Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE 番外編その7

スズケン
【三】 スズケン 恋と友情の狭間に揺れる

どうしよう・・・・・

この展開は予想だにしなかった。
川口がオレのことそんな風に見ていたとは・・・・・
ブー太になんて言えばいいんだ・・・・・

夏休みも終わり、二学期に入ると、吹奏楽部一年の練習も本格的になっていた。
夏のコンクールでは先輩たちが県大会出場、初出場銀賞という快挙を成し遂げた。応援に行ったオレたち一年部員の意識ははそこで変化したのだと思う。
練習により一層身が入るようになっていたのだ。

コンクールを通して二年生の先輩たちもものすごく力をつけていた。とくに山野先輩の音はますますクリアに、しかも幅広いしっかりした音になっていた。
もう誰が聞いてもうちのバンドではピカイチだ。それどころか、市内でもトップクラスだと思う。(県大会でもファーストを吹いていたしね。)三年の先輩たちも
納得していたっけ。これはもう、山野先輩の人柄だ。今はもう、山野先輩を一刻も早く追い抜きたい、そんな気持ちになっているオレだった。

ある土曜の午後のこと。
「よーし、今日はここまでにしよう。鈴木、名残惜しいが、ここまでだ。片付けよう。」
山野先輩に指名されてようやく気がついた。そうか、もう時間か。今日は家に帰ってもう少し練習しよう。山野先輩だけはオレのことをスズケン、と呼ばず、
鈴木と呼ぶ。
「鈴木、今年の夏は県大会どまりだったが、俺はな、お前たちと一緒なら、県代表で東海大会も夢じゃないと思っているんだ。」
山野先輩が楽器を片付けながら、真剣な眼差しで言った。
オレは嬉しかった。
そうじゃなきゃね。来年も県大会に出られるといいね、なんて言ってちゃ絶対に伸びない。最初から東海、いや、全国を狙うくらいの気持ちじゃなきゃ、
伸びて行けないって、オレ思ってたからさ。
「先輩、やりましょうよ。オレ、頑張ります。つーか、オレたち頑張って、絶対先輩と一緒に行きますよ、東海大会!」
「おう、言ってくれるじゃないか。力強いな。よし、この調子で気持ちの張りをしっかりもって頑張って行こうじゃないか。たのむぞ、後輩!」
田中も、川口も真剣にうなづいた。

その日の帰りだった。珍しくオレは田中、川口と三人で歩いていた。田中と川口はまあ女子同士いつも一緒に帰るのだが、オレは 大体いつもはブー太と二人で
帰ることが多かったのだ。めったに無いことだが、今日はブー太が風邪を引いて練習を早退したのだった。で、なんとなく流れでトランペットの一年が三人で
並んで帰ることになったのだ。

オレは小学校のときから女子に対して特別な意識は持っていなかったし、今もそうなので、女子の中に男子一人だからと言って特別な感覚はなかった。
練習もいつも一緒だしね。
すると唐突に田中がオレに質問を投げかけてきた。
「ねえ、スズケンって好きな子とかいるの?」
普通の男子なら(何こいつ、オレに気があるのか?)と赤くなるか、(なんだそりゃ。何かの罠か?)と警戒する所なんだろうが、
オレにはそんな感覚はもともとない。ごく普通に、
「いないよ。」
と答えた。でもって、これまた他意もなく、
「なんでそんなこと聞くんだ?」
と聞き返した。
「だって、ねえ。」
と言って、川口の顔を覗き込む田中。すると川口がほんのり頬を赤く染めたではないか。朴念仁のオレでもさすがにこれは気づく。
「何言ってんのよ、由美はもう!馬鹿!」
つーか川口、自分でダメ押ししてどうする。
すると川口、何かを期待するような目でオレを見て言った。
「気にしないでね。由美、冗談が好きで。ていうか、何?えーと・・・・・・」
田中はニヤニヤしているだけで、川口のフォローをしようって気も無いようだ。面白がってるらしい。
まあオレとしてはご期待に沿うようなリアクションもできないがな。
「そうか、わかった。」
この一言でこの件を終了させてやった。
だってそうだろ。オレには好いた好かれたなんて話、興味はないし、大体、この間ブー太にあんな話を聞かされたばかり出しな。

