Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第四章 変化

【四】すれちがい

篠宮は僕の姿を目にすると、絵里ちゃんになにがしか声をかけ、自席に戻った。
絵里ちゃんと目が合った。僕はおはよう、と喉まで出かかった声を飲み込んだ。
絵里ちゃんの目が笑っていない。篠宮の奴、一体絵里ちゃんに何をどんな風に伝えたんだろう。
違うんだ絵里ちゃん、別に何もなかったんだ、と言い訳をしようとしたんだけど、
言い訳をしようとしている自分にまた疑問を感じ、また言葉を飲み込んだ。
すぐに絵里ちゃんは僕から目をそらし、その視線を窓の外に移した。
どうして僕は絵里ちゃんに正々堂々声を掛けられなかったんだろう。
そのあたりを考え始めてしまい、午前中の授業は全く耳に入ってこなかった。
身に覚え?ないよ。
だってあのシチュエーションから考えて僕には何も変な考えはなかった。
何に対する罪悪感?
そう、あの瞬間の美里先輩にドキッとしたこと。
ちょっと待て、それって、僕じゃなくても感じたんじゃないのか?
あんな無防備な美里先輩を前にしてドキッとしない男なんていやしないだろう。
昼休みくらいになると、今朝の絵里ちゃんの態度に対して、
また、余計なことを言った(に決まっている)篠宮に対して、怒りがこみ上げてきたのだった。

「で?俺にどうしろと?」
淳が僕に聞いた。
いや、どうしろ、ということじゃなくて、今僕が言ったことに間違いがないかどうかを聞きたいだけだ。
「間違ってるかどうかなんて本人じゃなけりゃわかんねーら。だいたい、身に覚えがないっつーか、
恥じ入るべきことが何にもないっつーんなら、自分で絵里ちゃんにそう言やあえーに。」
そりゃそうなんだけどさ。
「だったらさっさと行ってこい。ほれ、絵里ちゃんが自分の席で外眺めてんぞ。」
そうそう、いつも通りいつも通り。何の問題もなし。意を決して絵里ちゃんのもとへ。
「絵里ちゃん、あのさ・・・・・・」
僕が言いかけると絵里ちゃんがいきなり立ち上がって教室から出て行ってしまった。
淳の顔を見る。肩をすくめて首を振っている。僕もどうしたらいいか分からなかった。
情けないことにね。
その時篠宮が教室に入ってきたので、僕は怒りの矛先をそっちに向けたんだ。
「おい、篠宮!」
僕の言い方がちょっときつかったので、篠宮は身構えた。
「何?どうしたの一体。」
「どうしたのじゃねーよ。お前、今朝絵理・・・・・・栗崎に何言ったんだよ。」
「は?何言ってんの?あたしは別に何にも言ってないわよ。今朝あんたが来た時には昨日のお笑いスター誕生の話をしてただけだし・・・・・・
ははあ、あんた、やっぱり昨日なんかあったんだ。」
どうも僕は藪をつつきまくって足元を蛇だらけにしたらしい。
「べつに・・・・・・何にもねーよ。」
「怪しいなあ・・・・・・ちなみに絵理、朝からずっとあんな調子だったんだからね。あたしが学校に来た時にはもうね。
変な勘繰りしないでくれる?失礼じゃないの。」
確かに普段のこいつのことを考えれば告げ口をするようなやつじゃないことはわかっていたはずだった。
僕は確かにおかしい。
「あの子に何があったかはわかんないけど、あんたに思い当たる節がないって言うなら、しばらく様子を見たら?
ま、あたしには関係ないけどねっ。」
そう言って篠宮は席に着いた。
その日、絵里ちゃんはまた部活を休んだ。

家に帰ってから、絵里ちゃんに電話をしようかどうか迷っていた時、望月から電話が来た。
「元気ー?はは、元気なわけないかー。あんた、絵理に何やっただねー?今日絵理いちんちおかしかっただって?」
クラスが違うのに何でそんなことわかるのかと一瞬思ったが、すぐに理解した。
「淳に聞いた?」
「そうー。昼休みに面白いもん見たとか言って色々教えてくれただけんさあ、あんた、何した?」
「何にもしてねーよ。」
「ふーん。これはまたあたしの出番かな?」
「出番?」
「絵理にそれとなく聞いといてあげる。」
「いつもいつもすまねーな。」
「それは言いっこなしよ、おとっつあん。はい、おかゆが出来たわよ。」
最近、望月のノリがいい。淳の影響か?
「たのむ。取り付く島がないんだ。」
「任せといて。じゃーね。」
「ああ、バイバイ。」
ここは望月に任せるしかない、そう思ったら少し気が楽になった。

