何を想像してるか考えてな。」
幸利はそう言うと淳の股間を指した。
「なに?淳、なにてんぎってる※だね!」(※おっ立ってる)
淳が珍しく顔を赤くしている。
「バカ、健全な男子としてはだな、いろいろと想像した結果として当然の反応を示しているに過ぎないのだ!健康な証拠だろうが!」
なーに言ってんだか。このスケベ。
「ふはははは。しょんべんしてくるわ。」
淳、トイレにダッシュ。
そいつをおとなしくする手っ取り早い方法だな。

男子は着替えが早い。
淳がトイレから出るのを待って待ち合わせ場所に集合したが、女子が出てくるまではしばらくかかった。
冷たいシャワーを浴びてギャーギャー言ったりしながら五分くらい待っていた。
女子たちがやっと登場した。その瞬間、四人の男子は神に感謝した。
「神様、大変素敵な景色をありがとうございます!」
天の神様はまたまたあきれて、
「知らねーっつっとるだろーが!」と叫んだ(かどうかは定かではない。)

絵里ちゃんは素敵なフリル付のセパレート。
遠藤はサイドのあいたワンピース。
望月と篠宮はなんと、これはあれですか?ビキニというやつではありませんか?

驚いたのは篠宮のスタイルだった。
すらっとして手足が長く、バストとヒップがほどよく実り、なんというか、バービーちゃんみたいにかっこいいのだ。
青石、その馬鹿みたいに開いた口を閉じろ!
青石が口を閉じて、ごくりとのどを鳴らした。コラコラ、のどを鳴らすなよ。
その雰囲気を察してかどうか、篠宮が青石に聞いた。
「ちょっと背伸びしてこんなの買っちゃった・・・・・どうかな・・・・・」
青石は必死に普段の自分を取り戻そうとし、どうやら成功した様子で、
「いやもう、すごく似合ってる。すっげー可愛いよ!」
と、普段のこいつなら簡単には口にできないような台詞をするりと吐き出した。
宮が赤くなる。あらあら、余計な心配は必要なかったな。
「ちょっと、あんたからは一言ないの?」
望月が淳に迫る。
淳が真剣な顔をして言った。
「鼻血ブーだよ。」
なに言ってんのよー!と望月が淳をはたき、みんな笑った。
そのいとに※さりげなく絵里ちゃんに、(※その間に、その隙に)
「その水着、すごく可愛いよ。とっても綺麗だ。」
と伝えるのを忘れはしなかったさ。
絵里ちゃん、ほんのり赤くなって、いやいや、可愛いにも限度があるっつーの!
遠藤も背は低いんだけど意外に発育がよくって、幸利が照れまくっちゃってるのがわかる。

持ってきたボートや浮き輪にポンプで空気を入れまくり、準備が整った。
「いけないよ。準備運動をちゃんとしなきゃ。」
青石が言い出したので、みんな面白がって青石を中心とした半円になる。
青石が先導する準備体操をみんなでまじめに繰り返す。
結構真剣に青石が続けるもんだから小学生やもっと小さな子も真似を始めた。
気がつくとちょっとした体育の授業みたいになっていた。
青石も最後はその気になって、
「ハイ、では最後に深呼吸―」
なんて言ってやがった。なかなかやるやる。
準備運動が終わると周りから拍手がおきたりして、ちょっと恥ずかしい状況になったが、
青石の奴、調子に乗って手を振ったりして。こんなにノリの良い奴だとは思わなかった。

十分すぎるほどの準備運動を終え、僕らはまず回るプールに入った。
ボートや浮き輪に乗ったり、それにしがみついたり、わいわいキャーキャーいいながらただただ流れに乗って漂うだけだったり。
たまにもぐったり水を掛け合ったり。気がついたらあっという間に三周くらいしていた。
それにしても、間近で見るパートナーの水着姿は男子たちにとってすばらしい真夏のプレゼントとなっていた。
いやあ、息子さんの興奮を鎮めるのが大変でしたよ、とは淳が後から言った台詞。
まあ、水の中だから程よく静まってよかったけど。って何言わせんだ!

いったん水から上がってちょっと休む。なんとなくカップルごとに分かれて座った。
「見てみ、あいつら。」
淳が青石と篠宮を指さす。
「なんか、百年前から付き合ってるような感じじゃね?」
百年前ってお前。でも言いたい事はわかる。
すっげー自然にカップルだよ、あいつら。しかもお似合い。なんか僕まで嬉しくなる。
「絵里ちゃんの言ったとおりだったね。」
とバスタオルを羽織った絵里ちゃんに振る。
「でしょでしょ?お互いに好きなふたりだもん。くっつけてほっとけばなるようになるって思ってたんだ。」
くっつけてほっとけば・・・・・すごい言い方だけど、まさにそのとおりだ。
おーい、おまえら。俺たちは目に入ってるかー?

