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おだっくいLOVE
第五章 成長
【六】淳と麻美のリスタート
「そうかー。やっぱなんかおかしいと思っただよねー。二人の間にいちんち(一日)変な空気が流れてたもんね。
帰りのバスの中でも映画のことばっか話して男子の話になると黙っちゃうんだもん。
良子ちゃんといっぱい『?』飛ばしまくっちゃったわよ。」
家に帰った僕は、淳から聴いた話をもう速攻で絵里ちゃんに電話して話してた。
絵里ちゃんもやっぱあの変な空気は読めてたんだ。
篠宮もそうだっていうし、きっと青石もそうだったに違いないね。
「それにしても、淳君、やっちまったわねえ。亮くんは大丈夫でしょうね?」
「僕にそんな度胸があると思う?」
「わかんないわよぉ。淳君だって暴走する今日この頃なんだから。まったく、男って奴は!」
絵里ちゃん、面白がってるだろ。
「ふふふっ。わかる?だって、淳君と麻美だよ?完全無欠なカップルって感じだったじゃない?
それでもこんなことがあるんだって、ちょっと安心したの。そう思わない?」
いいたい事はわかるけど、淳にしてみりゃそれどころじゃないぜ。
「ふむ。それはそうよね。でも、亮君の読みというか、二人の読みは当たってると思うな。
あたしだって、亮君に今そんな風に迫られちゃったら突き飛ばしちゃう、きっと。なんていうか、
まだまだ準備できてない。そうね、あたしたち、まだまだ子供なのよ。」
で、どうしたらいいんだろう。
淳の奴にはとにかく今やるべき事をやれって言っといたけど。
「そうね、結局はそれでいいんだと思う。麻美も珍しく感情丸出しの物言いをしちゃったものだから、
いつぞやの真奈美みたいに引っ込みがつかなくなっちゃったんじゃないかな。多分時間が解決するとは思うけど、
その間に何があるか分からないし・・・淳と麻美の事を知ってて麻美にちょっかい出してる三年生がいるらしいからね。」
「マジで?そりゃやばい。いくら麻美だからって、今の状態だと・・・・・」
「あら、麻美はそんなに弱くないわよ。でも周りの噂って何がどう伝わるかわかんないでしょ。一方的に迫られてるだけなのに、
二人がどうこうって言う人もいるだろうし。」
そういうものかな。
「そうよ。特に女の子の口にはね、アンプとイコライザーがついてて、一が十にも二十にもなっちゃうんだから。
悪気なんか全然無しでね。気がついたらまことしやかな新事実が勝手に出来上がっちゃうのよ。」
なんて恐ろしい・・・・・
「そうなって、その噂が変に淳君の耳に入ったりすると、余計にややこしくなるでしょ。だから、
そうなる前に二人の関係を修復しておかなくちゃね。早速麻美に電話してみる。いい報告ができるといいけど・・・・・」
「よろしく頼むよ。淳にも、望月にも、返しきれない恩があるから。こんな時こそ少しでも何かしてあげたくてさ。」
「わかった。今日中に連絡できるかどうかわかんないな・・・・・十時過ぎたら明日電話するから。」
「わかった。じゃあね、バイバイ。」
「うん、バイバイ。」
とりあえず、待つしかない・・・・・
まったく、男って奴は!なんてちょっとだけ分かったようなことを言ってみる。
しょんないねえ、淳君。亮君は「自分は大丈夫」みたいに言ってたけど、
結局のところ男の子ってそんなことばっかり考えてるんだから、気をつけないとね。
麻美には本当にお世話になりっぱなしだったし、何とかしてあげたい。
でもちょっと不安なんだ。
余計なお世話にならないようにしないと・・・・
いやいや、よけいなお世話だなんて、気持ちは伝わるはずだ。相手は麻美なんだから。
意を決して子機を部屋に持ってきた。
「もしもし、あ、麻美?あたし、絵里ちゃんでえす。おげんこですか?」
「なによそのテンション。おげんこって何おげんこって。」
「えー?げんきに○こしてる?って意味でしょーが。」
「・・・・・用がないなら切るわよ。」
「用ならあるよ。あんたと淳君、変だったでしょ、今日。」
麻美が黙った。
もっとうまく言えるはずだったんだけど、麻美の機嫌にあわせて私も言い方がきつくなっちゃった。