「あんたんとこの川口。かわいいと思うだろ?あんたも。」

ブー太の台詞を思い出した。
改めて田中とあーだこーだ言い合ってる川口を眺めてみた。
今まで気づかなかったが、こいつら、似てるな。背格好といい、髪型といい。まあ、よく見ると顔のつくりは違うんだが、雰囲気がな。で、川口が、意外と、
なんというか、かわいいな。うん。ブー太、お前の目は正しい。練習中は田中も川口も真剣な顔をしてるから、こんな色んな表情を持ってるなんて知らなかった。
おおっ、今のそのぷーっとふくれたその表情!カメラを持っていたら迷わずシャッターを押してその瞬間を切り取っていたに違いない。
・・・・・・ってオレ、何を考えているんだ?
と、その時田中と目が合った。
「ふーん。」
そう言ってニヤリとしやがった。不覚にもオレは赤くなってしまった。家に向かう路地に到着。助かった。
「じゃあな、また明日。」
「バイバーイ」
「さよなら」

手を振る二人。いかん、川口が輝いて見える。

え?何?これは何?

オレの恋人はトランペット。今まで女子など目もくれたことが無かったのに。
しかも相手は川口。ブー太の初恋の君だ。
自分がこんな状況に陥るとは、考えたことも無かった。
こんな事相談できる相手は・・・・・・いない。いるとすれば・・・・・・ブー太かよ!ダメじゃん。

家に着いたオレはメイドの南に何か聞かれたらしいがとんちんかんな答えで困らせたらしい。気がついたらオレは部屋で頭を抱えていた。

「何これ。恋ってやつ?」
ついさっき脳内フィルムに焼き付けたばかりの川口のふくれ顔を思い出す。
「坊っちゃん!健二様!入りますよ!」
いきなりドアが開き、南が入ってきた。
「なんだよ、いきなり入ってくんなよ。」
「何を仰ってるんです。何回お呼びして、何度ドアをノックしたと思ってるんです。」
うげ。気づかなかった・・・
「本当にドーナツにきな粉をまぶしてしょうゆをつけて海苔巻きにしていいんですか?」
「なんだそりゃ。」
「坊っちゃんが言ったんですよ、さっき玄関で。私が今日のおやつはどうしますかと聞いた時に。」
「え?そんな事言った?」
オレとしたことが。やはり川口ショックは大きいらしい。
「それより坊っちゃん。先程部屋に入った際に坊っちゃんがぼーっとして顔を赤くしていたように見受けられたのですが。」
し、しまった!見破られたか?
「熱でもあるんですか?具合が悪いならそう仰ってくださいね。体温計を持ってまいりましょうか?」
やれやれ、助かった。南にとってはオレはいつまでも小さな坊っちゃんなんだろうな。
「大丈夫、具合が悪いわけじゃないから。あと、ドーナツはプレーンで。なにもつけなくていいよ。」
「かしこまりました。ならばすでに用意はできておりますので降りてらしてください。」
「ありがとう。すぐに行くよ。」
南がお辞儀をして去りかけ、振り向いて言った。
「何かお悩みでしたら相談に乗りますので、いつでも仰ってくださいね。」
そう言い置いて部屋を出て行った。

やっぱ分かってたんじゃん!オレの赤い顔の意味!