おいおい、遠藤!お前意外に大胆だな!
幸利にもたれかかって寝ちゃってるよ。
また幸利の余裕の顔・・・・・ってよく見ると緊張してる?
あまり表情が変わらないからわからなかったけど、緊張してるな、おまえ。
なんか知らんが安心した。

休み時間終わり。
「じゃあこんだぁ※バレーボールだ。」(※今度は)
という淳の一言で、ビーチボールを持って五十mプールへ。
結構混んで来ていたが、まあそこはやったもん勝ちということで。
なんとなく四人対四人に分かれ、バレーボールが始まる。
こういうときは幸利にはかなわない。
あの上背で、上からビシっと決められると、なす術がない。
遊びなんだからよー、もっと手ー抜いてーとは思うだけーが、こいつには通用しない。
と思ったら、力の加減が良く分からなかっただけだったらしい。
水の中で同じボールを追っかけるもんで、さりげないスキンシップがそこここであるんだな、これが。
いや、そんなことばっか考えていたわけじゃないが、まあ、その、男子だし。
とにかく盛り上がった。
おっと良いボールがあがった!と追いかけてボールに背面ジャンプで飛びついたら、
淳の奴もまともに飛びつき、二人同時に水に落ち、なんと唇と唇がジャストミートしちまった。
「うぇーっ。ぺっぺっ。」
立ち上がって二人同時にオエー。
みんなに爆笑された。
「はい口直し。」なんつって絵里ちゃんがキスしてくれれば良いのに、とか思ったが、
さすがにね、そこまではね。(あとで淳も同じ事を考えたと聞き、笑ったもんだ。)

梅雨明け宣言はまだだったけど、真夏を思わせる太陽が僕らをじりじり照らした。
この頃はまだ、子供の日焼けがどうのこうのとうるさいことも言われてなかったので、
何にも考えずに焼かれるがままだったね。

水中バレーボールを終えると、みんなでウオータースライダーに挑戦した。
今なら豊島園とかにすっごいのがあるけど、当時は目の前のそれしか知らないから、けっこうスリルを感じたもんだった。
結構並んだけど、並んでるときも僕らはしゃべり続け立ったので、退屈な思いなどまったくしなかったんだ。
滑り終えると、お昼にしよう、ということになった。
いちおうお小遣いは持ってきてたけど、どこの家も経済観念がしっかりしてるというか、全員弁当もちだった。
おかずのとりかえっこをしながらみんなでわいわい食べたのさ。

昼食を終えると、食休みだ。
プールサイドにバスタオルをひいてみんなでゴロゴロ。
「そういえば青石、陸上部って合宿とかやるんだろ?」
と、青石に振ってみたが答えがない。だめだ。篠宮とのお話に夢中でやんの。
はいはい、頑張ってね。いいや、幸利に聞くから。
「ねえ、幸利?」
幸利が答えた。
「ああ。やる。」
だめだこりゃ。会話にならねー。
「吹奏楽部はやらないの?」
望月が聞いた。
絵里ちゃんが答える。
「そうねー。今まではやってないと思うなー。今年もそんな計画はないみたい。バスケ部は?」
「今年もやるよ。河口湖で、二泊三日。八月の後半。お盆の後。」
「河口湖かー。えーなー。来年はうちもやらないかなー。」
望月が鼻でわらう。
「ふん。はたからみりゃ楽しそうかもしれないけーが、当事者にしてみれば楽しいどころの騒ぎじゃないだよ、それが。」
「へえ、そうなんだ。」
「そうなのよ。地獄の合宿って呼んでるよ、うちらは。とにかく練習練習また練習。
ご飯がのどを通らなくなる人や練習中に吐いちゃう人とかいるんだから。」
そうなのか。運動部ってやっぱちがうな。
いつのまにか青石と篠宮も会話に混ざっていた。
篠宮が聞く。
「陸上部の合宿もきついの?」
幸利が答える。
「きつい。」
青石がフォローする。
「去年は僕ら一年だったからそんなに感じなかったけど、やっぱゲロ吐いてる先輩とかぶったおれてる先輩とかいたね。」
絵里ちゃんがまたあの夢見るような目で言った。
「吹奏楽部が合宿をするなら、楽しい合宿が良いなあ。」
うん、そうだね。せっかくやるなら厳しい中にも楽しいのがいいよね。
顧問に相談してみよう、なんて本気で考えたりする僕だった。

「よーし、一泳ぎしたら着替えてお化け屋敷で締めんべ。どーする?回る?」
「回る回る!」
「よし、行こう!」
もって行ったわにさんボートと、バナナボートに浮き輪。
ビーチボールも持ち出してみんなで大騒ぎした。
もぐる、飛ぶ、水をかけあう。引き摺り下ろす、ひっくり返す。ぶつける。
可能な限り羽目をはずし尽くした僕らは、大満足でプールを引き上げたのさ。

