Many Ways of Our Lives

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番外01 番外02 番外03

おだっくいLOVE 番外編その1

部長 杉山明彦の義
俺はどうしちまったんだろう。
学年の誰もが認めるクールガイとしての杉山明彦像がこのままでは維持できない。

あいつのせいだ。

俺んちの隣に住んでいる幼なじみ。
小さい頃から兄弟みたいに育ってきたあいつ。
そう、兄と妹でも、姉と弟でもない、兄と弟的な関係。
だいたい、あいつはどうして男言葉をやめたんだ?

そうだ、確か部活紹介のときにあいつが後輩の山下にちょっかい出して
それが原因で後輩達、山下と栗崎だっけ、あいつらがなんかギクシャクしちゃって、
(あいつらが付き合ってるのを知らなかったのは俺だけだったみたいだが)
それからしばらくしてあいつは男言葉を使うのをやめたんだよな。
俺が理由を聞くと、あいつ、びっくりするほど可愛い顔をしやがって
「この方が自然なのかな、って思えるようになって・・・」
なんて言いやがった。
ほんのりほほを赤らめたりして、あれじゃまるで女の子じゃねーか。
・・・ていうか、あいつ、元々女の子なんだよな。
それまでがおかしかったんだよ。
小さい頃からあいつ、可愛かったんだ。

なんか、兄弟みたいに育ってきたからあんまり意識したことなかったし、
特にここ二年は吉成先輩の影響で男言葉で顔つきまできりっとさせやがって、実に不思議な雰囲気をかもし出していたからな。
なんつーか、男を寄せ付けないっつーか、ちょっと違うな、男を男として意識してないっつーか。
小学校までは俺のことだって、「あきちゃん」って呼んでたのに中学校に入って少ししたら「杉山」とか呼ぶようになって。
自分が呼ばれてんだかなんだかわかんなかったよ、全く。

いやそれにしてもあいつ、いつの間にあんなに成長してたんだろ。
女の子として見たら、あいつ、かなりレベル高いじゃねーか!
不思議な目をした、どちらかと言うとあいつ、美少女だよな。萌え系?不思議系っつーの?
で、あのプロポーション。
背は高くないけど、出るとこは出てて引っ込むとこは引っ込んで。
昔は、トランジスタグラマーとか言ったそうな・・・・・
何を言っているのだ、俺は。

問題は俺があいつを見るたびにドキドキして何か話そうとすると噛んじまうことだ。
ドキドキがまわりにバレバレじゃねーか。
今日も部活で、基礎合奏の後、生徒指揮のあいつが「部長、何かありますか?」って振ってきた時、
「あ、ああ、と、特にない。」とかどもっちまった。望月が明らかに俺を見て笑っていた。二年のやつらも。特に村中、山下!あいつらは絶対面白がってる。
救いは海野だ。あいつだけは今まで通りにしてくれてる。
してくれてる・・・・?ああ!情けない!
クールガイ杉山明彦はどこへ行った?
このままでは部員にしめしがつかん。何とかしなければ・・・・・
でも、何をどうすればいいんだ?
と、こんな風に部屋で悶々としていた時、母さんに呼ばれたんだ。

「明彦!美里ちゃんだよ!降りといで!」
美里が来た?うわっ。どうしよ。って、何で俺が慌てなきゃならないんだ?
幼なじみがいつものように遊びに来ただけじゃねーか。
いつも通りいつも通り。
俺は深呼吸して気持ちを整えると、階下へ降りた。
「おう、美里。ど、ど、どうしたんだお前?」
美里が、美里が・・・・

「そうなのよー。ねえ、びっくりするほど可愛いわよねえ。こうして見ると、本当に美里ちゃん、女の子だったのねえ。」
そこにはフ、フ、フリルのついたワンピースを着て、頭にリ、リ、リ、リボンのついた髪留めを付けた美里がいた。可愛い。可愛いにも程がある。
「いやだ、おばさん。そんなに言われると、恥ずかしいー。」
うーわー!ちょっと照れた感じの美里はすでに凶器だ!俺のハートにはすでに矢が二百本くらい刺さっているに違いない!
認めたくなかったが・・・・・俺は美里に、完全に参っている!
危うく俺はその場で告白するところだった。
が、その瞬間、理性がそこに自分の母がいることを告げたので、踏みとどまれた。
それに、こいつが俺のことをどう思ってることやらわからん。
「あきちゃん、どうしたー?何を固まってるー?」
うっ、「あきちゃん」と呼ばれた瞬間、「幼なじみ」って言葉が強烈に俺を縛ったぞ。
踏みとどまってよかった。おれはやはり隣の「あきちゃん」に過ぎないのかもしれん。
それにしても・・・・・