そういうやつだった。わかってて知らん振りしてオレをからかう。南め。
待てよ・・・・・・
ならばいっそ、南に相談しちゃえばいいかもしれない。執事の中村では年を食いすぎていて多分話にならない。
その点、南はまだたしか二十代前半(本人申告)だし、年も近くてまたそれなりに経験もあるだろうから丁度いい。

食堂でドーナツを食べながら南に声を掛けた。
「南ぃ。後でちょっと部屋に来てくりょお。ちいっと相談したい事があるもんでな。」
南はにっこり笑って頷いた。読んでたな、この展開を。

南が夕食の支度に入るまえの時間をもらった。
とりあえず今日あったことをすべて伝える。加えて、ブー太から聞かされた話も伝えた。
「そういうことですか。恋と友情、どっちを取るかで悩んでいらっしゃるのですね。こいつは面白い、いや、大変ですねえ。」
「面白がってないで、何かアドバイスをくれよ。その年だもの、いろいろ経験があるんだろ?」
「『その年だもの』にちょっと引っかかりますが、いいでしょう。選択肢は三つあります。」
「ほう。」
「まずひとつ。早い者勝ち。」
「早い者勝ち?」
「そうです。ブー太さんのほうが先に川口さんに目をつけていたんだから、坊っちゃんは潔く身を引くのです。で、次が、初恋バトル。」
「初恋バトルぅ?」
「そう。初恋バトル。ぼっちゃんも川口さんに惚れたとブー太さんに告げ、宣戦布告の後正々堂々、二人で川口さんに猛然とアタックをかけまくるのです。
最後に告白タイムを設けて、受け入れてもらった方の勝ち。」
「どこかで聞いたことがあるような無いような・・・・・・」
「最後に、自己中心的解決。」
「なんかやな感じの名前だねえ。」
「とにかく、自分の気持ちに忠実に、ストレートに川口さんに気持ちを伝えてしまう。ブー太さんから聞いたことはとりあえず忘れること。
ただ、今回は川口さんがどうもぼっちゃんに惚れていらっしゃるようなので、あっというまに上手く行っちゃって、ブー太さんは一人取り残されることに・・・・・・」
「うーむ・・・・・・どれもなあ、考えちゃうなあ・・・・・・」
南がにっこり笑って言った。
「選択肢はその三つしかないのですよ。坊っちゃんが本当に川口さんを好きなのなら。あっちもこっちも丸く収めようなんて考えちゃダメですよ。
だれかがいい思いをするその裏には、必ず誰かが悲しい思いをしているんだと、そのことを忘れちゃいけません。」
「南もあった?いい思い?悲しい思い?」
「どちらもありましたよ。ぼっちゃんの倍近く生きてるんですから。じゃ、頑張ってお考え下さいね。」
にっこり笑って部屋から出て行ってしまった。

さあ、どうしよう。

今晩、ちょっと気合を入れて考えよう。

一晩考えて(とはいえ、おそらく十時には寝てしまっていたし、起きたのは六時だ。八時間は寝た。)結論を出した。

ブー太に正直に伝えよう。
遅ればせながらオレも川口の可愛さに気づいてしまったと。
でも、それが好きだとかどうとかいう感情と同じなのかはわからない、と。
その上でどうするかはブー太しだいだ。
川口がオレに気が有るかどうかだって、確かめたわけじゃないし。(ま、九割方確実だとは思うが。)今日の部活の後にでもちゃんと言っておこう。

学校に着くと、ブー太は既に教室にいた。
「スズケン、おはよう!」
うれしそうに挨拶を投げてくるブー太だった。 「おはよう。ブー太さあ、昼休みちょっと話んあるだけん、教室に居てくんないかな。」
「え、何、スズケンも?こまったなあ、先約があるだよねぇ。」
「は?先約?誰だね。オレ以外でブー太に大事な話んある奴なんているだかね。」
「ペットの田中に頼まれただよ。なんか大事な相談があるだって。友達の相談に乗ってやって欲しいとか言ってさ。」
ペットの田中、とは、トランペットパートの田中のことだ。吹奏楽部員はトランペットパートを、ペットとかラッパとか呼ぶ。そんなことはどうでもいい。
田中がブー太に何の用だろう。しょうがない。じゃあ放課後にしよう。部活の後でいいや。ブー太にそう言うと、今日は日直なので、職員室に日誌を取りに行く
オレだった。

