Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第二章 ともだち

【五】二学期始まる

夏休みの宿題を何とかすべてクリアし、ほっと一息ついたのは、八月三十日だった。
今日は八月三十一日、あすは二学期の始業式だ。

なんか、この夏はいろいろなことがあったなあ、とボケーっとしていると呼び鈴がなった。
母も出かけていて双子も遊びに行ってしまっていたので、家には自分ひとりだった。
玄関のドアを開けると、スズケンが立っていた。
「わりいけん、宿題を見せてくりょお※。」(※くれよ)
あきれたやつだ。少々の優越感を持って彼を迎え入れた。
「しょんねーな、まあ、あがれよ。」
十分後に呼び鈴がまたなり、出てみるとブー太が立っていた。
「宿題を・・・・・・」
はいはい、わかりました。
そんなんで結局夏休みの最後の日はこいつらの宿題の面倒を見て終わったのだった。

九月一日は晴れの特異日なんじゃないだろうか。
今まで二学期の初日に雨が降った覚えってないなあ。
そんなことを考えながら校庭に出る。始業式が始まった。
始業式が終わると、教室に戻って学活である。
提出物をあつめたり、この後の避難訓練の説明があったり。
十時半。予定通りに教室の前のスピーカーからけたたましいサイレンの音が鳴った。
避難訓練の始まりだ。
東海沖で大地震がいつ起きてもおかしくないと言われて、
ここ静岡では防災の意識が高まってきていた。
そのせいか避難訓練にも気合が入っていた。―先生方の。
僕ら生徒はいつもと違うことをやってるから楽しいくらいの感覚しかない。
生徒にも一人気合の入った奴がいた。
なぜか防災委員をかってでていたエロ岩崎だ。
「頭を下げて!ほら、ハンカチを口にあてないと!煙に巻かれるぞ!
ほらそこ!おしゃべりしちゃいんな!」
先生方より気合が入っていた。
でも岩崎、今日は残念ながら地震想定の避難訓練だ・・・・・・火事じゃねえ・・・・・・。

横浜の小学校で「お・か・し」と習った防災の心得はここでは「お・は・し」になっていた。

お----押さない、
か----駆けない、
し----しゃべらない、が、
お----押さない、
は----走らない、
し----しゃべらない、に変わっていたんだけど、意味は同じだよね。
ちなみに最近では「お・は・し・も」が主流らしいね。
お----押さない
は----走らない
し----しゃべらない
も----戻らない
なんだけど、場所によっては
も----もたない
なんてところもあるらしい。

閑話休題。

いつの間にか避難から集合・整列までの時間を計られていたらしい。
我がクラスは学年で二番目の速さだった。学級委員としてちょっとうれしい。
校長からの訓話が今日はちょっと長いんじゃないかな、
それにしても暑いな、なんてぼーっと考えていたんだ。

と、隣の絵里ちゃんが僕にいきなり寄りかかって・・・・・・
だめだよ、絵里ちゃん、こんなところで・・・・・・
って違う!倒れたんだ!抱きかかえて支える。
岩崎がヒューヒューとか言ってやがるから睨んでやった。
絵里ちゃんは真っ青な顔でぐったりしている。大丈夫か、絵里ちゃん!

小原先生がすぐに来てくれた。絵里ちゃんを抱き上げると、僕に言った。
「山下、ついてこい。手足がいる。」
保健室に向かう。途中の扉は僕が開閉した。保健の先生は保健室で待機していた。
「平原先生、すいません、うちの栗崎が倒れて・・・・・・たぶん貧血だと思います。」
「了解。そういえば栗崎さん、この間相談に来てたわね。それが原因なら心配ないわ。」
小原先生が僕をチラッと見た。僕はきょとんとしていたので安心したらしく、
「山下、戻ってクラスを頼む。」
「あ、はい、わかりました。」
保健の先生に相談ってなんだろう。絵里ちゃん、なんか悪い病気にでも・・・・・・
でも平原先生は心配ないって言ってたし・・・・・・
まだまだコドモな僕は、ただただ心配するだけだった。

「あのな、栗崎、始まったらしいんだ。」
部活に向かう廊下で淳がボソッと僕に言った。
「それで貧血起こしたんだと。」
何を言ってるんだこいつ?何が始まったというのだ。
「麻美から聞いたんだ。お調子者がまた勝手に変な想像してからかったりしたらいやだから
ちゃんと知っといて、って。で、調子に乗る奴がいたら抑えてって。」
だから何が・・・・・・お子ちゃまな僕でもやっと気付く。そうか、アレか・・・・・・
「そう、アレだ。」
そんなこと男子に話しちゃってもいいのかよ、と思ったが、すぐ今聞いたばかりの望月の話を思い出した。
望月はよっぽど淳を信頼しているらしい。
「でな、そのことをお前にも伝えておいて欲しいって。」
そんなに俺のこと信用してくれちゃっているなんて・・・・・・気を引き締めた。
「ま、でも心のどこかにしまっとけばいいよ。なんかあったら思い出そう。」
そうすることにした。

