Many Ways of Our Lives

01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50
番外01 番外02 番外03 番外04 番外05 番外06 番外07 番外08

おだっくいLOVE

第一章 出会い

【八】期末テストで大逆転

「亮介君。わかってるね。」
「うむ。期末テストは我々の番だ。」
中間テストで絵里ちゃんに負けた僕と望月麻美に負けた淳の男達二人は、
期末テストにかける意気込みを確認しあっていた。
「やはり男子たるもの、好きな女子に勉強で負けてはいけない。」
などと、わけのわからない信念を持って勉強に取り組むことにしたのだ。
僕は今淳の家に来ている。期末テストにむけた勉強会を開いているのだった。
今日はじめて知ったのだが、淳は母一人子一人の二人家族だった。
このお母さんがまたきれいな人で、
出してくれるおやつも手作りでしゃれててしかもおいしかったりするのだ。

淳の苦手な理科は僕の得意教科だし、
前回僕が失敗した社会科では淳は前回四十八点(五十点満点だよ)を獲得している。
お互いの穴を埋めて、絵里ちゃんに対抗するつもりだった。
「それにしても、栗崎の出来のよさにはびっくりだよなあ。」
と淳が言い出した。
「うん、僕もびっくりだった。普段の彼女を見てると、勉強とかそんなに興味なさそうだったしね。
望月はまあ、そうかなって感じだけど。」
と僕。
隣では勉強にはあまり興味がないと思われる幸利がマンガを読んでいた。
こいつは何をしに来ているのだろう。
「ところで亮介君。絵里ちゃんとはどうなんだね。」
は?いきなり何を言う。
「どうって、何が。」
「告った?」
「僕が?絵里ちゃんに?」
「そうだよ。他に誰んいる?」
実際のところ、絵里ちゃんは大好きだ。
だが、そんな雰囲気をあからさまに教室や部室で出したことはないし、
絵里ちゃんに伝えようなんて思ったことも無かった。
「だめだだめだ。ぶしょったい※ねえ。それじゃあいかん。」
(※「ぶしょったい」本来は「薄汚い、不恰好な」と言う意味。)
ほんとにこいつは何を言い出すか分からん。なにがいかんのだ。
「納まるべきところに人間、納まるべきなのだよ。ええか、
あんたは絵里ちゃんが好きだ。それは間違いない事実だ。」
それはそうだ。けど何でこいつに決め付けられなきゃ・・・・・・
「で、絵里ちゃんはどうだ。これも実は君のことが気になっていたりするんじゃないか。」
は?何を言ってるんだこいつは。どうしてそんなことが分かる。
「ふん。だいたい、彼女が学級委員に立候補したのは何故だと思うだね?」
そう、それはずっと気になっていたところだった。
あの時彼女はどうして立候補なんてしたんだろう。
「普通に考えたら、君の事が気になっていたから位しか理由がないだろう。
自信を持ちなさいよ、亮介ちゃん。」
あのなあ、君が言うように何でもかんでもうまくいくなら苦労はしないよ。
君がどんな筋書きを書こうと、この問題には僕や絵里ちゃんの「気持ち」という
不確定因子があるんだから、そう簡単な話にはならない。
「実をいうと、もう一つの考え方があるだよねー。」
僕の話をちゃんと聞いてるのかなあ、こいつは。どんどん話を進めやがる。まあいい、言ってみろ。
「じつは絵里ちゃんは俺っちのことを気にしている。だから俺が推薦した亮介君が学級委員になった時、
が作った空気を壊さないようにすぐに彼女が立候補した、という説だ。」
な、なんですと?
実はこの件についてはなんとなくもやもやした感覚がずっと僕の頭にあったのだが、
いまの淳のことばでそれが晴れてしまった。くそっ。やっぱそうなんじゃん。
「もうひとつ。彼女がバスケットボール部に仮入部していたのに結局吹奏楽部に入ったという事実だ。」
「それはほら、運動部が意外に厳しかったんで、文化部を選びなおしたとかそんなんじゃないの?」
何とか最初の説を通したくて僕が意見を述べると、淳が複雑な表情で反論した。
「実はな、小学校の時、俺はミニバスケでキャプテンをやってたっけだよ。
だから、中学校に入ってもバスケ部に入ると周囲の連中は思っていたに違いないのだ。」
で、何が言いたい。
「だとすると、困ったことになるだよ。絵里ちゃんは可愛いけど、
ちょっと、ほら、変わってるだろ?」
そこがいいんじゃないか。
「だめなんだよ、俺には。しかも、目の前にめっちゃタイプの子がいるのだ。」
望月麻美か。
「そう。麻美ちゃん。初めて君と話した時もそう言ったが、理知的な彼女こそが僕のビーナスなのだ。
というわけで、君にこそ絵里ちゃんを幸せにしてあげてほしいのだ。」
おいおい、僕はいいけど、絵里ちゃんの気持ちはどうなる。
「そこなんだよなあ・・・」
淳は黙り込んでしまった。
無言のまま二人は勉強を続けた。
幸利はマンガを読み続けていた。
この件に関しては淳のプロデューサー能力も役にたたなかった。
兎にも角にも、期末テストをクリアしなきゃね。
僕らの勉強会の成果は確実に上がっていた。幸利に成果があったかは定かではない。

