Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第四章 変化

【六】失地回復

こんなこと、誰にも相談できやしない。
絵里ちゃんにばれたら、どうなるかわかんないし。
それにしても、今日絵里ちゃん休みだなんて、とりあえずは良かったのかな。
美里先輩にキスされたことは、忘れることにした。
美里先輩の気持ちはよーくわかった。(てか、意味がわかんないってことがわかった。)
青石には悪いが、これも黙っていよう。
あの一瞬の美里先輩の困った顔も気になるけど、もういい、関係ない。
ああ、でも、僕のファーストキスが・・・・・・
あのおそらくシャンプーの甘い香りと、柔らかくてあったかかったあの唇の感覚は、
忘れようとしてもどうしても頭から離れなかった。
何度も何度も首を振る僕の様子がおかしいことに当然のように周りは気付いていたらしい。
青石が声を掛けてきた。
「山下君、どうしたの?なんか今日は挙動不審だってみんな言ってるけど。」
「挙動不審?そんなにおかしいかな、僕。いやいや、なんでもないんだ。大丈夫。」
「全然大丈夫じゃなさそうだけど、具合悪いんだったら、保健室に行ったほうがいいんじゃない?」
「いや、ほんと、大丈夫だから・・・・・・」
そう言いながらなんか頭がぼーっとしてきて、目の前の青石の顔が揺らいだんだ。

目が覚めたら保健室のベッドの上だった。
起き上がった僕に気付いたらしく、平原先生が声を掛けてきた。
「おお、山下。気が付いた?どうしちゃっただね、健康優良児がいきなりかつぎ込まれてきて、先生驚いちゃったわよ。大丈夫?」
大丈夫だと答えた。自分でもなんであんなふうになっちゃったのかわからないし。
それにしても自分がこれほど精神的に弱い人間だとは思わなかった。
「少し休んだらだいぶ良くなりました。ていうか、スッキリしちゃった。もう戻ります。ありがとうございました。」
そそくさと教室に戻ろうとすると、平原先生に止められた。
「いいから、もう少し休んでなさい。で、先生にお話しして。何んあっただね?」
え?なんで?どうして何かあったってわかるんですか?
「やっぱりねえ。」
カマかけられたんだ。先生、やり方がずっこいです。
「長いこと保健室にいるとね、わかっちゃうのよ。いろいろと。もっと驚かせてあげようか?」
いいえ、結構です。でもちょっと興味があります。ていうか、驚かしてもらいましょうか。
「あなた、渡部美里さんにキスされたっけでしょ。」
どっかーん。先生、見事です。撃沈です。驚いたなんてもんじゃないよ!
「先生、ど、ど、ど、どうしてそれを・・・・・・」
「長いこと保健室にいるとね、何でもかんでも情報が集まってきちゃうのよ。」
え?え?え?え?っつったって、一体どこからそんな情報が・・・・・・
このことは僕と美里先輩しか知らないはず・・・・・・
「そう。その美里先輩から聞いたの。」
ずどーん。
「み、み、み・・・・・・」言葉が続かない。
「渡部さんがね、一時間目が始まってからここに来たのよ。で、私に相談したいことがあるって。」
そうなんだ。
「ま、プライバシーに関わるから詳しいことはいえないけど、これまでも結構あの子の相談は受けてたのよね。
ほら、あの子って、変わってるでしょ?」
先生がそれ言いますか。ま、確かにそうですけど。
「今回の相談はね、あなたのこと。」
僕の?
「そう。昨日あなた、渡部さんに告白されて、キスまでされた、そうでしょ?」
あれを告白というならそうです。もう素直に話すしかないみたいっすね。
「あの子ねえ、自分の気持ちがよくわからないっていうのよ。今まで自分の事を女の子だと意識したことがないのに、
いきなりあなたのことが気になりだして、もしかしたらあなたに恋をしたのかもしれない、なんて言ってね。」
「はあ・・・・・・」
「それで、その気持ちを確かめる為に、昨日あんなことをしたんだって。で、その結果、たしかに君の事が好きだとわかったって。」
「僕の気持ちにはお構い無しに、ですよね。」
「そう。そのことを言ってた。で、先生言ってあげたの。それはあなたの勘違いだって。」
「はあ・・・・・・」
「あの子、去年卒業した吉成さんを崇拝してたでしょ。」
それは僕ら吹奏楽部員には有名な話です。
「で、自分もあんな先輩になりたいってがんばってたのよね。結構後輩の面倒見もよくって、
あの妙な男言葉さえなけりゃ結構いい先輩でしょ?」
そりゃあそうだ。部活の先輩としてはこれ以上ないくらいのいい先輩だ。
「結局ね、あの子、いままで男子を異性として見ることをしてこなかったの。で、部活紹介のときのあの抱擁事件ね、
あれで、男子を異性として見るようになっちゃったわけ。」
「え?じゃ、僕は単なるきっかけですか。僕でなくても良かったんじゃないスか。」
「そうなのよ。そのことを含めて話してあげたのよ。目の前で爆発した花火に目がくらんで、周りが見えなくなってるだけだって。
あの子もバカじゃないから、冷静になって考えればわかるはず。今日の放課後にはいつものあの子に戻ってるはずよ。」
目の前の花火か、僕は。
やっとわかった。美里先輩の妙な言動がどういうことだったのか。
で、僕は・・・・・・?
「僕はどうしたらいいんでしょう。」
「ふふ、そうね。何にもしなくていいんじゃない?いつも通りの自分でいなさい。栗崎さんには何も言う必要はないと思うわ。」
そんなことまで知ってるんですか。
「保健の先生をなめんじゃないわよ。特にこの私をね。」
そう言って平原先生はメガネをはずし、レンズを拭いた。メガネをはずした先生がとても綺麗でちょっとドキッとした。
ほら、綺麗な人を見ると男はドキッとするんだよ。普通に。
「あら、何見てるの?私に恋しちゃいけないよ。」
僕は自分のほっぺたがちょっと熱くなるのを感じた。もう、この先生は・・・・・・
平原先生は人気があるのだ。かっこよくて冗談が通じて、厳しい時は厳しい。
今日はその人気の秘密が少しわかった気がした。