この間、教室で檜山がかばんからポロリと落としたものをめぐって
クラスが大騒ぎになったことがあった。

生理用ナプキンである。

クラスのコドモ大王であるお調子者の鈴木啓介が、そいつを拾い上げてでっかい声で
「何だこれ!」
とやってしまったのだ。
しかも、あろうことかクラス一のエロ大王、岩崎のところに持っていって、
「これなんだかわかるか?」
と聞いたから大変、岩崎は当然のように答えた。
「生理用ナプキンだろ。」
鈴木は馬鹿なことにそいつを頭の上で振りながら「ナプキン、ナプキン、なにすんのー」とか歌いだした。
男子の何人かが笑う。淳が鈴木をたしなめようと口を開きかけたその時、檜山が机に突っ伏して泣き出した。
女子の怒りが爆発した。
オトコ女とあだ名される西川純子がつかつかと鈴木に歩み寄り、いきなり胸倉を掴んで言った。
「鈴木!いいかげんにしなよ!雪絵が泣いちゃってんでしょ!」
いきなり胸倉を掴まれた鈴木は一瞬ひるんだが、すぐに立ち直った。
「うるせーなこの男女!なんだっつーんだよ!おめーもこんなの使ってんだろー」
西川は顔を真っ赤にして、
「何だとこのやろうー」
とうなり、次の瞬間、鈴木にビンタをかましていた。
鈴木は一瞬ひるんだが、すぐに(目には涙を浮かべていた)
「てめー、何しやがんだ!」
と叫んで反撃しようと腕を振り上げた。止めなきゃ!と思った。
淳も一歩前に出かけていた。
気がつくと、その振り上げた腕を小原先生が掴んでいた。
先生は掴んだ腕の先に目をやると、
「何だ鈴木。ナプキン振り回して何騒いでんだ。」
と、鈴木を睨んだ。その声の調子がいかにも凄みが効いたものだったので、
鈴木はすぐに小さくなった。さすが小原先生。僕も淳も肩の力を抜いた。

いつの間にか全員きちんと席についていた。

「よーし。今日の学活だけど、特別に保健体育の授業に変更だ。」
小原先生が言った。さっきのやり取りの後なので、
いつもだったら調子に乗って文句を言う男子も黙っていた。
「ま、こういう機会だから、きちんと勉強しよう。特に男子、
これからは男女の違いってものをきちんとわかっておいてもらわないとな。」
そう前置きして、女子の生理についての授業を始めた。
小学校の時に、放課後女子だけ体育館に集められて保健の先生から授業を受けてたのを思い出した。
その時はかえってその内容を男子があれこれ勝手に想像して女子をからかったりしたのを覚えている。
授業の内容は僕ら男子にとっては結構刺激的だったが、
小原先生の真剣な態度によって、真面目に受け入れられたのだった。
檜山の涙や西川の真っ赤な顔を見た後でもあったしね。

それ以降、ほとんどの男子が女子に対する見方を変えたと思われた。
変な意味じゃなくね。
畏敬の対象と言うかなんというか、
とにかく今までとは違う存在として相対するようになった気がする。
表面上僕らはいままでと変わらなかった。
けれど僕らのクラスの男子は、少なくとも男女は違う存在なんだ、
女性って優しくしなきゃいけない存在なんだってことはなんとなく理解していたと思う。
でも同時にいろんな場面でお互いが異性であることを意識することも増えていった。
また、男子はよりそういうことに興味を持つようになっていった。
男子はそんな性に対する意識の変化がすっごくわかりやすかったと思う。
でも後で聞いた話だと、見た目はわかんなかったけど、
女子のほうがより深く異性を意識するようになっていたらしいね。

ま、個人差はいろいろあったみたいだけど。

この時期を境に誰と誰が付き合ってるとか、
誰が誰を好きだとかそういった話題が急に増えた気がする。

で、僕はといえば、頭の中はもう、今まで以上に絵里ちゃん一色だったのさ。


【六】中ムはすごいやつだった

いつの間にか残暑の季節も過ぎていた。
秋の天気はまるでその日その日の中学生の気分のようで、
晴れたり曇ったり、雨が降ったりと忙しい。
十月の半ばには二学期の中間テストが予定されていた。
一学期の期末テストで好評だった放課後の学習会をまた開くことに、クラスの誰も依存は無かった。
教科係と学級委員で協力してまた学習会に取り組んだ。
今回も前回同様盛況で、なによりも絵里ちゃんの表情が晴れ晴れとしていて、
僕もなんだかうきうきした気分で勉強できたんだ。

そして中間テストが終わった。
今回の結果は以下のとおり。

学級一位----絵里ちゃん(学年七位)
学級二位----淳(学年九位)
学級三位----僕(学年十二位)
学級四位----望月麻美(学年二十位)
絵里ちゃんの復活。
なんかとてもうれしかった僕。

ちなみに幸利の奴、なんと学年で三十位にジャンプアップ。
小原先生にほめられていたが、本人のコメントと来たら、
「は、どうも」
のひとこと。相変わらず愛想はないが、着々と南高への道を進むのだった。

