Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第四章 変化

【十】そして結果は!

各クラス、自主的な取り組みで学習効果をあげていた。
勉強だけでこれだけクラスが盛り上がるなんて、みんなも考えてなかったみたいで、
学年全体を不思議な一体感が包んでいた。

いよいよ明日から期末テストだ。
それぞれのクラスの学習会を終えた僕らは、例によって校門に集まっていた。
「ふっふっふっ。ま、この一週間でおそらく俺の四組が最も力をつけたのではないかな。」
淳がほくそえんでいる。
「僕もまったく同じ事を自分のクラスについて考えていたよ。」
僕が言い返す。
望月の顔つきからして、一組もかなりいい線いってそうだ。
絵里ちゃんが空を仰いでつぶやく。
「いままででいっちばん勉強した感じだなあ。なんか、点数とか順位とかどうでもいい感じ。
やるだけやったら気持ちよくなっちゃった。」
勉強して気持ちいいだなんて、おそらく全国の中学生の一パーセントにも満たない意見だと思いますよ。
僕には分かる感じがするけど。
何言ってるんだ!という人も多いとは思うけど、正直言って勉強が楽しいんだ、今。
知らなかったことが自分の知識になっていく快感、自分の持っている知識で問題が解けたときの充実感。
もっともっといろんなことが知りたいって気持ちが胸の奥からあふれてくる感じ。
これが大人までずーっと続いていけばノーベル賞だ。
(残念ながらそうは続かないんだけどね。)

「ところで淳、四組の連中に何やらせたんだよ。お前のクラスだけだぜ、僕たちのクラスの予想問題、もって行かなかったの。」
「ふっふっふっ。知りたいか?ネタを盗まないってんなら教えてあげなくもない。」
すると望月が冷ややかに言う。
「ずいぶん偉そうじゃないの。そんなんなら教えていただかなくても結構です。」
僕が追い打ちをかける。
「同感だね。僕らは僕らのやり方でやりますんで。」
「うそうそ、聞いて聞いて。聞いてくださいよー。」
しょうがない、聞いてやるか。
「あんたっちはもう、ほんとに一筋縄ではいかなくなっちゃって。かわいくないねー。」
「じゃ、帰ろうか、絵里。」
と望月。淳の負け。
「わかったわかった。話すから聞いて。わがクラスにはな、皆さんご存知の中ムがいるんですな。」
そんなことは皆さんご存知ですが。何か?
「いいから。聞けっつーの。俺は中ムを捕まえて、わがクラス独自の学習方法について相談したのだ。
その結果、中ムの使っている学習方法の中から、誰でも使える物を抽出し、全員にそれを課したのだ。
いやあ、右手が腱鞘炎になるんじゃないかと思うほどプリント書きまくりましたよ。
もちろん中ムも手伝ってくれたし、学習係も使ったけどね。」
なんだその中ムの学習方法というのは。どんなやり方なんだ?
「うむ。中ムはな、学習時間もさることながら、ポイントを抑えるのが実にうまいのだ。
で、どの教科でも、重要項目を五段階に分けてまとめる。
で、レベル1が終わったらレベル2という風に徐々にレベルを上げていくんだ。
今回、その各教科のレベル1からレベル3までの項目を中ムに教えてもらって、
そいつを俺たちがプリントにまとめた。」
なんつー細かいことを!それにしても恐るべきは中ムだ・・・・・
「いや実に分かりやすくてな。勉強が得意じゃねーやつも、レベル1だけでも覚えようと必死さ。
ポイントが絞られてるから、何をどうしたらいいかわかんねー奴も助かるってわけ。
担任にも秘密にしといたもんで、他のクラスにはばれなかった見たいだな。
どうしてもってやつには、中ムが時間をとってレベル4や5について解説してくれたよ。
あいつの教え方、下手すりゃあの村松先生をも超えるね。」
「うちだって負けてないわよー。三組にもらったプリントをもとに、やっぱりレベルに合わせてやりやすいように作り直してね。
結構みんながんばってやってくれたわ。」
ふむ。いい傾向だ。ま、僕らの頑張りに追いつけたかどうかは疑問だがね。
「そうやってみんな頑張ってくれたらまた勉強が楽しくなるねー。」
絵里ちゃんがほんわかと締めてくれた。
そうだよね。クラスで対抗意識を燃やすのもいいけど、
結局のところ、一人一人がどう伸びていくかってとこが大切なんだもんね。
と思ったら絵里ちゃんが続けた。
「でもやっぱり、結果も気になるよね。」
おいおい、最後にそれかい!
さあ、どうなる?いよいよ期末本番!

