Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第二章 ともだち

【七】文化祭

中間テストが終わると、文化祭がやってくる。

二学期に入ってすぐ文化祭実行委員会が発足していた。
わがクラスの実行委員は気が強くてしかも熱血タイプの田代真奈美といつもへらへら山梨和夫の二人。
山梨の奴がちゃらんぽらんなので、田代は結構苦労しているみたいだ。
中間テスト終了の翌日の学活で二人は教卓の前に立っていた。
「では、わがクラスの文化祭の出し物はオリジナル劇で、佐島君の作った『富士見中日記』に決まりました。
ちょっと山梨、黒板、黒板!ちゃんと書いてよ!では佐島君に拍手!」
作者の佐島俊介にみんなから拍手が送られた。

文化祭の出し物を決める時、例によって淳が動いた。
いろいろと案が出た中で、劇をやろう、という話になったのだが、脚本をどうするかとなった時に淳が、
「オリジナルにしようよ。何人かに話を作らせて、その中から面白そうな奴を選ぶんだ。
結構いると思うけどな、将来の劇作家。たーとーえーばー・・・・・・なあ佐島。」
何故こいつはクラスの奴らの得意技をこうも把握できてるんだろう?
この佐島なんてホント、めだたなくて、休んでも誰も気づかないような奴なんだけどな。
小原先生がニヤリとした。
淳が続ける。
「希望者にあらすじを書かせてさ、それを並べてみんなで選ぶんだよ。決まったらそいつが台本を仕上げて、
それから配役、練習ってわけ。もちろん背景とか凝ってね。美術の得意な奴もうちのクラスは多いし。」

結局佐島をはじめとして三人があらすじを提出した。
どれも面白そうだったが、NHKの「中学生日記」にヒントを得た佐島の「富士見中日記」に決まった。
内容は前にクラスで男女が対立しそうになって結局小原先生にまとめてもらったあの件を題材にして、
男女の性の違いについて理解を深めるというものだった。
決まった次の日には佐島は台本を提出した。たいしたもんだ。
田代と山梨の実行委員両名による学活の司会進行はみんなには夫婦漫才と呼ばれていたが、
何とか必要な係や役をまとめ上げ、そこに人員を割り振っていった。

主な配役。
・主人公の礼二----高橋幸利(好きな彼女がナプキンのことでからかわれてからかった奴をぶん殴っちまう役だ。)
・礼二の想い人、明日菜----遠藤由美(うっかり落としてしまった生理用ナプキンをお調子者の男子に拾われて
 からかわれちゃう役。こいつは実際幸利のことを好きなんじゃないかという噂がちらほらしている。)
・お調子者、鈴木----(あのときの鈴木そのまんまの役なのだが、本人が自ら「罪滅ぼしだ」と言って引き受けた。
 ま、いいんじゃないの?)
・学級委員、山本----僕、山下亮介。(あまりめだたないんだけどね。)
・学級委員、島田----栗崎絵里(へへへ、やっぱそうこなくちゃ。)
・担任、磐田----深井京子(将来はモデルなんじゃないかと思うくらいスタイルの良い女の子。ボーイッシュなルックスも手伝って、
 実は隠れファンを多く持っている。小原先生にちょっと似ているので即決まった。)
とまあ、これ以外にもいくつか役があるんだけど、省略。
配役以外にも、大道具や小道具、音楽などの担当が次々と決まっていった。
中でも特筆すべきは音楽担当の大林聡美だろうね。
ピアノの天才少女で、ショパンの幻想即興曲とか平気で弾いちゃうんだよね。
で、劇中音楽も自分で作曲しちゃうし、それも楽譜なんか書かずに全部頭の中にあるらしい。
一応テープに録音もしてあるんだけど、当日は生ピアノでやるってさらっと言ってのけた。

大道具のリーダーは名波慎吾だ。
大工の息子で、勉強にはあまり興味はないと見たが、美術、技術の時間はヒーローだ。
今技術で作っている本立てなんて、はっきり言って中学生の作るデザインじゃない。