昼休み、隣のクラスから田中がブー太を呼びに来た。あれ?後ろに川口もいるぞ。友達って、川口のことか?田中がちらっとオレの方を見て、意味深に笑った。

オレは特にやることも無かったので、バンドジャーナルを鞄から取り出し、読み始めた。

予鈴がなってもブー太は帰ってこなかった。
五時間目の本鈴がなって、先生が来たあとにブー太は現れた。
「すみません、おなかが痛くてトイレに籠ってまして・・・・・・」
さりげなく笑いを取りながら席に着くブー太が、チラッとオレの方を悲しげな表情で見たのをオレは見逃さなかった。
帰りの学活が終わり、皆が席を立って部活へと急ぐ中、ブー太を捕まえた。
「昼休み、何だっただね。川口、何だって?」
「別に、なんでもないよ。・・・・・・いや、なんでもなくも無い。て言うか・・・・・・なんで僕が・・・・・・ええい!ちくしょう!こんなのって、ひどいよ!
僕はどうしたらいいんだ!」
そう言うとブー太は鞄を掴んで教室から出て行ってしまった。

何が起きたのか分からず、その場に一人取り残されてしまったオレだった。

とりあえず部活に行かなきゃ、と、教室を出る。六組の山下たちがいたので、一緒に部活に向かった。ブー太はその日、部活に現れなかった。

練習が終わった後で、オレは田中に聞いた。
「なあ、昼休み、ブー太に何言った?」
田中が例によって意味深な笑いを浮かべて答える。というか、聞き返す。
「えー?何、ブー太から何にも聞いてないの?」
「聞いてないよ。帰りの学活終わって、『昼休みは何だっけだね。』って聞いたら、いきなり『何で僕が・・・・・・』とかぶつぶつ言って、帰っちゃったっけ
もんで何がなんだかわかんないままだよ。」
田中が川口と顔を見合わせる。
「なあ、何言ったんだ?」
田中が川口に言う。
「絵美、言っちゃっていいの?」
川口が真っ赤になる。俺の顔をチラッと見てから、田中に向かって小さく頷いた。
「じゃあ説明するね。実はここにいる絵美が、あんたのことが気になってしょうがないらしいの。」
川口はもう、ゆでダコの様になってうつむいている。田中が続ける。
「でね、ブー太に、さりげなくそのことをスズケンに伝えて反応を見て欲しい、できればスズケンの気持ちを聞いてみて欲しい、って頼んだの。」

あちゃー。田中、川口、やってくれちゃったよ。
ブー太的には最悪のかたちで失恋確定じゃんよ。

実はな、と、オレは二人に語ったんだ。

「ついこの間、ブー太からさ、『川口が気になってしょんない』って話を聞いたばかりなんだよ。そう。要するにブー太は川口が好きなの。
その川口からそんなこと頼まれちゃったら、ちょっとショックがでかかったかもな。」
川口が泣き出しちゃった。田中も泣きそうな顔をしている。
「あたしったら、何てこと・・・・・・」
「いやいや、川口、泣くこたあないよ。お前も田中も、そんなこと知らなかったんだからさ。」
「だって・・・・・・」
「大丈夫、あいつはあのブー太だぜ。明日にはもとのブー太に戻ってるよ。でも・・・・・・」
ふたりが怪訝そうにオレを見る。
「ホラ、田中の質問の答えだけど、その、オレが川口をどう思ってるか?わりーけど、ちょっと待ってくりょお。ブー太とちゃんと話してからじゃないと、
ちゃんと答えらんないもんで、な?」
ふたりは頷いた。