一日目、数学・社会・音楽
二日目、国語・技術家庭科・保健体育
三日目、理科・美術・英語

数学の問題が配られたとき、三組の全員が「よしっ。」と思ったに違いない。
吉竹が作った予想問題とほぼ変わらない問題がそこには並んでいたんだ。
数学が終わったあと、僕は吉竹とがっちり握手したのさ。
で、一年のときとは違った雰囲気がそこにはあった。
今終わった問題についてあーだこーだ言い合うのではなく、
次の教科のノートやプリントをじっくり眺めたり、問題を出し合ったりしてるのだ。
絵里ちゃんでさえ、そういう周りの仲間たちに問題を出してあげたりしていた。
いいぞいいぞ、みんな頑張れ!
お?篠宮と青石が問題の出し合いをしている。
あ、亀山がそっちをみてうつむいた。ここはちょっと声をかけとくか。
「亀、どうした?元気ないじゃん。」
いままでほとんど話したことがない僕からいきなり声を掛けられて、
亀山はちょっとびっくりしたような顔をした。
「い、いや、だいじょうぶだよ。なんでもない。」
声をひそめて言ってやる。
「篠宮だったら、今はフリーだぜ。」
「え?どうして・・・・・」
「おまえさあ、バレバレなんだよ。勉強会のときから。あいつが他の男子としゃべってるのを見るたんびに落ち込んでたらきりがないぞ。
あいつ、男子も女子も関係ねーから。」
「そういやあそうか・・・・・そうだよな!」
単純な奴。まあ、お前の恋の行方は加藤先生がすでに予測はしてるけど、ここはとりあえず応援しとくか。
「次は篠宮得意の社会だぜ。おまえ、あいつに教わってたろ。いいとこ見せないとな。」
「ああ。そうだな。」
もう目の色が変わってるよ。その調子で頑張ってくれ。
ちょっと小ずるい感じだけど、亀、許せ!

社会も問題の半分は予想問題と同じだった。
みんな結構やるなあ。
でも良く考えれば、試験範囲が決まってる以上、そこから出る問題も限られてるっちゃ限られてるんだよね。
問題はみんながそれをしっかり覚えようとしたかどうかだ。
で、今回の勉強会ではそれがけっこう出来たはずだ。

音楽は悪いけどはずさないよ。吹奏楽部員たる者。

二日目の保健体育ではみんなの興味は選択問題に集中した。
最初の六文字は決まっている。「コウチヨウハ」だ。続く文字は何だ?「タンソク」って・・・・・ひねりが足りないねえ・・・・・
で、選択肢に「ん」ってなんだよ「ん」って!

三日目の英語が終わると、みんなガッツポーズだ。
「やったー。わりーけん、今回は今までで最高点数をたたき出したと思うぜ!」
「気持ちいい!なんか『やりきった』って感じよねー。」
「後は夏休みを待つばかりだ!」
みんないい顔してる。
「中川!英語どうだっただね!」
大竹が速攻で中川に問いかける。中川は笑顔で答える。大竹がうれしそうだ。
亀山も笑顔だった。なんかやっぱり変わったな、あいつ。
帰りの学活で加藤先生から一言あった。
「みんなお疲れさん。今回はみんな、だいぶ頑張ったようだな。点数が出る前だが、私からは合格を出しておくよ。
必要な者には面談で伝えるべきことは伝えるから。ま、でもみんな、よくやったぞ。」
各教科の学習係の奴らの得意そうな顔をみて、僕も嬉しかったんだ。
「亮君、篠、部活に行こう!」
絵里ちゃんに呼ばれ、ぼくらは久しぶりの部活へと向かった。
学習会の成果、ちゃんとあったんだろうか。いやいや、不安に思う必要はない。
だって、みんないい顔してたじゃんねー。

翌日から次々にテストが返されて来た。
うわお。すげーよ、みんな。どの教科も学年平均より上を行ってるぜ。
三日後、全ての教科が返された。
やりましたよ加藤先生。全教科学年平均越え達成!

そして週があけて月曜日、いよいよ成績発表!
クラス順位は以下の通り。

一位 絵里ちゃん!五教科の合計がなんと二百三十八点!学年四位!
すげーぜ!とうとうベストファイブ入りだ!
二位 不肖、私こと山下亮介。自己最高点で学年七位!
三位 青石 学年十位 さすが青石だ。
四位 篠宮 学年十三位! こいつも自己最高更新だ!
五位 吉竹 学年十四位! 自分でもびっくりしてた。

五教科のクラス別平均点は次の通り。
教科1組2組3組4組5組6組
国語32.431.133.233.332.131.8
社会30.529.832.332.030.131.1
数学34.532.036.033.833.233.6
理科29.727.931.332.428.829.3
英語36.835.038.036.535.836.0
合計164.4155.8170.8168.0160.0161.8
やった!やりましたよ加藤先生!
みんな頑張った!
五教科中三教科で学年トップ!
残りの二つも学年二位で合計も四組を抑えてトップ!
数字の問題じゃないとは言っても、目の前に数字が出されちゃうとみんな喜んじゃうよ。
頑張ったことが結果となって返ってくると、こんなにうれしいものなんだ。
中川の英語なんて、なんと四十点だぜ!
加藤先生、大喜び。大竹も鼻高々。なんと言っても中川本人が本当に喜んでた。
亀山の社会も三十五点で平均越え。
今まで平均点なんて取ったことがないといっていた亀山なので、これも大喜びだった。
篠宮のところへ行って、顔を真っ赤にして「ありがとう」だって。
篠宮も罪な笑顔で返しやがって、亀、ますますその気になっちゃうぞ。