小道具は杉本万規たちの一派が引き受けた。
檜山雪絵の美術センスはこれも並のものではなかった。

また淳の奴がこういったそれぞれの才能の持ち主をよく掘り起こすもんだ。
ていうかなんでわかるんだろう。

「え?逆になんで君らにはわかんないの?ちゃんと見てればわかるだろ?」

いいえ、言っときますけど、それはあなたの天から与えられた才能です。
そんな僕らの仲間たちだったけど、ひとりだけ調子がおかしい奴がいたんだ。

彼女は石川沙弓という。

なんて言うか、僕なんかから見るとただ「やる気がない」だけに見える。
淳のプロデュースで、例の事件のときの西川の立場の役をやることになっていた。
結構大切な役なんだけどね。昨日も田代が石川を捕まえて怒っていた。
「石川さん。どうして昨日帰っちゃったのよ。あれだけ台詞合わせをやるから残っててねって念を押したのに。」
そんな時も石川はへらへら笑ってるだけに見える。だからますます田代も声を荒げるんだ。
「ちょっと石川さん、聞いてんの?みんなが迷惑するんだから、ちゃんと協力してよね!」
それでも石川はへらへらしているように見える。田代もそれ以上ものをいう気がなくなったらしく、
今日こそは教室に残って待っているようにと言い捨てて実行委員会へと向かった。

石川のへらへら顔が少し困ったように見えた気がした。
その日も石川は教室に残っていなかった。
次の日の昼休み、田代が小原先生に直訴していた。
「先生からも何とか言ってください!石川さん、やる気なさ過ぎです。
いまなら代役を立てることだって出来るし。お願いします!」
小原先生からはもう少し様子を見るように言われたらしい。
午後の授業が始まるまで田代は今度は淳に怒りをぶつけていた。
「先生も頼りにならないし、ねえ村中!あんたから沙弓に言ってやってよ!
あんたの配役案なんだからね!責任持ってくれる!」
淳もさすがに返す言葉がない様子だった。

「おかしいなあ。石川なら大丈夫だと思っただけんなあ。俺の目もあてになんなくなってきたかなあ。」
放課後、淳がぶつぶつ言い出した。
「どうすんだよ、淳。石川のやつマジでやる気ないぜ。田代にあれだけ言われてまったく反応もないし。」
「そんなはずはないんだ。もともとおとなしいこたおとなしいけん、駒越小学校の学芸会の劇では
鶴の恩返しのおつうをやって大人たちをうならせた才能の持ち主だって聞いてるだけんなあ。
この難しい役をこなせるのはこいつしかない!と思って・・・・・・・」
「そうなんだ。てか、何でそんな情報を・・・・・・でも、僕達で何とかできるのかなあ。」
「俺が推薦した責任もあるし、何とかしてえなあ・・・・・・・。よし、石川んちに行こう。」
「行こうって、僕も?」
「当の然太郎。」
その日の放課後、僕ら二人は田代にことわって練習を抜け、駒越の石川の家に向かった。
「とりあえず石川の役は田代、お前が代わりにやっといてくれ。」
「わかった。村中、頼んだわよ。」
田代が珍しくすがるような目で淳に言った。淳も引き締まった顔で答える。
「おう。じゃあな。」

石川の家は駒越の向こう、蛇塚のイチゴ農家と言う話だった。
淳は一旦家に帰り、チャリンコで僕の家まで来ることにした。
淳が到着すると、僕もチャリを出して一緒に石川の家を目指した。

忠霊塔を過ぎ、現在はいちごラインと呼ばれている海岸通に出て蛇塚方面へ進む。
海風が気持ちいい。
しばらくいくと、右手に「石川農園」と言う看板が見えた。
通り沿いでわかりやすかった。駐車場にチャリンコを停めて家に向かう。
「おい、あれ、石川じゃねーか?」
いきなり淳が言うので淳の見ている方に目をやると、洗濯物らしきものを籠いっぱいにかかえて
縁側から庭に出てくる石川らしき姿が見えた。
「隠れよう。」
淳が言うので思わず生垣の陰に隠れたが、どうして隠れなきゃいけないんだ?
「いや、なんとなく。」
なんとなくって・・・・・・
石川は僕らには気付かなかったらしく、黙々と洗濯物を干し始めた。
時々「ふうっ」と息をつきながら、作業を続けている。
流れる汗をぬぐうのももどかしく次から次へと洗濯物を干し続けた。
じっくり見てみると、こいつも結構可愛いなあ。(コラコラ)