僕もかなりがんばったと思ったんだけど、みんなもそれ以上にがんばったらしく、順位は伸びなかった。
でも自分なりに満足のいく結果だったのでよしとしよう。

学年のトップは、その名を中村直哉君という。
この頃にはその彼が「中ム」だということが判明していた。
彼は今までの三回のテストで常にトップ。
それだけじゃなく、毎回二百四十点台後半という怪物振りを見せている。
そんな奴だからさぞかし頭でっかちのインテリタイプかと思いきや、
これが気が優しくてルックスもなかなかのものだったりして、
天は人に二物も三物も与えるんだな、という不公平を地で行く恵まれた男だったりするのだった。

しかも医者の息子。
ちなみにバスケ部。

普通こんな奴は生まれのよさを鼻にかけたり逆に弱っちくていじめられたりするキャラだったりするはずなのだが、
性格が良くて皆に愛されちゃったりしてるんだな。

初めて彼と話をしたのは、学級委員会の時だった。(彼は五組の学級委員だ。)
「ねえ、君、山下君?」
「何?ええと、君は・・・・・・」
「五組の中村直哉。よろしく。」
「こちらこそよろしく。」
中村直哉、なかむらなおや・・・・・・あの学年トップの中村直哉だ!
僕のことを知ってるげな話し振りはどうしてだろ。
「君は横浜から来たんだって?」
「そうだよ。なんで知ってるの?」
「君のクラスの栗崎さんが報告に来てくれたからさ。実は僕も横浜からの転校生なんだ。」
そうか、こいつが中ムか!
「絵里ちゃ・・・・・・栗崎さんとは親しいのかい?」
「特別親しいわけじゃないけど、小学校の頃はよく話をしたなあ。一緒のクラスだったから。
僕は六年生になるときに横浜から引っ越してきたんだけど、その時隣に座ったのが栗崎さん。」
「そうなんだ。」
少しじぇらしーを感じたりして。
「最初はもうとにかく横浜のことを根掘り葉掘り聞かれてね。その後もいろいろと良くしてもらったよ。
ていうか、転校生の面倒を見るのがうれしかったんじゃないかな。」
ペットと同じだ。世話好き絵里ちゃん。じぇらしー解除。
「たしかに、彼女は誰とでも分け隔てがないっていうか、遠慮がないって言うか・・・・・・。」
「そうなんだ。今同じクラスなら分かるだろ?」
大変よく理解できます。
「そういえば彼女、君のクラスの村中君のことが好きだったんじゃなかったかな。」
少し前までね。でも今は・・・・・・
「どう彼女、元気でやってる?」
「普段からあの通りさ。」
僕は隣を指差した。
そこにはほかのクラスの女子学級委員とマシンガントークを繰り広げる絵里ちゃんがいた。
「よく話が尽きないよな、あのペースでしゃべって。」
「同感だね。」

委員会が終わり、絵里ちゃんが先に部活に行った後も、しばらく中ムとの話は続いた。
「横浜の何区から来たの?」と中ム。
「神奈川区だよ。」
「へえ、僕は港北区だ。小学校はどこだったの?」
「港北小学校。」
「へ?妙蓮寺の?神奈川区に住んでたのに?」
「役所の手違いで越境になっちゃったみたい。君は何小にいたの?」
「菊名小だよ。港北小のとなり。」
「へえ、奇遇だなあ。」
と、こんな感じで盛り上がったんだ。
「それはそうと、君、頭良いよね。中間も期末も学年一位だろ?何でそんなに出来ちゃうの?」
天才君なんだと思っていた彼からは、意外な答えが返ってきた。
「一日家で六時間勉強すれば誰だって出来るようになるさ。」
ろ、ろ、六時間!いったいいつ寝てんだ!
「みんなは『医者の息子だもん、出来て当たり前だよね』とか言うんだけど、
医者の息子だからじゃなくて、たくさん勉強してるから出来て当たり前なんだよ。」
何でそんなに勉強するんだ?もしかして趣味?
「いやいや、そんなんじゃないよ。医者の息子だからさ。」
前後の関係からして良く分からない説明なんですけど。
「僕んちは開業医だろ?長男の僕に継がせたいらしいよ。
別に嫌がる理由もないから、とりあえず僕は一生懸命勉強しているのさ。」
「医者になりたいわけじゃないの?」
少し考えて彼は言った。
「今はまだそんなに。でもいつか本気で『なりたい』って思うかもしれないだろ?
そうなってから頑張っても遅いかもしれないから、とりあえず今から頑張っておこうと思ってるんだ。
可能性の扉は少しでも広いほうがいいだろ?」

すげえなこいつ。
なんか、かっこよくねえ?
色んな奴がいるなあ、中学校って。
淳といい中ムといい。

それ以降、委員会のたびに彼とはおしゃべりをするようになった。
横浜から静岡に来たって事だけでつながっていた。
それ以外ではほとんど接点は無かった。
お互いのことを特に親友だとか何とか思ってたわけでもない。
でもなんか話が合ったな。

「そろそろ部活に行かなきゃ。じゃあまた。」
「うん、じゃーね!」

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