「風邪、どうなの?今日も部活休んだだって?」
絵理の家に電話を掛けた。いつもと違って歯切れの悪い絵理の言葉から何かを引き出すために。
なんちゃって。とりあえず山下君の不安を取り除けるかな?
「うん。でももう大丈夫・・・・・・ていうか、風邪なんて引いてないんだ、本当は。」
来た来た。そんなところだと思ってた。
「ふーん。またなんでそんな。何んあっただね。」
しばらく受話器から声がしなくなったので、呼んでみた。
「絵理?絵理どうしたー?」
「麻美ー。あたし、駄目な子なの・・・・・・」
駄目な子と来たか。全くこの子は面白いねえ。
「駄目な子って、何がさ。」
「この間ね・・・・・・」
せっかく山下君と仲直りしたのに、その直後に渡部先輩が現れたのだという。
で、山下君はいつもの山下君だったのだが、謝っている渡部先輩の目がずーっと山下君を見つめていて、
言葉とは裏腹に山下君を意識しまくっていたというのだ。
「私のカンに間違いはないと思うの。渡部先輩、亮君のことを意識してる。」
「彼氏がモテるのは結構なことじゃないの。」
無責任に言ってみた。
「あたしだってそう思うよ。」
お?この子はまったく、よく恥ずかしげもなくそんなことを言える。
ま、私の彼のほうがモテると思うけど。おっと、今張り合ってどうする。
「だったら何?どうしてそんな落ち込んでるー?」
「だって、気になってしょうがないんだもの。美里先輩って、綺麗だし、あの胸でしょ?
男の子だったら誰だってまいっちゃうに決まってるもの。今に亮君だって・・・・・・
だもんでそれから亮君のこと直視できないだよー。」
「は?あんたそんなことで悩んでたの?」
私は呆れた。そんな今現在ありもしないことを想像して落ち込んでたっつーのかい。
ちょっときつく言ってやった。
「あんた、そんな勝手な想像で、山下君のことどれだけ心配させてるかわかってんの?」
「ふええええ・・・・・・」
「ふええええじゃない!マイペースな不思議系美少女の面影も何もあったもんじゃないね。今のあんた、あんたらしくないよ。
そんなんじゃ山下君も逃げてっちゃうよ!」
ん?不思議系美少女?そういえば渡部先輩もまさにそうだ。
いや、まあ山下君ならそんなことありえないけどね。絵理一筋だし。
でもそのくらい脅かしとかないと今のこの子はいつまでたってもうじうじしっぱなしだろうし。
それにしても恋をすると女の子は変わるねー。これじゃその辺の女の子と変わんないじゃない、絵理。
淳の時はこんなんじゃなかったと思うだけんねー。
ま、あの時はまだ子供だったのかな。今だってまだ中二だけどね。それだけ本気だってことか。
「いいから明日学校で山下君に会ったらちゃんと挨拶しなさいよ。明るく『おはよう』って言ってあげればすべてOK。
元通りになるから。いいわね!」
「わかった・・・・・・ふえええん・・・・・・ちゃんと・・・・・・ふええ・・・・・・やるから・・・・・・」
この娘、やると言ったらやるから大丈夫だろう。まったく、世話が焼ける。
以前は淳のことがあったから面倒見てあげようって思ってたけど、なんか面白くなってきちゃった。
この子の面倒を見るのが。
ていうか、この子達だね。山下君、あんたもだよ!
とりあえず、淳に電話しておこう。

「おう、わかった。サンキュー。ホントめんどくさい二人だよなー、あいつら。」
「でもさ、周りに波風立ててくれちゃう人がいるもんであんなんなっちゃうんじゃない?
そういう意味ではうちらの周りにはそういう人がいないから。」
「バーカ、俺なんて何があったって麻美一筋だから大丈夫だっつーの。」
「ま、わかっちゃいるけんね。」
自信たっぷりだな、こいつは。
ま、でもいつもながら望月には助けられる。
まだ八時か。亮チンに電話しても平気だな。しょうがない。電話してやろう。