それにしてもどうしてこんなに洗濯物が多いんだ?
「石川んちってたしか六人兄弟で、あいつが一番上らしいぜ。じいちゃんばあちゃんも一緒に住んでるから、
十人家族だ。洗濯物も多いわけだ。でもなんであいつが物干しなんてやってんだろ。」
事情通の淳だった。洗濯物を干し終えて、石川が家に入った。
「よし、行くぞ。」
玄関に向かうと思ったら、縁側の西側の窓の下に忍び寄った。当然僕も一緒に。
「おいおい、何の真似だ?石川に話を聞きに来たんじゃないのか。」
「いいから、しっ。黙って。」
勢いに押されて黙る。と、窓の向こうから声が聞こえてきた。
「ごめんね沙弓。毎日毎日家の仕事をしてもらっちゃって。
いつも早く帰ってきてくれてるけど、学校は大丈夫なのかい?」
母親の声らしい。
「何言ってるの。大丈夫に決まってるじゃない。家の仕事って言ったって、洗濯とお炊事くらいしかやってないよ私。
お母さんはちゃんと休んでないと駄目だからね。」
これは石川の声だ。
「文化祭で劇をやるんだって言ってたろ?練習とかあるんじゃないのかい?」
「大丈夫よ。わたし、裏方さんで、当日まで仕事がほとんどないから。」
「本当にすまないねえ。もうすぐ歩けるようになるからね。今日もお医者さんから治りが早いって言われたんだから。」
「いいから、無理しないで。きちんと骨がくっつくまでね。」
なるほど、そういうことか。えらいな石川。
「えらいもんか。」
淳はそういうと、立ち上がっていきなり窓を開けやがった。
「む、村中君!」
石川の驚いた顔がそこにあった。
僕がおずおずと立ち上がると、
「山下君まで・・・・・・二人でいったい何を・・・・・・」
「石川さんのお母さん、失礼をお許し下さい。沙弓さんと同じクラスの村中と言います。あ、いや、どうかそのままで。」
失礼なんだか丁寧なんだかわからない淳だったが、石川をきっと見つめて言った。
「石川、お前はえらい。」
「ど、どうも・・・・・・」
「でもな、ちっともえらくない!」
どっちなんだ!もっとわかりやすく言ってやれよ。
「どういう・・・・・・こと?」
「お前は骨折したお母さんの代わりに一生懸命家事をこなしている。それはえらい。」
淳は続けた。
「でもな、ちゃんとみんなに説明しないと、文化祭で大切な役を与えられたにもかかわらず練習にも出ないで
さっさと帰っちゃう自分勝手なやつだと思われちゃうだろうが。説明責任を果たしていないお前は、えらくないっつーことだ。」
 説明責任って、お前。政治家じゃないんだから。
「だって・・・・・・」
「だってもさってもない!」
さってって何だよ。
「田代だってちゃんと説明をすれば理解してくれることくらいわかってただろうが。もっとクラスメイトを信頼しろっつーの。」
「そんな事言ったって・・・・・・」
戸惑う石川だった。

びっくりしてこのやり取りを聞いていた石川のお母さんが口を開いた。
「沙弓。この男の子の言うとおりだよ。あたしだってそんな事情、全然あんたから聞いてないし。
家のことをやってくれるのはありがたいけれど、あんたが学校で、しかも大好きな劇で活躍できるんだったら、
そのほうがどれだけうれしいことか。家でだってちゃんと説明してくれれば、弟や妹がいるんだから、何とでも出来たじゃないの。」
「でも、あたし・・・・・・」
とうとう石川は泣き出してしまった。
「お母さんの役に立ちたかったんだもん、大好きなお母さんの役に立ちたかったんだもん・・・・・・」
なんてかわいい子なんだろう、と僕は思った。
今時母親が骨折したからといってその家事のほとんどを肩代わりできる中学一年生なんてどれだけいるだろう、と。
ちなみに僕は洗濯なんてしたことはない!(威張るな!)