水着姿もすばらしかったが、やっぱり私服もかわいいや。
着替えを済ませて僕らはスリラーハウス(お化け屋敷)の前に集合していた。
やはり仕切りは淳だ。
「じゃあさ、二人ずつって事で、最初はどのチームから入る?」
チームって、おい。別に対抗戦とかじゃないんだから。
「淳たちはどうなのよ。」
淳が照れ笑いで答えてみんなを笑わせる。
「もう、亮チンはァ。あんまりいぢめないで。」
そう、実は淳はホラー系に弱いのだ。
すると、青石が手を上げた。
「僕らが行くよ!いいよね、篠宮さん?」
「うん、行きましょ。よろしくね、青石君。」
おおっ!青石!すげー自然にいい感じじゃねーか!よかったな、オイ。(涙)
青石に目配せする。青石は笑ってうなづいた。

青石・篠宮コンビが手をつないで入場(よくやった。青石。えらいぞ。)、その後に淳と望月コンビ。
幸利と遠藤が続き、最後に僕と絵里ちゃんが入った。
案の定、遠くのほうから男の叫び声が聞こえる。淳に違いない。
「うふふ、また淳君叫んでるね。」
絵里ちゃんが去年の冒険を思い出しながら言う。
僕も今それを思い出していた。
「あいつの怖がりは直らないな。つーかあいつ、わざと怖がって望月に甘えてるじゃないだかね。」
「そうかもしれないね。」
と、会話をしながら歩いていると、怖いものに気づかずにどんどん進んじゃった。すると、
「ギャーッ」という大きな叫び声がして、これには驚いた。
びっくりした絵里ちゃんが僕にしがみつく。
うれしいけど、絵里ちゃん、ムネが当たってる・・・・・
つーか、いつの間にこんなに育ったのですか。
ってなにを言ってんだ僕は。今までにないどきどきを感じた。
そう、僕らは成長している。
女の子はどんどん魅力的になってくし、
僕ら男だって女の子ほど分かりやすくないけど、どんどん体は成長、変化しているんだ。
そんなことを一瞬考えた。
絵里ちゃんの胸の感触を頭の隅に押しやって言った。
「大丈夫、先に進もう。」
「ふえええ、こわいよう。つかまってていい?」
「いいともさ。さ、行こうぜ。」

やっとこさスリラーハウスを出ると、青い顔をした淳を先頭に、六人が並んで僕らを待っていた。
望月があきれた顔で言う。
「ほんと、他ではいろいろ頼りになるけど、これ(ホラー)系に関してはまったく頼りにならないんだからねー。」
淳が力なく笑うと、その様子にみんなが笑った。

ヤングランドを出ると、遠藤のお父さんが待っていた。
来たときと同じで、女の子を送って行ってくれるとの事だった。
「じゃーね、みんな、また明日ね!」
篠宮が窓から顔を出して元気に言った。
僕たちは手を振ってそれに答えた。

僕らはしばらく上原堤のほとりで語り合った。
「山下君、村中君、今日は本当にありがとう、誘ってくれて。」
青石がしみじみ言った。
「おかげで、篠宮さんに僕の気持ちを伝えることができたよ。」
僕らは目を輝かせて聞いた。
「てことは何?ちゃんと告ったの?えー?いつの間に?いやいやいや、それがあの篠宮の元気の理由かあー。」
青石が嬉しそうに言う。
「うん。プールのときから結構いい感じだったんだけどさ。」
そうそう、人の話も聞かないで二人で楽しそうにおしゃべりしてましたねー。
「そうだった?そんなつもりなかったんだけどな。でもそうかな。とにかく、いろいろ話が合っちゃってさ。で、スリラーハウス。」
おうおう。
「君らにとっちゃカップルで行動するのは普通だったんだろうけど、実は僕はあの時、すっごく勇気を振り絞って篠宮さんに声をかけたんだ。」
は?そうなの?あんなに自然な感じで声をかけてたのに?
「自分でもびっくりしてるけどね。で、ごく自然に手ーつないで入れたっけもんですっげーうれしかっただよねー。
でね、スリラーハウスの中で、僕らおしゃべりに夢中になっちゃって、怖いもの素通りしてどんどん進んじゃって。
その流れで僕、つい言っちゃったんだ。」
淳がわざとらしく言う。
「いい子だ。で、何と言ったのかな?おぢさんに教えておくれ。」
「うん。ストレートにね、『篠宮さん、やっぱり僕、篠宮さんの事が好きだ。僕とお付き合いしてくれませんか?』って。」
おー。思わずみんなで拍手だ。幸利も釣られて拍手していた。
「で?篠宮はなんて?」
「『うん。喜んで』だって。」
心のどこかでほっとするものがあった。
僕がそんな事思うなんて篠宮に失礼だとは思うけど、青石に感謝している僕がいた。思わず言っちゃった。
「青石。」
「なんだい?」
「よかったな。本当に。なんか僕、すっげー嬉しい。」
「ありがとう。君らのおかげだよ。なんていうか、彼女となら肩に力をいれずに付き合って行けそうな気がするんだ。
君らがこんな風にくっつけてくれたおかげでね。」
淳が言う。
「バーカ。セッティングはしたけど、勇気を出して気持ちを伝えたのはおまえ自身だろ。胸張れよ。自信もって付き合ってけよ!」
「へへへ、サンキュ。」
幸利も笑顔で青石を眺めていた。一言くらいしゃべれっつーの。