先生の言ったとおり、その日の放課後の美里先輩はいつもの美里先輩だった。
昨日のことには触れもしなかった。
なので僕もこれっきり忘れてしまうことにした。
ま、あの唇の感覚だけは記憶の底のほうにしまっておこうと思う。

明日は絵里ちゃん、学校に来るだろうか。

来なかった。
担任の加藤先生が言うには風邪で休んでるってことなんだけど、
今まで二日連続で休むなんてことなかったし、かなり心配になった。
その日家に帰ると、絵里ちゃんの家に電話を入れてみた。
お母さんが出た。
「ごめんね、亮介君。絵理、まだだいぶ具合が悪くて、電話にも出られないって。
明日も多分休むと思うわ。心配してくれてありがとう。絵理にはちゃんと伝えておくから。」
「わかりました。お大事にして下さい。はい、ではさようなら。」
そんなに具合が悪いんだ・・・・・・土曜日にでもお見舞いに行こう。
美里先輩の件も片付いたし、しばらく平和に過ごせそうだ・・・・・・

「絵理、あれでよかったの?亮介君ずいぶん心配してたわよ。来週からはちゃんと学校に行きなさいよ。
熱なんてもうないんだから。」
「わかってるよ。休むのは明日までって言ってるじゃない。」
「一体何があったのよ。お母さんになら教えてくれたっていいじゃないの。」
「なんでもないって言ってるでしょ!大丈夫だから、あっち行っててよ!」
そう言ってドアの向こうに母親を追い出し、ドアを閉めた。母に八つ当たりする自分に腹が立った。
二日間休んで見たけど、自分の中では何の考えもまとまらなかった。
明日一日また休んで何か進展があるのだろうか・・・・・・
いや、何もないことはわかっていた。
でも、学校に行けば嫌でも亮くんと顔をあわせなきゃいけないし・・・・・・
一体どんな顔をして会えばいいっていうのだろう。
それにしてもあんなことしといて、しれっとお見舞いの電話なんかしてきちゃって・・・・・・
亮くん・・・・・・どういう神経してるのかしら。
ああもう、何がなんだかわかんない。どうしていいのかわかんない。
亮くんなんて知らない。もういい、いや、よくない。好き。嫌い。どっちなの?
もう学校なんて行かない。部活なんてどうでもいい・・・・・・

翌日、目が覚めると、自分の中で何かが変わっていた。

そう、このままじゃいけない。
本当のことは何もわかっちゃいない。
あれがどういうことだったのか、確かめなきゃいけない。
このまま家でうじうじしてたって、何も変わらないし、何もわからない。
こんなのは本当の私じゃない。
以前の私ならあの場に踏み込んで問いただしていたはず。

何を恐れていたんだろう。
そう、亮くんの気持ちは私にはわかっていたはずなのに。
そう思うと勇気がわいてきた。
「お母さん、私、学校に行くね。」
母親がうれしそうに「そう、わかった。朝ごはんできてるわよ。」とだけ言った。
昨日あんなふうに八つ当たりされた娘に気を遣わせないその気遣いがありがたかった。
ごめんね、お母さん。心配かけて。もう大丈夫だから。
「行ってきまーす」
亮くん、待っててね。そして私をがっかりさせないで。