また、淳ってやつはなんて大人なんだろう、とも思った。

石川のお母さんが言った。
「二人とも、ありがとうね。沙弓は本当に幸せだよ。いいクラスメイトをもって。沙弓、明日からはちゃんと練習に出ておいで。
家のことは兄弟に任せて。あとでみんなにはちゃんと説明しておくからね。あんたの気持ちはよーくわかったから。本当に有難うね。」
石川は泣いていた。
淳が言った。
「お母さん、窓からいきなり失礼しました。僕らはこれで帰ります。」
「はいはい。これからも沙弓をよろしくね。」
「はいっ。おまかせください!じゃ、石川、明日からよろしく頼むぜ!」
「うん。村中君、山下君、今日はありがとう。」
涙を流しながらもそう言ってにっこり微笑んだ石川があまりに可愛らしかったので、僕はドキッとした。
淳はとみると、微妙に赤くなってたから、僕と同じことを感じたに違いなかった。
それにしても、この展開は・・・・・・現実はそうドラマチックではない、ということだね。
普通に石川の妙な行動の原因がわかってよかった。

次の日、淳と僕で田代にこのことを説明したんだ。

案の定、田代のやつ、石川に、
「ほんとにもう!ちゃんと説明してくれればいいのに!あたしだって鬼じゃないのよ!」
とかなんとか咆えていた。が、目は笑っていた。
石川のへらへら笑いが心からの微笑みに変わっていた。
「もうしばらくの間は、練習を途中で抜けさせてもらうことになると思うわ。
弟達には洗濯は任せられるけど、夕ご飯のしたくはちょっとまだね。
でも、来週母のギプスが取れることになったから、そうなればもう大丈夫。わたし、がんばるから。」
「そうこなくっちゃ。」
淳が笑った。

その日から僕らのクラスの劇は急激に仕上がって行った。
大道具も小道具も順調に完成に向かっていた。
音楽は全て大林の頭の中にある。

いつの間にか文化祭は一週間後に迫っていた。
文化祭前日、体育館でリハーサルが行われた。
大道具や小道具はやはりかなり効果的に作られていた。
音楽の大林は全てを暗譜していた。(舞台袖で生演奏している大林に、関係者はみな驚いていた。)
照明でちょっとまごつきがあったがリハーサル中に修正できた。
役者陣もなかなかの仕上がりを見せていた。
また幸利のやつがかっこいいんだ。
リハーサルが終わって、帰りの学活で田代が泣いた。
とても苦労したけど、最後にはみんながものすごくがんばってくれたからだ、自分は報われた、と言って泣いた。
その横で山梨がへらへら笑っていた。こいつは結局何をやったんだろ。ま、いいか。

小原先生がまとめてくれた。
「中学校に入って初めての文化祭と言うことで、どこまで口を挟んだものか色々考えたんだが、
結局君らがほとんど自分達でやってしまったな。担任六年目で、しかも一年生の担任で
こんなに楽が出来るとは思わなかったよ。それぞれが自分の分担を実によくこなしてくれた。」
ここでちらりと山梨を見る。みんな笑った。
「田代も本当に良くがんばった。陰で『鬼』とか言ってる奴もいたようだが。」
田代が泣きながら笑った。
「さ、明日はいよいよ本番だ。今までやってきたことをそのままやればいい。
いつもどおりにやろう。それだけだ。」
みんなが頷いた。

文化祭当日、富士見中日記は全校の大喝采を浴びた。
帰りの学活で田代はまた大泣きした。
小原先生からは最大限のお褒めの言葉を頂いた。
石川も感極まって泣いていた。
小原先生役の深井京子は男女を問わずファンを増やした。
クライマックスは、鈴木から檜山への謝罪だった。
「檜山さん、俺、本当にガキだった。ひどいことしてわりいっけ。今回の劇を通して、
あの時の自分がどんなにひどい奴だったか心からわかった。本当にごめんなさい。」
檜山は黙って頷いた。笑顔だった。
「でも、西川のビンタは痛かったなあ。これは忘れられないよ。」
西川がちょっと赤くなって笑った。

檜山がモデルとなった明日菜役の遠藤由美が、気が付くと幸利のそばにいるようになっていた。
リハーサルの日の放課後、幸利に告白したという噂だ。
本当ならあのおとなしい遠藤がずいぶんと勇気を振り絞ったものだ。

