Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第二章 ともだち

【一】夏休み突入

梅雨明け以来めちゃくちゃ暑い日が続いていた。
セミも暑さで木から落ちるんじゃねーの、と淳がぼやく。

「夏です!女子が汗をかくと背中に微妙なラインが透けて困る季節がやって来ました!」
それまでまったくそんなこと意識したことが無かったのに、
クラス一のエロ大王を自認する岩崎一之が変なことを言うからどうしても意識してしまう。
「あの微妙なライン、いったいなんだと思いますぅ?」

ブラジャーだっつーの。

小学校の時にだってつけ始めた子はいたに違いないが、
私服のせいかよくわからなかったし、別にどうでもよかった。
でも、中学校の女子の夏服は、困る。
透けるのだ。
その一定の幅のラインが目に入るたびに男女の違いを意識してしまうようになったんだ。
ま、でもとりあえず、気にしていることを表に出さないようにして過ごすことにした。

僕たちが「男の子」であることを自覚せざるを得ないような状況というのは他にもあった。
当時、女子の体操着は上はTシャツ、下はブルマーだった。
で、女子達は普段もスカートの下にブルマーをはいていて、
今では考えられないと思うけど、掃除の時は制服のまんまスカートだけ脱いで臨むのだ。
平気なふりをしていたけど、実は目のやり場に困ったりもしていたんだ。
で、そんなことを意識してしまう自分が実は岩崎を凌ぐエロエロ星人なのではないかと
内心悩んだりもしていたのさ。
多分、ほとんどのやつがおんなじ様なことを考えていたんだと思う。

そんなことはさておき・・・・・・

盆踊りの一件以来、僕らの関係はとってもフツーになっていた。
淳と望月は一定の親密度を保ってお付き合いしている。
が、集団で遊ぶときは必要以上にべたべたしない。

絵里ちゃんは完全に淳を「村中君」と呼ぶようになっている。
絵里ちゃんは放課後、あいかわらず僕らを部活に行くよう促す。
絵里ちゃんと僕との距離もあのときのまま。

「あの時にもっとお前がプッシュしてれば、後で俺があんなに苦労しなくて済んだのによー。」
と、これは後で淳に言われた台詞。

女の子にすれば、ある程度強引に迫ってきて欲しい時もあるんだと淳は言う。
そんなこと後から言われてもね。

というわけで僕にとってはそれなりに楽しい日々は続いていたんだ。
そして僕らは中学生として初めての夏休みに突入した。

夏休みの初めの十日間ほど部活があった。
先輩達はコンクールの為の練習で忙しく、僕ら一年生は午前中だけの練習で帰らされていた。

ある日の帰り道、おなかをすかせた僕ら一年生男子部員は
竜華寺の駐車場の角にある「おばちゃんのお店」で静岡名物のおでんをぱくついていた。
今でこそ静岡名物の味噌おでんなんて話題になったりもしているけど、
近所の駄菓子屋ならどこにでも売ってて、
当時の僕らにとってはそこにあるのが当たり前のものだった。
黒はんぺん、こんにゃくにちくわ、ジャガイモ、牛すじ。
一本十円から三十円のおでんに旺盛な食欲を満たしてもらっていたんだ。

「おい、ところでその後どうなんだ。」
淳が切り出した。わかってはいたけどあえてとぼけた。
「どうって、何が。」
「とぼけちゃいんな。絵里ちゃんのことだ。」
トランペットのスズケンが口を挟む。
「え?何々?絵里ちゃん?栗崎がどうしたって?山下と栗崎がどうしただね?」
正真正銘おだっくいに見えるスズケンだが、口の軽いやつじゃないことは淳もわかっていた。
わかっていたけどうるさいので一睨みする。スズケンが黙る。いつものことだ。
「あれっきりってことはないんだろ?
亮介君のことだから何らかのアクションがあってもおかしくはないと思うだけーが。」

なにもなかった。あれっきりだった。

どうにかすれば前に進めるんだろうとは思うんだけど、
ま、どうしたらいいのかわからなかったんだ。中一だよ、そんなもんだろ?

「うーん、そうかなあ・・・お前さ、絵里ちゃんのこと、好きなんだろ?」
「ナニナニ、マジですかあ?山下が栗崎のことを・・・」
と、スズケン。また淳に睨まれて黙る。
そうだ、僕は絵里ちゃんのことが好きだ。
この思いだけは日に日に大きくなっていく。それだけは確かだ。
「何とかしてあげたいところだけど、俺はその、まあ、アレだから・・・」
このことに関してはさすがの淳も口を濁す。神社の一件を思い出す。
「あせらずに良く考えるよ。何がどうなったって、僕の気持ちは変わらないし、
なんか、この気持ち、大切に育てたいんだ。」
「なんかそれらしいことを言うね、チミも。うん、そうだ。あせることはない。
まだ夏休みも始まったばっかだしね。」
いや、この際夏休みがどうこうは関係ないだろ、と突っ込んでおいた。
スズケンが訳もわからず笑っていた。