テストの一週間前から部活停止期間となる。
放課後の勉強会を学級会で提案したところ、意外に賛同者が多く、担任の了承の元、
学級委員と各教科の学習係で開催することとなった。
各教科の学習係が先生方を取材して予想問題を作り、
それをみんなでよってたかって解きまくるというものだった。
手分けして原稿を書き、輪転機にかけて印刷をする。
最初は先生に頼んでいたが、途中からは印刷のやり方を教わり、
僕らだけで印刷までの一連の作業をこなした。
冗談みたいな問題が混ざってたりして、結構楽しみながら勉強できたこともあり、
意外に真剣にみんなが取り組んでくれた。クラスのまとまり感もでてきて、一石二鳥だった。
テストの役に立ったかどうかは結果を見てみないと分からなかったが。

この間淳にあんなことを言われたものだからどうしても絵里ちゃんを意識してしまう。
今までも十分意識していたのだが、微妙にぎこちなさが出てしまっているかもしれない。
それよりも問題は淳だ。望月麻美との親密度が明らかに増していた。
更に問題なのは、それに反比例して絵里ちゃんの元気度が微妙に低下しているように感じられることだ!
淳の読みはどうやら当たっていたらしい。
でも僕にはどうすることも出来なかった。
彼女の気持ちが僕にはないのだから、僕にできることなどない。
今まで通り、学級委員としての責務を全うするしかない。
で、クラスで、委員会で、部活で、絵里ちゃんと一緒に活動できるのだから、
よく考えてみると自分にとって何一つ不足はない・・・・・・はずだった。

本当はここで強引にひと頑張りしちゃえばこの後色々と大変な思いをしなくてもよかったのかもしれないけど、
その時の僕にはそんな強さは無かったんだ。
なんてったって子供だったし。

学習会の後片付けの時になんとなく彼女に声をかけた。
「絵里ちゃん。」
「なあに、山下君。」
そういえばそうだった。僕は「山下君で」、淳は「淳ちゃん」だった。
「いや、期末、頑張ろうね。」
「もっちろん!」
やっぱ可愛い。やっぱ天使だ。
なんでもいいや、がんばろうっと。

いよいよ期末テストが始まった。
淳との私的な勉強会や、クラスの勉強会の成果か、中間テストよりも出来がいい感じだ。
どの教科でも時間が余る。十分に見返す時間があった。
調子に乗って問題用紙の裏に似顔絵を書いていたら、巡回してきた先生に見られて拳骨をもらった。
中間テストは五教科だったが、期末テストは九教科すべてが対象だった。
体育の問題を解いて笑った。
五問目の記号選択問題の答えを解答欄に書き入れてそれを続けて読んでみると、
「コウチヨウハカツラ」となった。いいのか?体育教師。
前回失敗した社会科では、淳と一緒に勉強したところがガッツリ出た。
ていうか、前回は本当に勉強不足だったんだな、とわかる。
英語と社会は満点の予感があった。技術家庭科がちょっと難しかったかな。

それにしても三日間で九教科、おなかいっぱいだった。

というわけで、期末テスト終了!

「山下君、村中君、部活に行こう!」
絵里ちゃんに声をかけられた。さ、部活だ部活。
「淳ちゃん」が「村中君」になっていた。
それでも今までと変わらない元気さで声をかけてくる姿がいじらしかった。
絵里ちゃん、力になれなくてごめんね。

翌日から順次テストが帰ってきた。

予感どおり、英語と社会は満点!いやっほう!
淳も社会は満点だったとのこと。
絵里ちゃんはどうだったのかな。
「今回はちょっと失敗したかも。でも数学は満点だったよ!」
この娘は・・・・・・

全てのテストが帰ってきて、また五教科での成績上位者が廊下に張り出された。
淳とがっちり握手をする。やった。僕と淳とでクラスではワンツーフィニッシュ。
絵里ちゃんは三位で、望月が四位。
学年ではなんと僕が六位!
淳も頑張って八位!
絵里ちゃんは十二位だった。
クラスの首位は奪ったものの、ちょっとスッキリしなかった。
もしかして絵里ちゃん、淳のことで勉強に身が入らなかったのでは・・・・・・でもそんなこと聞けないしね。
そんな僕の思いを知ってか知らずか淳は素直に喜んでいた。
「これで男が立ったというものだ!We made itだ!」
あのなあ・・・・・・
次回は絵里ちゃん、ベストの状態で試験を受けられるだろうか。
「あれ?幸利の名前がある。」
淳が言った。
本当だ。成績上位五十人の五十番目が高橋幸利となっていた。
高橋は何人もいるが幸利はこいつだけのはず。
マンガ読んでるだけだと思っていたのにねえ。
「陸上、南高が強いから。」
そういうことか。ただの陸上バカではなかったのだね。
南高では勉強しないで合格、ってわけにはいかないもんね。大変失礼。見直した。

期末テストも終わったし、後は夏休みを待つばかりだ。
部活では先輩達がコンクール目指して目の色を変えているというのに、
一年坊主の僕たちはお気楽モードを爆発させていたのさ。

お話の続きへ