「幸利に聞いてみただけんさあ」
淳がにやりと笑って言った。
「告られたのは事実なんだって。で、幸利のやつの答えが、『ん』の一言だったらしいぞ。」
「『好きです。』『ん』って感じか。」
普通に聞いても何てことない台詞だが、幸利を良く知る者たちにとっては爆笑ネタだった。
「でな、実際のところ、幸利もクールに見えてアレで結構オクテでな、
好きだといわれてどうしていいかわかんなくて『ん』だったらしいぞ。」
「へえー。人は見かけによらないねえ。あ、幸利!」
小原先生に頼まれてダンボールを片付けに行っていた幸利が帰ってきたので、声をかけた。
「何。」
と言って寄ってきた幸利を前にして、淳と僕で告白シーンの再現をしてあげた。
「好きです。」
「ん」
真っ赤になって怒り出す幸利を予想していたのだが、
「ばかっさー。」
とぼそりと言い残して廊下に出て行った。廊下では遠藤が待っていた。
「はーいはい。ごちそうさん!」と淳。僕らの負けだ。

後片付けをしながら絵里ちゃんが言った。
「文化祭、楽しかったねえ。みんなもがんばったもんね。」
「うん。本当に楽しかった。あの遅くなった日、覚えてる?」
「あたりまえじゃん。小原先生がみんなにラーメンとってくれた日でしょ?」
「食いもんのことは忘れないんだ。」
「何いっちゃいるー?そんなことなーいー。」
淳が加わる。
「石川って、本物の役者だよな。あいつって、あんなにきれいだっけ?」
「ちょっとー。麻美が怒るわよーそんな事いうと。」
「舞台の上で輝く、と言う意味で言ったんだ。麻美はもともとな、ほれ、だからその・・・・・・」
「あたしがどうしたって?」
望月麻美に後ろから声をかけられ、淳がびくりとした。
「いやいや、ほめてたんだよ。なあ、亮介君。」
おれに振るんじゃない。
絵里ちゃんと僕は顔を合わせて笑った。

放課後、例によって校門のところで絵里ちゃんとおしゃべりをしている僕だった。
帰る方向が違うもんでね。
「そういえば、村中君と一緒に、沙弓ちゃんちに行っただってね。」
「うん。」
「沙弓ちゃんって、可愛いよね。」
「そうだね。」
「亮介君もそう思うんだ。」
何?何でそんなこと聞くんだ?
「いや、客観的に見ての話。劇やってる時の石川さんはすごく可愛かったと思うよ。」
「ふーん、そう。」
いや、ふーん、そうっていわれても・・・・・・
「あたし、帰る。」
そういって、ぷいっと向こうを向いてすたすたとお帰り遊ばした。
ちょっと待った。その態度はよくわからないんですけど。
いつもの「じゃーねー、ばいばい!」は?

「それは君、ジェラシーって奴でしょ。」
家に帰って淳に電話をし、放課後の絵里ちゃんとの会話について伝えると淳がこう言った。
「絵里ちゃんひとすじの君がわざわざ石川の家まで行って彼女を元気付けたりするからー。」
ちょっとまて、あれは淳が行こうって言うからついていっただけで、
実際のところ石川の家で弁舌を振るったのも淳、お前じゃないか。
「ふっふっふっ。実はな、その辺の話をすこーし脚色して絵里ちゃんにお伝えしてみたのだよ。このわしがな。」
どういうことだ?
「いつまでたっても進展のないお前達を焚き付けようと画策させていただいたの。
みなさい、絵里ちゃんのじぇらしっくビームが炸裂したろうが。」
僕は君に怒りをぶつければいいのかそれとも礼を言えばいいのか。
「ま、後は君次第ってところだね。がんばってくれたまい。」
電話を切りやがった。

その日は遅くまで色々考えた。
絵里ちゃんがじぇらしっくビームを放つということは、
僕に対するなんらかの気持ちがあるということなのか?
それともいちファンが単純に他のスターに目移りしたから怒っているだけなのか?
そんなことを悶々と考えながらオールナイトニッポンを聞いていたんだ。
鶴光さん、僕はどうしたらよいのだろう・・・・・・

文化祭が終わると、期末テストが待っている。二学期も終盤だ。

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