「何とか面目を施したよ。」
青石が額の汗を拭くしぐさをしながら言う。でもってごく自然に篠宮に話しかけてやがる。
「篠宮さんもずいぶん頑張ったみたいだね。」
「うん。なんか今回は今までと違う手ごたえがあったんだ。今回だけは待ちに待ったテスト、って感じだったもんね。
青石君も、今回はいつもの調子が戻ったみたいね。」
「うん。篠宮さんたちの頑張りが伝染したんだよ。クラスのみんなにね。」
「ふふっ。うれしいな。そういう風に言ってもらえると。」
そう言った篠宮の笑顔はとても素敵だった。青石が見とれてるよ。
おーい青石、バカみたいに口あいてるぞー。

その日の部活終了後、最近妙にいい感じの部長と美里先輩にさようならを言って、校門に急いだ。
でもその陰で海野先輩が泣いたのを僕は知ってるんだけど、その話はまた別の機会に。

「やられたなあ、今回は。やっぱあれだね、スタートの遅れが響いたね。」
淳が敗北宣言だ。
「うちも結構いい線行ってたんだけどなあ。ぜんぜん追いつけなかった。」
望月もだ。
「でもなんだかんだ言ってやっぱあんたっちだね。そこそこの線までもってくるもの。」
「あらあら、余裕の発言ではなくて?」
「そういう淳も、あんまり負けたって感じじゃないねえ。」
「あら、わかるかしら?奥様?」
冷静に考えれば、今回の結果は予想の範囲なのだ。
中間テストでは今回のベストスリーがサボってたんだし、第一クラス平均だって、そう悪くなかったのだ。
学年順位だけでざっとみた時に、さえなかったというだけだったんだからね。
「それにしても、いろいろ工夫したクラスが見事に点を稼いだね。やったその分が目に見える結果になると、こりゃ自信になるぜ。
今年一杯、安泰だよ。引っ張るほうは大変だけどさ。中ム様様だ。」
淳自身もベストテンに入る好成績を残しているし、望月もきっちり学年ベスト二十に入っている。
こいつらは安定しているよな。
「それにしても、中ム、とうとうやったね。五教科満点だって?」
「おう、ダントツ一位の二百五十点満点よ。あいつはすでに神だね。神の領域に入っちまった。」
手を合わせて拝んでやがる。それじゃ仏様だろうが!
「バーカ、日本人なら神仏混交だろ?神様仏様、っつーくらいで、おらっち日本人には両方とも大切な信仰対象なのよ。」
理屈である。
「それにさ、実技四教科だって、音楽に技術家庭科は満点、美術が四十八点で、保健体育だって四十五点だよ。いやいや、化けもんだね。」
神様か化け物かどっちかにして欲しいものだ。
「それにしてもあいつのレベルわけ学習法、ありゃいいぜ。勉強時間が大幅に短縮できる。余った時間を別の勉強に振り分けるのか、
それとも他のやりたい事をやるのかは人それぞれだけどね。俺は後者だったけど。」
それでもあれだけの結果を出すとは・・・・・中ム式学習法、恐るべし。次回までに研究させてもらおう。
一組、四組それぞれの学習会用プリントは担任を通じて入手済みだった。

「ねえねえ、テストも終わったしさあ、みんなで遊びに行こうよ。」
いきなり絵里ちゃんが言い出した。
「いいねえ。ところで、みんなって?」
「あたしっちと、麻美っちでしょ、あと篠とかも。」
「えー?あたしもー?いいよー。なんだかお邪魔じゃない?」
「なんで?青石君とか誘っちゃえばいいじゃん。」
ちょ、ちょっと絵里ちゃん、それって確信犯?それとも天然?
「え?何、どうして?青石君って・・・・・」
いや、そんな目で見られても。
僕は何にも言ってないし、第一篠宮だってはっきりと僕にそういったわけじゃないだろ。
「だって、最近なんか青石君と篠、いい感じなんだもん。」
篠宮、お前何赤くなってんだよ。認めちゃってるようなもんだぞ、おい。
「でも、青石君が・・・・・うんって言ってくれるかなあ・・・・・」
そいつは大丈夫だ。詳しいことはいえないけど、僕が保障する。てか、開き直りましたね。
「じゃあ僕が誘っておくよ。たぶんOKだよ。部活の予定とぶつかんなきゃね。」
「俺と亮チンでプランを立てるから、なんか希望があったら言ってくれ。締め切りは今日の六時までな。亮チン、今日寄れるだろ?」
「だいじょうぶ。あ、幸利と遠藤も誘わね?」
「声かけとくべ。」
「じゃあみんな、また明日ね!」
「バイバイ!」
淳、ここしばらく勉強ばっかで遊んでなかったから、しっかりプラン立ててしっかり遊ぼうぜ。
淳の家に着いたら自分ちに電話しないと。ちょっと遅くなるよってね。

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