ここ数年、家にいる時の美里は、夏はTシャツにGパン、または短パン。冬はトレーナーにGパン。それ以外はほとんど見たことがなかった。
「いやほんと、おばさんもうれしいよ。あんたのお母さんも喜んでるでしょう。小さい頃からあんたが可愛くて可愛くて、
でも一生懸命可愛いものを着せようとするのに、あんたは絶対着なかったものねえ。お母さん、喜んでるだろうねえ。」
「うふふ。そうなの。私もなんか生まれ変わったみたいで楽しくて。」
その表情だああああ!その表情を今すぐにやめろおおおお!
俺は・・・・・俺は・・・・・となりの「あきちゃん」じゃいられなくなっちまう・・・・・
「で、どうしたんだい?今日は。まさかそのワンピース姿を見せにきてくれただけじゃないんだろう?」
「そうそう、そうなの。お母さんがね、もし夕食の準備がまだだったら、一緒に食べに来ない?だって。なんかものすごい量の五目寿司を作っちゃったらしいの。」
「いーやー。うれしいわあ。今ちょうど今晩どうしようか考えてただよねえ。甘えさせていただこうかね?」
「はーい。あきちゃんがうちに来るの、久しぶりだね。ふふっ。なんかうれしいな。」
「ああ。ほんと、久しぶりだな。それにしても、うん、その、なんだ、えーと・・・・・」
「なーに?どうしたー?」
「そ、そのワンピース、よく似合ってるぞ。」
「そう?うれしい!これ、お母さんが縫ってくれただよー。お母さんに伝えとくね!」
あれ?ちょっとこいつ赤くなってねえ?気のせい?つーかまぶしい・・・・・
「ほんとによく似合ってるわよ。じゃあ、私はお手伝いに行こうかしらね。美里ちゃん、いきましょうか。明彦、あんたはどうするだね。」
「俺、後から行くから。準備できたら呼んでくれよ。」
「わかったー。じゃあおばさん、行きましょう。」
ふたりが勝手口から出て行って、俺はほっとした。

それにしても・・・・・
俺と美里が幼なじみだということは学校のみんなも知っていることだ。
これって、アドバンテージだよな。

ん?何の?

いい、もう今日は色々考えるのをやめよう。
せっかくの美里(とその家族)との夕食だ。楽しく過ごそうじゃねーか。
準備が出来たと美里が呼びに来た。
舞い上がってた俺だが何とかクールダウンに成功し、渡部家にいつもの俺でお邪魔することが出来た。
途中で親父も帰ってきて、久しぶりになんか両家揃ってみんなでわいわい食卓を囲んだ。
小学校の時まではよく集まったものだが、そういえばもう二年くらいこんなことはなかった気がする。
親父まで美里のことをほめまくるもんだから、美里は照れちゃってほほを赤らめ、更に可愛さが増すし、聞いてるおばさんはもう顔が緩みっぱなし。
笑い顔などめったに見せないおじさんもニコニコしている。
ほら、もう食い物もなくなったし、帰るぞ親父、おふくろ。と思ったら、いきなりおじさんがしみじみと話し始めた。
「杉山、覚えてるか?いつか二人で話したことを。」
「おう、今俺もそれを思い出したところだ。」
なんだ、親父。何のことだ?
「こうやって成長した二人を見ていると、やっぱりそう思わんか?」
「うむ。お前の言うとおりだ。」
俺は訳がわからず親父に尋ねた。
「二人で何言ってんだ?俺達にもわかるように話せよ。」
親父がニヤリとする。
「お前と美里ちゃんのことだよ。」
おじさんが続ける。
「昔から、二人が成長したら結婚させたいなあ、なんて話してたのさ。」
は?何言ってんのこの人たち。そういうのはお互いの気持ちとか何とかが一つになって初めてお話が始まるようなことであって、美里の気持ちがどうかと言う・・・・・
真っ赤になってるよ!しかもうれしそうじゃねーか!
「バカなこと言ってるじゃない。美里が困ってるら?」
「そうなのか?美里。困ってるのか?」
おじさんに言われて、美里がきょとんとした顔で首を振る。
「ううん。そんなことないよ。」
ダメだダメだダメだ。こんな感じでなし崩しってのは俺の美学に反するのだ。
理想的なシチュエーションで、俺からきちんと伝えたいのだ!
「とにかく!そういうことは本人達のいないところで勝手に話を進めないでくれ!」
美里がちょっと悲しそうな顔になる。
「あきちゃん、あたしのこと、嫌いなの?」
「そういうことじゃない。今までお前のこと、そんな風に見たことなんてないし、だいいち付き合ってもいねーのにいきなり結婚とか何とか、
そんなバカな話あるかっつーの!」
「明彦、何をそんなに興奮してるだね。美里ちゃんがびっくりしてるだろ!」
母さんに言われてハッとした。
おじさんも親父もニヤニヤしている。
「こりゃあれだ、意外に早いかもな。」
おじさんが言う。
「俺も、こういう反応は意外だったなあ。」
親父だ。
しまった。一人で勝手に過剰反応してしまった。
この二人の冗談には慣れていたはずなのに・・・・・
「親父ィ・・・・・」

