Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第一章 出会い

【九】盆踊り
「今日、盆踊り行くー?」
いきなり絵里ちゃんにそう言われれば僕としてはドキドキでしょう。
でも勤めて冷静に、
「え?盆踊り?どこの?どうしよう、特に考えてなかったけど。」
なんて言ってみた。
「村松神社。一緒に行こうよ。」
そ、そんなこと絵里ちゃんに言われちゃったら僕としては心臓バクレツでしょう。
ここでも勤めて冷静に・・・言えるわけないだろ!
声がちょっと裏返ったかも。
「いくいく、行きます。行きますとも。」
「村中君と麻美も来るってー。高橋君も来るらしいよ。」
しゅうぅぅぅぅぅぅぅ。(何かがしぼむ音) そうですか、そうですよね。そりゃあさ、ちょっとでも期待した僕が愚かでしたよ。
集団でね、行くことになっていたのでお誘いいただいたと。そういうことですよね。
ちょっと冷静に戻って、
「何時にどこに集合?」
「部活が終わって家に帰って、一応六時に村松神社だってー。どう?」
「なら大丈夫、普通に行ける。」
「じゃあまた後でねー!」
「うん、じゃあね!」

集団デート?そんなんじゃない、友達同士で集まるだけ。まだそんな感じだった。
中1だよ、中1。

でもね、ちょっとだけ何かを期待していたのも事実。
その期待はある意味実現し、ある意味裏切られたんだ。

時間通りに村松神社に到着。
参道には露店が並び、満面の笑顔の子供たちであふれていた。
綿飴、金魚すくい、ヨーヨーすくい、お面にカタヌキ。
いか焼きの醤油の焼ける匂いが鼻をくすぐる。
太鼓の音が聞こえてきた。
幸利を見つける。こいつは背が高いからすぐに見つけられた。
この男、浴衣なんぞ着てやがって、それもかなり似合ってやがる。
小中学生女子諸君がそばを通るたびにチラ見していく。ま、悔しいが気持ちは分かるよ。
「ういーっす。淳とかは?」
「まだ来てない。つーか見てない。」
とたんに淳の声がした。
「わりーわりー。わりーっけ。腹が減って露店を巡ってた。お詫びにたこ焼きをひとつやろう。」
可愛い女の子を両手に抱えてたこ焼きかい!この罰当たりめが。
「ちゃんと待ってなきゃ、っていったのにこのスカポンタンがたこ焼きーって叫んで走り出すから、
あたし達で連れ戻してきたの。ほんとしょんない小僧※よね!」(※しょうがない)
絵里ちゃんがぷーっとふくれた。これはこれで大変可愛い。
男子三名、女子二名で歩き出す。
今たこ焼きを食べたばかりだというのに淳の野郎はお好み焼き、チョコバナナ、ソースせんべいと、
立て続けに食い物ばかり買っている。しょんねー小僧だ。
女子二名は可愛い小物や人気歌手のブロマイドにご執心だ。

それにしてもこの女子二名、殺人的に浴衣が似合っている。
これを目にすることができただけでも来た甲斐があったというものだ。

「幸利、ちょっと女子から離れろ。おまえら三人が並ぶとちょっとかっこよすぎる。
俺達がかすんで見えなくなっちまうよ。」
淳の言うとおり、浴衣の三人が並ぶと、ナニナニ、テレビの撮影でもあるの?ってな感じで、
近寄りがたい雰囲気になってしまうのだった。
幸利はそんな淳のことばを本気で受け取ったわけではないと思うが、
それ以降、一歩引いた感じで歩くのだった。