「もしもし、あ、僕、富士見中でご一緒の、はい、村中です。亮くん、います?はい。お願いします。」
あいつのお母さんにはなぜか受けがいいんだよな、俺。
「もしもし。」
亮チンだ。
「こんばんは、糸井五郎です。」
「淳か、どうした?」
「あ、気圧が低いねー。絵里ちゃんに無視されちゃいましたもんねー。」
「切るぞ。」
「いいから聞けって。さっき麻美から電話が来た。」
「え?何だって言ってた?」
急に態度が変わりやがった。現金な奴だ。
「態度をころころ変えるやつには教えてあげない。」
「わりいっけ。もうしないから教えて。」
しょうがない、教えてやろう。
麻美から聞いたことを正確に伝えてやった。
「あした絵里ちゃんが挨拶したらちゃんと笑顔で答えてやれよ。」
「わかった。サンキュー、ありがと。麻美っちにもよろしく!」
高気圧だ。さっさと電話を切りやがった。
ま、いいか。うまくやれよ。
それにしても、あいつら、俺と麻美がいなかったらとっくに崩壊してんじゃねーの?
もう少ししっかりしてもらわないとな・・・・・・
あ、幸利が来た。エアロスミスのアルバムを持ってきてるはずだ。さーてゆっくり聞かせてもらうぜ。

淳からの電話でいよいよ心が安らいだ。
明日、絵里ちゃんに会ったら、いつも通りで行こう。てか、いつも通りでいいんだ。
それにしても、淳と望月のコンビには世話になりっぱなしだ。
そろそろ楽にしてやんないと。
僕がしっかりしなきゃだな。

これでもう大丈夫、と安心していたのにね、あんなことが起こるなんて・・・・・・


【五】はじめての・・・・・・?

次の日、早めに学校に行った。
教室にはだれもいなかった。おそらく第一位での入場だ。
かばんの荷物を机に移動し、かばんをロッカーにしまう。
出しっぱなしの箒を掃除用具入れに戻す。
日直でもないのに背面黒板の予定表に今日の日付と曜日を書き入れた。
絵里ちゃんを待つ。
三人、四人と生徒は増えるがなかなか絵里ちゃんが来ない。
今日に限って珍しく遅いじゃねーか。と思ったら来た。
目が合った。
絵里ちゃん、にっこり笑って、鈴のような声で
「おはよう!」
いつも通りだ。僕も笑顔で挨拶を返す。
ほんとに淳と望月にはいくら感謝しても足りない。
あいつらにはいつか何かお返しをしてあげないと。
「風邪、大丈夫?今日は部活、出られる?」
「うん。大丈夫。部活もOK。ごめんね、いろいろ。」
「ううん。そうやって言ってくれるだけで、僕は大丈夫だから。」
色々考えて、自分にも後ろめたい部分があった事はあったけど、そんなこと蒸し返してもしょうがないので、
その部分には触れないことにした。後で淳にそのことを言ったら「正解!」とか言ってたっけ。
その日一日、地獄から天国に戻ってきた気分だった。(ちょっと大げさ)
またこれで楽しい日々が続く・・・・・・はずだったんだけど、そうは行かなかったんだ。