どうしよう、今日の帰りにしようか、それとも明日の土曜日にしようか、
なんて絵里ちゃんのお見舞いのことを考えていたら、おなじみの声が教室に響いた。
「おはよう!」
「絵理ー!大丈夫なの?今日まで休むって聞いてたけど、元気そうじゃん!」
篠宮が声をかける。何人かの女子に声をかけられ、絵里ちゃんはその度に笑顔で答えていた。
「亮くん、おはよう!」
「おはよう、絵里ちゃん、もう大丈夫?」
「うん、大丈夫。ごめんね、心配かけて。電話もらったのに、出ることも出来なくて・・・・・・
でももう本当に大丈夫。だから聞かせて。」
「何?」
「三日前の放課後、音楽準備室で何があったのか。」
僕は豆鉄砲を食らったハト状態だった。
三日前の放課後あったこと・・・・・・忘れる事にしたあの事。
平原先生に黙っとけと言われたあの事。
どうして絵里ちゃんが?
そんなことが頭をぐるぐる回っていたんだ。
「今日の放課後、ちゃんと説明してね。」
そう言うと絵里ちゃんは席に戻り、篠宮たちとまたおしゃべりを始めた。
僕はと言えば、何が起きたのか、どうしたらいいのか、何をどう彼女に説明したらいいのか、
頭の中がぐちゃぐちゃになっていたのさ。

四時間目が始まる前、担任に断って僕は保健室に走った。

「平原先生!」
「どうしたの?山下君。真っ青な顔して。ホントに具合が悪そうだわ。」
「聞いて下さい。絵理ちゃ・・・・・・栗崎さんが、聞かせろって、今日の放課後、全部ちゃんと話せって。」
「どうどうどう、落ち着いて落ち着いて、何言ってんのか良くわかんないから。栗崎さんがどうしたって?」
僕は深呼吸してからまた話し始めた。
「栗崎さんが今日学校に来たんですよ。昨日電話したらお母さんにものすごく具合が悪くて
今日も休ませると思うって言われてたんでびっくりしたんです。」
「はいはい、できればもう少し落ち着いて。それで?」
「で、来た早々、僕に向かって『三日前の放課後にあったことを全て話して』って言うんです。
これってどういうことだと思いますか?どうして彼女、あのことを・・・・・・あのことを知ってるのは僕と、
美里先輩と、平原先生しかいないはずだし、彼女、昨日一昨日と休んでいたんだから誰かに聞いたはずもないし・・・・・・」
「いいから落ち着きなさい。まず座って。そう、座って。」
先生に椅子を勧められ、座ったら少し落ち着いた。
「いい?あなたは言ってない。当然渡部さんだってわざわざ栗崎さんに話すはずがない。私が知ったのは一昨日のことで、
栗崎さんとの接点はそれ以来ない。だとしたら考えられるのは一つだけね。」
「と言うと?」
「見てたんじゃない?」
「・・・・・・見てた?」
「そう。私の推理によるとね。放課後あんた達ほとんどいつも校門のところで集まっておしゃべりしてるでしょ。」
「はい。よく知ってますね。」
「保健室の先生を・・・・・・」
「なめちゃいけません。」
 先生は頷いて続けた。
「その日、遅くなったんじゃないの?あの子達を待たせて。」
そうか!あんなことがあったからすっかり忘れてたけど、あの日僕はあいつらを待たせてたんだ。
で、僕があんまり遅いから、絵里ちゃんが様子を見に来て・・・・・・
「そういうことだと思うけどねー。」
「え?ということは、そのショックで昨日、一昨日と彼女は学校を休んだ、と?」
「多分そう。こらこら、何ちょっとうれしそうな顔してんのよ。」
顔を作り直して、
「正直にきちんと話した方がいいですよね。」
「そうね。けど、あんたの話じゃ誤解を招きかねないから、そう、保健室にいらっしゃい。二人で。」
「いいんですか?助かります。」
「あんたの為じゃないわよ。可愛い可愛い栗崎さんの為。」
「それでも、ホントにありがとうございます。放課後ソッコーで来ますんで、よろしくお願いします!」
「はいはい。いいわね、若いもんは。お待ちしておりますわよ。ところで山下君。」
「はい?」
「栗崎さんといい、渡部さんといい、あんたの好みってちょっと不思議な子よね。」
「何言ってんスか、もう。」
「まあいいや。ちゃんと連れて来るのよ。」
「はい、じゃ、失礼します!」

今日の放課後、全て解決!と行きたいねえ・・・・・・・
頼むよ神様。いつまでおみくじの「凶」を引きずってかなきゃいけないんだっつーの。

『今年いっぱいだよ〜〜〜〜』
なんて声が聞こえた気がするけど、気のせいだよね?

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