「でもあれだ、小さい頃お前たちが婚約するのを聞いたのは事実だぞ。」
と親父が言い出した。
「は?何言っちゃいるだね。」
と俺が返すと、今度はおじさんが、
「そうそう、美里が俺に『あたし、あきちゃんのお嫁さんになる!』とか言うから明彦ちゃんに『美里をもらってくれるかい?』って聞いたら、
『いいよ。みさとをぼくのお嫁さんにする!』ってはっきり言ったよなあ。」
「いつの話だ、そりゃあ?」
「確かお前たちが三歳か四歳の頃だ。幼稚園に通ってたからな。」
そんな昔の話今頃出しやがって・・・・・
俺が赤くなって黙り込むと、美里が笑った。それこそ天使のような微笑で。
その後大人たちは酔っ払って大騒ぎになっちまった。
「酔っ払いは放っといて部屋に行こ。」
俺は美里に言われるまま、美里の部屋に移動した。

久しぶりに入った美里の部屋は、なんか花の香りがした。
「あきちゃん、覚えてた?さっきの話。」
「あ?幼稚園の頃のことなんて、覚えちゃいないっつーの。」 「あたしも、すっかり忘れてた。正直ね、あきちゃんのこと、男の子だって意識したのはそのときくらいだと思う。
それからはただの兄弟みたいに思っちゃってたから。」
そ、そうなのか。と言うことは、今も俺のことは兄弟みたいにしか思ってないって事か。これはまた強烈な先制パンチを喰らっちゃったなあ。ははは・・・。
「中学に入ってからは特に。今考えると恥ずかしいこと、いっぱいしてきちゃった気がする。本当にあたし、自分の事女の子だなんて意識したことなかったの・・・・・」
確かに。こいつは少しおかしいんじゃないかと思われるようなことは色々あった。特に三年になってからはな。
部活紹介の時はまいった。美里の胸に顔をうずめる山下を心底羨ましいと・・・いや、けしからんと思った。まあ、山下に罪はないんだが。
あの時の栗崎の顔も忘れられん。

「部活紹介の後、わたし、おかしくなっちゃって。トロンボーンの山下君に恋しちゃった。」
ぬあんだとー!山下、お前の死刑は確定したぞ!
「でもね、保健室の平原先生に色々お話しを聞いてもらううちに、それは私の勘違いだってわかったの。」
山下、恩赦だ。助かったな。死刑はやめて終身刑くらいにしてやる。
「でもそれから、私にとって男子は兄弟と同じ存在じゃなくって、男の子になったの。そして自分は女の子だと意識できるようになったのよ。
そういう意味じゃ山下君に感謝してる。」
山下、そういうことだ。まあいいだろう。許してやる。
「でね、今とっても気になる男の子がいるんだ。」
誰だそいつは!目の前にいたらぶっさらって※やる!(※ぶん殴って)
「ふふっ。気になる?」
「べ、べ、べえつうにいいい。」
「そうなんだ。ふーん。じゃあ教えない。」
「なんだよ。じゃあ振るんじゃねーよ。」
「やっぱり気になるんだ!」
ちょちょちょちょっと、そういう姿勢でこっちに寄って来るんじゃねえ!
そのムネの谷間は反則なんだよおおお!