話題が夏休みの宿題の事に移り、しばらくおしゃべりをした後、僕らは帰途についた。
おでんを五本食べたが、八十円だった。


【二】狐ヶ崎ヤングランド侵入

「はい山下です。あら、淳君。元気?たまには遊びにいらっしゃいよ。
おばさんも会いたいわぁ。何、亮介?はいはい、いるわよ。亮!淳君から電話よ!」
母が大声で僕を呼んだ。一度淳が家に遊びに来てからすっかり母は奴を気に入っていた。
「礼儀正しいし、何よりかわいいわよねえ。将来が楽しみだわ。」
あんたが楽しみにしなくてもよろしい。
電話に出る。
「赤とんぼ、羽を取ったら?」
「とんがらし・・・って、古いよ亮介!」
僕はあの○のねが大好きだったんだ。
「すまんすまん、で、何?」
「今から出てこられねえ?」
「今からって・・・もうすぐ八時だぞ?」
「何とか理由作ってさ、出て来いよ。おらんちに来るとかいえばおばさんも許してくれるら?」
うちの母ならまあそうだろう。「淳君なら信用しちゃう!」くらい言う。
「でさ、海パンはいて来いよ。」
「は?海パン?何言ってんだお前こんな時間に。」
「しょろくた※言ってねえで、な?とにかく待ってるけん。宿題のことで聞きたいことがあって、
かなんか言ってすぐに出てきてくれ。一回とにかくおらっちに来いよ。」(※もたもた)
「わかった。出来るだけ早く行くよ。」
淳に言われたとおりに言うと母はあっさり許してくれた。
ほんとにこの母親は。
短パンの下に海パンをはいた状態で家を出る。
チャリンコを飛ばして淳の家に向かった。
淳の家に着く。呼び鈴を鳴らすと、おばさんが出た。

「こんばんは、山下です。淳君います?」
「はいはい、部屋にいると思うだけんねえ。直接行ってくれる?」
淳の部屋はなんと離れになっていて、彼はそこに自分の城を作り上げているのだ。
もともとは彼の父親がオーディオルームとして作った部屋なんだそうで、
防音になっているんだそうだ。父親は既に他界していたが、経済的にはわりと裕福らしく、
部屋にはいるとうらやましいものがいくつも並んでいる。
サンスイのコンポーネントステレオ、レスポール(タイプ)のギター、それにドラムセットまで。
たいてい僕が行くと、奴はステレオをガンガン鳴らして気持ちよさそうにソファに収まっている。
今日もいつものようにドアを思い切りノックした。
淳がドアを開けると案の定、大きめの音でステレオが鳴っていた。
「おう、まああがれよ。これから説明するからさ。」
「ああ。あれ?お前も来てたのか。」
幸利がこっちを見て右手を軽く上げた。
こいつはこの淳の家から歩いて五分くらいのところに住んでいる。
しょっちゅうここには来ているらしい。
「実はな・・・」
と淳が話し出した。
静岡鉄道という私鉄ローカル線が清水と静岡を結んでいるのだが、
その中に「狐ヶ崎ヤングランド前」という駅がある。
その名のとおり「狐ヶ崎ヤングランド」という遊園地が目の前にある駅だ。
(ちなみに現在は遊園地はなくなり、巨大なジャ○コに変身している。)
その「ヤングランド」にはプール施設があり、ウォータースライダーや、回るプールなどもあって、
三保にある「三保ランド」(こちらも二○○六年閉鎖)と夏の遊び場として双璧をなしていた。
そのプール施設に忍び込もうというのだ。
ヤングランドは門中(カドチュウ―清水市立御門台中学校)の学区にあるのだが、
淳の知り合いの門中生が、ヤングランドプールへの侵入路を作り上げたというのだ。
「どうだ、せっかくだから泳ぎに行かざあ※。タダでな。」(※行こうぜ)
というわけだった。

僕らはチャリンコを飛ばし、夜のヤングランドに到着した。
駐輪場は閉まっていたので、適当なところに自転車を停める。
事前に知り合いから詳しい情報を得ていた淳が先導する。
その場所は南の幹線道路側のフェンス際にあり、笹竹や何かで巧妙に偽装されていた。
淳がその偽装をはぐと、フェンスの下側がきれいに掘られ、簡単に侵入できるようになっていた。
「わあ。こりゃすげえや。」
思わず声に出してしまった。幸利も目を大きくしている。
速攻で侵入。
回るプールを目指し、到着。
当然ながら回んないプールになってたけどね。
でも僕らはその普段と違う状況を力いっぱい楽しんだ。
他に誰もいないだだっ広いプールでただ泳いだり浮かんだりしてるだけなんだけど、
日常と違うってことだけでなんかくすぐったいような変な感じで妙に気分が高揚した。
事前に入手した情報によると、十一時と午前四時あたりに警備員による見回りがあるとのことだったので、
十時を過ぎたあたりで僕らは引き揚げた。
帰りは淳の家に寄らず、まっすぐ家に帰った。
僕の髪の毛は濡れていたけど、家族は特に気にならなかったみたいだ。
「いくら淳くんちでも、帰りが十時半ってのは遅すぎるんじゃないか?」
と、父に言われたので、
「ごめんなさい、次から気をつけます。」
と、素直に謝っておいた。
うちの親って、そういう時にきちんと謝ってその後ちゃんとすれば後でグダグダ言わないから助かる。
そのかわり、言われたことを守らないとかなり怖いのでこっちも守らざるを得ないんだけどね。

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