「よし、じゃあ今日はこれまで。」
顧問の小清水先生が部長を見る。部長の杉山先輩が号令をかける。
「気を付け!礼!」
「ありがとうございました!」
今日の合奏はなかなかよかった。
小清水先生も珍しくほめてくれた。
この先楽しみだなんて言ってくれちゃった。
みんな結構いい気分で練習を終えたんだ。
練習終了後、当番が練習場所と部室の掃除をするんだけど、
今日の部室掃除は僕らトロンボーンパートだった。
部活紹介以後ちょっとごたごたしたけど、その後美里先輩はすっごく普通で、
いや、普通でってのは、美里先輩として普通、つまり普通に天然、ってことで・・・・・・
とにかく以前の美里先輩でいてくれてたんだ。
だから、あんなことになるなんて思ってもいなかった。
掃除が終わると、パートリーダーが掃除箇所を確認して、日誌を付ける。
その日誌を小清水先生に届けて全て終了となる。
通常はパートのメンバーは掃除終了で帰っていいことになっているのだが、
今日は美里先輩に
「ちょっと頼みがあるんで、部室で待っててくれ。」
と言われた。このところごく普通の美里先輩だったので、特に何も考えずに了承した。
「すまんすまん、待たせたな。」
「お疲れ様っす。で、なんですか?頼みって。」
「うむ。ちょっとな・・・最近のトロンボーンパート、どう思う?」
どう思うって、みんな結構やる気があるし、一年生もがんばってると思いますけど。
何でそんなこと改めて聞くんだろ。
「そうだよな。そうなんだよ、うん。」
「美里先輩?」
「山下、ちょっと姿勢を正して。そう、ちゃんと座って。背筋をもっと伸ばす。
そうそう。よし、そのままちょっと目をつぶってみろ。」
「こうですか?」
次の瞬間、ふんわりと甘い香りがただよい、何か柔らかいものが唇に触れた。
びっくりして目を開くと、目の前に美里先輩の顔が・・・・・・
え?何?キス?
僕はびっくり仰天して立ち上がろうとしたが、そのまま椅子ごと後ろにひっくり返ってしまった。
頭をしたたか打った。いってえー。
痛がってる場合じゃない、僕は飛び上がるように立ち上がった。
「せ、せ、先輩!いきなり何するんスか!」
「すまん、山下。驚かせたな。」
「な、ば、な、驚いたとか・・・・・・なんとか・・・・・・てか何でそんなにフツーに冷静に・・・・・・!」
「まあ、座れ。」
いつも通りの美里先輩に見える・・・・・・よ・・・・・・なあ・・・・・・
とりあえず椅子をなおして座る。
「いきなりすまん。俺は今まで、自分を女だと認識したことはなかったのだが、あれ以来どうも様子がおかしかったんだ。」
「あれ以来って・・・」
「部活紹介だ。あれ以来、それまで弟達と思っていた部活の後輩男子諸君が、そうは見えなくなった。
お前をこの胸に抱きしめた後、明らかに弟を抱きしめたのとは違う感覚が残ったんだ。
で、それ以来お前のことが気になってしょうがなくなった。」
「ぜんっぜんそんな風には見えませんでしたけど・・・・・・」
「仮面をかぶっていたからな。この間一瞬その仮面が取れたことがあった。」
あの時だ・・・・・・彼氏いないんですかって聞いたあの時・・・・・・
「で、ひとりで悶々と考えてるのも性に合わないから、確かめてみようと思ったわけだ。」
「確かめる?」
「俺の気持ちがどれほどのものかをな。で、ちょっとキスでもしてみればわかるかな、と。」
何だこの人。やっぱりおかしいよ!そんな理由で僕のファーストキスを・・・・・・
絵里ちゃん、ごめん、僕に隙があったばっかりに・・・・・・
「で、どうなんですか。先輩の気持ちとやらは。」
「うん、どうやらやっぱりお前のことが好き・・・・・・なのかなあ。」 「はあ?ちょっと待って下さいよ。そんな自分勝手な。僕の気持ちはどうなるんです?
それに、僕が栗崎と付き合ってること、知ってるんでしょ?」
「知っている。」
「だったらどうして!」
「だから、俺の気持ちを確かめたかっただけだと言ったろう。お前にどうこうしてもらおうとは思っていない。」
ぜんっぜんわかんない。
「それって、ホント、僕には何がなにやら全くわかんないんですけど。」
「別にかまわない。明日からも普通にしててくれればいい。」
美里先輩、変だ変だとは思っていたけど、ここまでおかしいとは思っていなかった。
「僕の・・・・・・ファーストキスだったんですよ?」
「俺もそうだが、何か?」
駄目だ。何を言っても無駄だ。
絵里ちゃんともキスなんてしたことなかったのに。まだまだ先のことだと思ってたのに。
どうしたらいいんだ・・・・・・
「用ってのは、これだけですか?」
「うん。そうだが。」
「じゃ、僕帰ります。さよなら。」
「ああ、さよなら。」
一瞬、また美里先輩のクールな仮面がはがれて、困ったような顔を僕に向けた気がした。
でもそれも一瞬のことだった。鞄を掴むと、走って昇降口を目指した。
昇降口を出ると、あたりはもう薄暗くなっていた。