その日もラッパの三人で帰ったんだけど、誰も口を利かなかった。
分かれるときに「さよなら」って言っただけで。

さてさて、ブー太には何て言ってやったもんかなあ。

練習室でラッパを磨いていたら、南に呼ばれた。
「電話ですよ!望月さんって方。」
ブー太だ。うーん、何をどう話せば・・・・・・悩んでもしょうがないので、出た。
「もしもし。オレだ。どうしたんだブー太、今日は。」
「ごめんごめん。変な事言っていきなり帰っちゃったもんで、心配掛けちゃったと思ってさ。ちゃんと説明しようと思って電話しただよ。」
こういうところ、えらいよなこいつ。
「そうか。で、何んあっただね。」
「田中に呼ばれてただけん、川口も一緒だっただよ。でさ、友達のことで相談、ってのは、川口のことだったんだ。」
「そうか。」
「でね、相談ってのが・・・・・・川口に好きな人がいて、その人の気持ちを確かめたいんだけど、それとなく僕にその人の気持ちを聞いてみてくれないか、
って頼まれたんだ。で、その人ってのが・・・・・・」
「うん?」
「スズケン、君だったんだ。」
「そうか。」
ちょっと間をおいて、ブー太がオレに聞いてきた。
「君は、川口のこと、どう思う?」
オレは正直に答えた。
「可愛いと思うよ。でも、よく考えただけん、ものすごく好きだ、とか、恋している、とかいうのとはちょっと違うな。
『まだよくわかんない』ってのが本当の所だと思う。」
「そうなんだ。じゃあ、川口にそう伝えとくよ。」
「いや、その必要は無いんだ。実は今日、あいつら二人から今日の昼休みに何があったか聞いただよ。」
「え?じゃあ、僕のこの電話は無駄だってこと?川口はもうあんたの気持ちを知ってるってわけ?」
ブー太の声がちょっと荒くなった。
「ちょい待て。早合点すんなよ。お前から連絡が無かったらオレから連絡をとろうと思ってたんだよ。俺はまだ川口には何も伝えていない。
お前とちゃんと話をしてから答えるからって言ってあるんだ。」
「そ、そうなのか。ごめん、焦っちゃって。」
「いいって。オレだって正直どうしたらいいのかよく分かってなかったし。でもお前から電話をもらってこうやって話すことで、なんかはっきりしてきたよ。
明日、ちゃんと川口に話しをする。」
「なんて言うんだい?」
「正直に今の気持ちを伝えるのさ。川口のこと、嫌いじゃないけど、恋してるとかなんとかじゃない。これから先お互いのことをもっとよく知り合って、
その上で答えを出したい、ってところかな。」
「つまりどうなのさ。川口のこと、好きなの?」
「だーかーらー。好きとか嫌いとか今まで考えたこと無いっつーの。いきなりどっちか決めろって言われても困るだろうが!」
「そりゃそうだね。じゃあ、とりあえず僕の役目は終わったって事だね。なんかほっとしたよ。まあ、川口が誰のことを好きだって僕の気持ちが変わるわけじゃ
ないんだから。今まで通りっちゃあ今まで通りだ。」
「そうだな。その通りだ。」
なんとなく笑いあって受話器を置いた。

次の日の昼休み、オレは川口を呼んで話をすることにした。当然おまけの田中もついてきたけどね。
「昨日、ブー太と話をしたよ。あいつにはちゃんと説明しといたから大丈夫。で、肝心なオレの答えだけど・・・・・・」
ふたりがごくりとつばを飲むのが分かった。
「川口のことは可愛いと思う。でも、それはまだ恋とか何とかじゃないと思うんだ。オレ、お前のことそんなにまだよく知ってるわけじゃない。
今までそんな目で見たこと無いもんな。」
川口の目から涙がこぼれた。
「お前の気持ちを知った上でこんな事言うのはずるいかもしれないけど、お前のこと、もっといろいろ知った上で改めて答えを出したいと思うんだ。
それまでは今まで通り、いいパート仲間、部活仲間でいてほしい。こんな答えじゃダメかな?」
川口が泣きながら笑った。
「ううん、十分。私の気持ちをちゃんと受け止めてくれてありがとう。」
田中がフォローする。
「そうだよ。焦って答えを出す必要なんて無い。まだまだ先は長いんだから。そのうちスズケンも、あんたの魅力にまいっちゃうんだから。」
川口が吹き出した。俺も笑った。

ブー太。勝負はまだまだこれからだ。
お互い、頑張ろうぜ。

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