「うまく繕ってたつもりかも知んないけど、あんたっちの間に流れてた微妙な空気にみんなが気づいてないとでも思った?」
あちゃー、こんな言い方するつもりじゃ・・・・
「だったら何なの?ひと他人んこんじゃん。ほっといてよ。」
少し間を置いて麻美が答えた。
そんな言い方されたの初めてだった。あたしは自分の頭に血が上っていくのを感じた。
だめ、だめだめ、冷静にならなくちゃ。
思い切り息を吸い込んで、静かに吐いた。
「聞いて、麻美。あんたっちふたりは、あたしっちや良子っちにとって、お手本ていうか、目標って言うか、そんな二人なの。」
麻美が不機嫌に口を挟む。
「勝手に目標とかお手本とか言わないでよ!どうしてあたしたちがそんな風に・・・」
「いいからまず聞いて。最後までちゃんと聞いて頂戴、お願いだから。」
麻美が黙る。私は話を続けた。
「あたしと亮君、あんたっちに助けられて今みたいになれた。あんたっちが後押ししてくれたってことだけじゃなくて、
あんたっち二人を見てて、男子と女子の素敵な関係がそこにあったから、あたしっちもそんな風になれるかな?自分たちで素敵な関係を作って、
そして周りにも楽しい雰囲気を分けてあげられるような、そんな二人になれるかな?っていう思いがあったからお付き合いを始めたの。
青石君と良子ちゃんたちを応援したのだって、あんたっちみたいなカップルになってほしかったから。せっかくお付き合いするんならね?
ううん、あんたが言うように、それは確かにあたしっちの勝手な思い込みかもしれない。でもね、そう思わせるだけのものがあんたっちにはあるのよ。
そのことをまず分かっててほしいの。責任を押し付けてるんじゃないよ。みんなはそう見てるってこと。」
麻美は黙っている。とりあえず聞いてくれてる、と理解した。
「でね、ここからが本題。実を言うとね、何んあったか亮君経由で全部聞いただよ。」
麻美がぽつりと言う。
「あんのガキぃ・・・・」
あわてずに私は続けた。
「そう。あのガキんちょは亮君に助けを求めたの。あのプライドの高い淳君がだよ?亮君、すごく嬉しかったんだと思う。
すぐに私に連絡してきて、真剣に相談してくれた。でね、亮君がこんな風に言ってたの。
麻美は淳君の事を嫌いになったわけじゃない、淳君が本来の淳君であり続けられれば、元通りになれるはずだって。
あたしもその亮君の意見に賛成。そうなんでしょ、麻美?」
答えがない。それを悪いサインとはとらずにあたしは続けた。
「で、あんなふうに淳君を拒絶した理由。あんた、びっくりしたんでしょ。自分が考えていた以上に淳君が男だったから。
男の子って女子よりもずっと子供だって思ってたんじゃない?」
「・・・・・・」
「今まで、淳君はあんたがイヤだって事を絶対にしてこなかったはずよ。それどころか、あんたがこうしてほしい、
こうありたいって方向でいっつも行動してたはず。それってすごいことじゃない?で、あんたにとってそれが当たり前のことに
なっちゃってたんじゃない?淳君が今まであんたにしてきてくれたこと、あんたが淳君と過ごしてきた時間の事考えたら、
一度の失敗くらい、許してあげられるんじゃない?」
「・・・・・・」
やっぱり答えがない。
言いたい事を一気に言ってしまったので、どうしよう、後が続かない。
この沈黙はいいサイン?悪いサイン?
どうしてあたしのほうがどぎまぎしてるわけ?
あ〜耐えられない!と思ったところで麻美が口を開いた。
「・・・・ってるわよ。」
声が小さくて聞こえなかったので、思わず聞き返した。
「え?何?なんて言ったの?」
「そんな事分かってるって言ったのよ!」
あれ?あたしが麻美を諭してるんだよね。なんで麻美に怒られてる感じ?
「あんたっちに言われるまでも無く、あたしはもう怒ってなんかいないわ。淳の事だって、前と同じように大好きよ。
ガキのくせにあたしの胸触ろうとしたからちょっととっちめてやっただけ。」
あらあら、さっきまで泣きそうな感じだったのに、すっかりいつもの麻美ではないの。
結局何、あたしと亮君の心配なんていらなかったってこと?