ひとしきり露店を巡り終えると、僕らは踊りの輪に入り、踊りまくった。
最初は見よう見真似で。
最後には舞台の上で踊るおばさん連中と同じくらいに踊れるようになったんじゃないかな、と思う。
それにしても、どうして静岡で東京音頭かなあ。静岡なら、ちゃっきり節でしょ!
と、心の中だけでつっこませてもらう。
少々疲れて踊りの輪から離れると、
「山下君、ちょっと待ってえ。」
と声が聞こえたので、振り向くと絵里ちゃんがついてきていた。
ちょっとドキドキした。
「かんだるい※けん、一緒に休んでええ?」(※かったるい、疲れた)
だいぶドキドキした。
「あ、ああ、かまわないよ。」
踊りの輪からちょっと離れたベンチが空いていたので二人で並んで座った。
かなりドキドキしていた。
「聞いてほしいことがあるだけんさあ、ええかなあ?」
ものすごくドキドキした。
「いいよ。何?」
「村中君、麻美のこと好きなのかなあ?」
来ちゃったよ。
「そう、だと、思うよ・・・・・・」
はっきりそうだと言ってやれよ、僕!
「やっぱそうかあ・・・・・・」
うつむく絵里ちゃん。
「絵里ちゃん、もしかして淳のこと・・・・・・」
顔を上げて無理して笑う絵里ちゃん。
「へへへ、小学校の時からね、ちょっといいかなって。」
「そうだったんだ。」
うなだれる僕。
「期末前の勉強会の時にわかっちゃったっけもんで、
勉強がちょっとだけ手につかなかったりしただよねー」
淳、やっぱお前のせいだったぞ!
「やっぱり、そうだったんだ・・・・・・へへ・・・・・・そうだったん・・・だ・・・・・・」
いかん、絵里ちゃんの声が震えている!下向いちゃってる!
うわっ。肩にもたれてきた!
どうしよう、こんな時は優しく肩を抱いてあげるべき?
でもそんな、ムリムリ、僕にはムリ。
肩を貸してあげることしか出来なかった。
そのまま小刻みに震える絵里ちゃんを左肩に感じながら固まっていたんだ。

しばらくして絵里ちゃんが顔を上げた。
「わりいっけね、山下君。もう大丈夫だから。」
そう言った絵里ちゃんはもう既に笑顔になっていた。
涙は僕のTシャツが吸い取ってしまったらしい。
「なんもだ。なんかあったら言って。なんでも相談に乗るし、
いつでも僕は絵里ちゃんの味方だから。」
思わず横浜時代の更に前、生まれ育った北海道のアクセントが飛び出すやら、
緊張してわけのわからないことを口走るやら、もう少し頑張れ、僕。
「ありがとう。やっぱ頼りになるね、これからもよろしく!」
このことはとりあえず誰にも言わないでおこうと思った。
絵里ちゃんと僕だけの思い出だってだけじゃなく、人に話すようなことでもないからね。

ああ、それにしても、絵里ちゃんの失恋決定の場面に居合わせてしまった僕って・・・
こんなんでいつの日か絵里ちゃんに告白なんて出来るのかしら。

「オイオイ、オイオイオイのオイ。見たぞ見てしまったぞオーイ。」
帰り道で淳が脳天気に声をかけてきた。
絵里ちゃんと望月は少し前で楽しそうにしゃべっている。
幸利は後ろで腕を組んで渋く歩いている。僕は少しむっとして言った。
「何のことだ?」
「何ぶそくってる※だね。絵里ちゃんと二人っきりでなんかいい感じだったっつーのーにぃ?」(※機嫌を悪くする。)
ほんとにこいつだきゃあ・・・
「ちょっと相談に乗ってあげてただけだよ。色っぽい話なんかないよ。」
「そうなの?なんだつまんない。ダーッと行ってグイッときてソレッてな感じで行けばよかったのに。」
どんな感じかわかんねえよ!と笑ってつっこんでそのままごまかした。
ほんとはこいつもどんな話があったのか見当はついてるんじゃないかな、と思った。
すると、淳のやつ、僕の首に腕を回して耳元でそっと言いやがった。
「わりいな、お前に全部おっかぶせちゃったみたいで。
でも、お前ならちゃんとしてくれるかなと思ったっけだもんでさあ・・・」
大してお役には立ってませんよっつーの。

しばらく黙って歩いていたが、淳がポツリと言った。
「いつかはうまくいくとええな、お前と絵里ちゃん。」
僕が言い返す。
「へっ。余計なお世話だ。この貸しはいつか返してもらうぞ。」
「わかってるさ。俺に任しとけ!」
「へへっ。大丈夫かね!」
絵里ちゃんと望月麻美はやっぱり楽しそうにしゃべりまくっていた。
幸利は渋みをきかせて歩いていた。

「まだ始まったばっかりだ。」

僕はひとりつぶやいたんだ。


【乗り換え―大手町】
大手町でふと我に返り、千代田線を降りる。ここで東西線に乗り換えなきゃ。
だいぶ思い出を脚色してしまったから、一人で勝手に顔が赤くなってしまい、
連絡通路で思わず回りを気にして挙動不審になってしまった私。

それにしても中学校一年生の頃って、今思い出すとほんと、子供だったよねえ。
子供なりに一生懸命いろんなことを考え、そのときそのとき真剣だったよね。
今考えれば、それはこうすればいいのに、見たいな事を簡単に言えちゃうけど、
当時はものすごく考えた末にとんでもない答えを導き出したりしていた。

でも、それがおもしろかった。
ああ、脳みそは今のままで中1に戻れないかな。

それにしても、千代田線から東西線までの連絡通路って、長すぎるだろ!

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