校門にはもう、誰もいなかった。
唇にのこる柔らかな感覚、甘酸っぱい香り・・・・・・今更なんだけど、胸がドキドキし始めた。
僕は思い切り首を振ると、家に向かって走り出した。
絵里ちゃん、ごめん、と何度も何度も繰り返しながら。
五月にしては妙に湿っぽい風が僕のほほをなぜた。
なぜか涙があふれてきた。
絵里ちゃん、ごめん・・・・・・

時間は三十分ほどさかのぼる。
「亮くん、遅いねー。」
私がぽつりと言うと、淳君がそれに答えるように言った。
「掃除当番ももう終わってるよな。ボントロ(トロンボーン)の一年とかさっき帰ったし。」
「あたし、見てくる。みんな、遅いから帰ってていいよ。」
「帰り一人んなっちゃうじゃん。大丈夫?」
麻美に聞かれたので、答えた。
「へへ、途中まで亮くんに送ってもらうよ。」
「そか。わかった。じゃあ帰るね。バイバイ!」
「バイバイ!」
昇降口で上履きに履き替え、ちょっと薄暗い廊下を歩くんだけど、
誰もいない放課後のちょっと薄暗くなった校舎って、なかなかスリリング。
ロマンチックかも。
こんなところに亮くんと二人でいたら・・・・・・きゃー!何考えてんのあたし!
亮くん、そのあたりどう考えてんのかしら。
そのあたりって?ファーストキスとか?きゃーきゃーきゃー何もう!
あたしがこんなこと考えてるとか亮くん知ったら、どう思うだろう。
麻美と淳君、もうキスとかしちゃったのかなあ。
だとしたら、中学二年のブンザエモンで(「分際で」の絵里ちゃん活用)、
とんでもないですよ!なんちゃってね。
ま、背伸びする必要もないし、ゆっくり、ゆっくりね。
でも、亮くんに求められたら、あたし、どうなっちゃうんだろ。きゃー。
やっと四階に到着。あ、準備室の明りがついてる。静かに静かに、脅かしてやろうっと。
準備室のドアが少し開いてる。ちょうどいいや。覗いてみようっと・・・・・・
あれ?亮くんだけじゃないね。手前にいるのは・・・美里先輩?何やってんのかしら・・・・・・
亮くん、背筋を伸ばして椅子に座って・・・・・・え?何目とかつぶってんの?

次の瞬間、あたし、見ちゃった。
美里先輩が・・・・・・亮くんに・・・・・・キスしてる・・・・・・
何これ、一体何が起きたの?
あたし、壁にもたれて、座り込んじゃった。
体が震えているのがわかる。

ガターンと大きな音がした。
行かなきゃ、この場から離れなきゃ・・・・・・
なぜかそんなことを思って立ち上がって走り出した。
気が付いたら自分の教室にいた。震えが止まらない。
自分の両腕を掴んで震えを止めようとしてみる。
でもやっぱり止まらない。涙が出てきた。ぼろぼろと止まんなくなった。
どうして?美里先輩と・・・・・・どうして?
どうして私じゃないの?
何にも考えられなくなった。ただ泣き続けた。
「あれ?そこにいるのは、栗崎じゃないか?」
誰か先生が通りかかって教室をのぞいた。加藤先生だ。
「どうかしたのか?」
私は涙を隠すように先生に背を向け、答えた。
「何でもありません、もう帰ります。」
「そうか。気をつけてな。もうすぐ暗くなるから、急いで帰れよ。」
「はい、さようなら。」
「ああ、さようなら。」
そこから先はあまり覚えていない。
何とか家に帰りついたみたいで、気が付いたらパジャマに着替えてベッドに座り込んでた。
あのシーンがまた目に浮かんだ。
涙があふれてきて止まらなくなった。
どうしよう、どうしたらいいんだろう。
全く考えがまとまらない。そのまま泣き寝入りしたらしい。

次の日、私は学校を休んだ。

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