淳君を交えて麻美様の手の内で踊っていたと、そういう事なのかなあ。
「なあんだ、心配しただけ損した。さすが麻美、何もかも分かっちゃいたと。そーゆー事でしょうかねぇ、ご隠居?」
わざとおどけて見せた。
「まあ、そういう事じゃ。助さんも格さんも、まだまだ修行が足りんようじゃな。」
麻美にしてはすばらしい切り返しだった。
いつもなら、『すぐそうやっておちゃらける!』とか言って怒るくせに。
「でもよかった。麻美がいつも通りで。あたしっちが口を挟むこともなかったね!安心した。亮君に報告しよっと。じゃあ・・・・・・」
「待って。」
へ?
「ちょっと待ってって言ってんの。」
「何?え?どうしたー?待ってって、何を?」
「いいからそのまま電話切らないで!この大ボケとんちんかんの不思議系美少女!」
今度はあたしが絶句する番だった。え?何が起きてるの?麻美がキレた?
「麻・・・・美・・・・・・?」
「そうよ!びっくりしちゃったのよ!この私が・・・・・淳のキスごときにぼーっとして、そのときの雰囲気に流されそうになっちゃったなんて。
私は・・・・私自身がもっとしっかりしてると思ってたのに・・・・・ああ、悔しいったらありゃしない!淳の事が許せなかったんじゃなくて、
自分自身が淳と同じようなガキんちょだってことに腹を立ててたのよ!私は、みんなが思ってるほど大人じゃない、そうあろうとしてきたのに、
そうじゃない。そうなれない。なのにみんな私にばかり頼って、何かあればすぐに電話してくるし、クラスでも、部活でも。
淳だって私の顔を見れば安心した顔するし・・・・私は・・・・私はいったい誰を頼ればいいのよ!」
麻美が泣いてる。感情を爆発させて泣いてる。
どんな時でも相談に乗ってくれて、しっかり答えを出してくれて、時には先生にだって助け舟を出すことができて、
淳君と素敵な関係を作ってて、勉強もできてスポーツも万能で、クールでスタイルも良くて美人でかっこよくて。
時々お母さんみたいで・・・・・
でも自分の事はひとりで全部ため込んでたんだ。
そんな麻美が電話の向こうで泣いてる。
だめ、あたしの目にも涙があふれてきちゃった。
「ごめんね、麻美。いつも頼ってばっかで。麻美の中のそんな気持ちに気がつきもしないで。でもね、麻美、あたし嬉しいの。」
「絵里?うれ・・・しい・・・って?」
「へへっ。麻美がこんな風に感情的に自分をさらけ出してくれたのって、初めてじゃん?」
「・・・・・・そうだっけ・・・・・・」
「いっつもあたしが面倒かけてばっかでさ、麻美に何か相談されたことなんてないし。ねえ、麻美?」
「・・・・何?」
「あたし、あんたみたいに大人じゃないけど、(おっといけない、また言っちゃったね。)
あんたみたいにしっかりと答えてあげられないかも知んないけど、
聞いてあげることはできるよ。あんたが自分で答えを出す手伝いをしてあげることはできるよ。
・・・・・・あたし、あんたが大好きだよ。」
「えりぃ・・・・・・」
受話器の向こうでしばらくしゃくりあげる音が聞こえてた。
静かになった。
そして麻美が言った。
「あたしもだよ、絵里。」
それからあたしたちは一時間以上いろんなことを話し合った。
(家族からはブーイングがあがったけど、無視無視。後でちゃんと説明しとかないと。)
結局麻美は自分自身への不信感、わだかまりを払拭できたらしく、明日にでも淳君に電話してみると言った。
うまく仲直りできるといいな。いや、きっと大丈夫。
あたしはあたしで明日、亮君に報告しよう。電話で?
どうしよう、二人っきりで会いたくなっちゃった。
戸田書店で本を探して、すみやでレコード探し?
それとも静岡まで足を伸ばす?
ボーリング?
公園でおしゃべり?
でも雰囲気には流されないよ、亮君。そこんとこヨロシク。