「それはそうとみなさん、どう思いましたかな?」
淳が顔を緩めて言い出した。
「どうって、何をさ。」
青石が聞きかえす。
「女子たちの水着姿ですがな。」
淳がエロ親父モードでもみ手。僕がちょっといい子になる。
「なんかいやらしい言い方をするねえ、チミは。いや、とっても素敵だったと思うよ。」
「このやろう、自分だけさわやかにまとめやがって。実際よー、麻美があんなに成長してるとはなー。オラ、びっくりしただよ。」
「そういえば、幸利が遠藤に寄りかかられて固まってたな。」
お?幸利の顔が赤くなった。今日二度目だ。幸利が言った。
「そういうとこばかり見ちゃいんな。」
青石が思い出しながら言う。
「そういえば遠藤さん、意外にグラマーだったねー。あの体格で砲丸投げの選手なんだから、すごいよなー。」
淳が突っ込む。
「あんたの篠宮さんもなかなかいいスタイルでいらっしゃいましたねえ。しかもあの水着。鼻血ブーですよね。」
青石も負けじと返す。
「鼻血ブーなら望月さんだって負けてないでしょ!」
「つーか俺たち、何言い合ってるんだろ。」
みんなで顔をあわせて噴き出した。
淳が真顔になる。
「女子も男子も体がどんどん成長するだろ。最近考えるんだけど、一緒に心も成長できてるのかな、俺たち。
平原先生じゃないけど、特に俺たち男子は心を成長させないと、あいつらに釣り合わねーんじゃねーかな、なんてな。」
「そうそう、女子ってなんか俺らより年上な感じがするよな。」
僕が同意を示すと、
「たしかにねえ。特に村中君と望月さんのところなんてねえ。」
青石がなかなかいい突っ込みをした。
「いや、でも淳が言うことはわかるね。僕ら男子は女子に対してすっげー興味があるけど、
紳士としての心の成長でそいつをカバーしないといけない、みたいな。」
「いろいろ?エロエロじゃねーの?」
淳がまぜっかえす。
「ま、エロエロ大王としての興味を無理やり押さえ込む必要はないと思うんだ。そんなことしたらどっかで変に爆発しちゃうだろ?
ただ、女の子の前では常に紳士でいたい、そんなとこだよな。」
「そうそう、そんでもって大人な自分も認めてほしい、みたいな・・・・・・」
そんな感じで話が盛り上がっちゃって、結局そこで一時間くらい過ごしちゃったんだ。

一段落したところで、淳が言った。
「さーて、これで後は夏に向けて部活に燃えなきゃな!」
その通りだ。三年の先輩たちのあれこれも落ち着いたことだし(※)、今年の僕たちは一味違うって所を見せなきゃ。(※番外編参照)
何としても地区大会をクリアして、県大会で島田西中を見返してやる。
去年の先輩たちを越えることが先輩たちへの恩返しだ。
すると珍しく幸利が声を発した。
「今年は県でベスト8以上に入るつもりだ。」
この男、密かに燃えていた!かっこいいぞこいつ。
まあ、一年で市のベスト3に入っていた実力者で、練習の虫と来ているからな。
もしかすると将来の日本を背負う逸材だったりして。
いやいやあながち冗談とも言えないぞ。
「僕もなんだか燃えてきたよ。」
校内の持久走では毎回余裕の一位の青石だが、春の市の大会でも千五百メートルで優勝した実力者だった。
なんだかすげーやつばっかだ。
「淳、僕らもやろうぜ。県大会金賞だ!」
「小さい小さい。夢は全国、普門館※だ!」(※東京杉並にある吹奏楽の聖地。中高の全国大会はここで行われる。)

よーし。この夏、燃えるぜ!

あれ?なんか忘れてんな・・・・・・
いけない、双子へのお土産だっ!買ってかないと!

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