俺はすっくと立ち上がって言った。
「帰る。言っとくが、学校では俺に対するそういう態度は慎めよ。おれの部長としての立場に関わるからな。」
美里がいたずらっぽく笑う。うわ、この笑顔可愛すぎ。く〜〜〜、たまんねー。
「はい、部長!」
元気良く言って敬礼しやがった。笑うしかないよな。俺も笑って敬礼を返し、美里と一緒に部屋を出たんだ。
一階に降りると、親達はいい感じに酔っ払っていた。
「親父、おふくろ、帰るぞ!ほらもう、起きろよ親父ィ。義之、ちょっと手伝え。」
美里の弟に手伝ってもらって親父を起こす。おばさんとおじさんは笑って手を振ってる。
「あたしも手伝う。」
美里も手伝ってくれて、なんとか両親を家に戻した。
「美里、義之、サンキュー。そうだ義之、ちょっと前のねーちゃんと今のねーちゃんとどっちがいい?」
「明彦にーちゃんはどうなの?ま、弟の僕としてはどっちでもかまわないけどね。」
義之がニヤリとして言った。逆襲に遭った俺は適当にごまかすしかなかった。
「いや、ま、どうでもいいよな。じゃあな、お休み。」
「お休み。」

帰っていく美里の後姿がやけに大人びて見えて、俺の胸は再びドキドキしてきやがった。
明日は日曜日。俺の心の嵐を静めなくては。
それにしても、気になる男って誰だ?
いかんいかん、これじゃ嵐は静まらない。
それにしても、美里、見事に花開きやがったよなあ・・・・・
いかんいかん、これじゃクールガイとしての俺のステータスが・・・・・。
それにしても、あいつのあの胸・・・・・
だめだ、俺壊れちゃいそう・・・・・

やっぱ山下、お前死刑だ。
美里が花開くきっかけを作った罪で。

「ねーちゃん、明彦にーちゃんをあんまりいじめちゃいけないよ。」
義之がまじめな顔で言った。
「えー?何でそんなこと言うー?」
「だって、にーちゃん、ねーちゃんがなんか言ったりしたりする度に赤くなったり青くなったり、泣きそうになったり色々してたじゃん。
あんなにーちゃん、見たこと無いよ。面白かったけどね。ねーちゃん、明彦にーちゃんになんかしたんじゃないの?」
ふふっ。この子の目にはそういう風に映ってたんだ。
「別に何にもしてないし、いじめてもいないよ。あきちゃん、具合でも悪かったんじゃないの?」
「そうかなー。」
「もう遅いわよ。お父さんもお母さんもああなったら何時になるかわかんないから、歯を磨いて寝なさい。」
「うん。おやすみー。」
「おやすみなさい。」
弟を軽くハグしておやすみをすると、私は二階の自分の部屋に上がった。
うちの両親、本当に酔っ払うと際限が無いんだから。

あきちゃん、本当は私のことどう思っているのかしら。
平原先生と色々お話をしてから、冷静に周りを見てみたけど、あたしにとっての「男の子」はやっぱりあきちゃんしかいないってわかった。
山下君には本当に悪い事をしたと思ってる。あの時の私はまだ本当の私じゃなかったの。ごめんね、山下君、そして栗崎さん。
平原先生に目を覚まされてしばらくはそれまでの私を思い返して恥ずかしくてしょうがなかったりしたけど、今はもう大丈夫。
ていうか、開き直って「生まれ変わったんだ」と思うしかないよね。
急がず焦らず、あきちゃんの気持ちを確かめて行きたい。
こうなったらあきちゃん、逃がさないからね。
絶対にあたしのほうを向かせてみせるんだから。
明日は練習無しの日曜日。あきちゃん、何して過ごすんだろ。
遊びに行っちゃおうかな?
ううん、急がず焦らず。
時間はたっぷりあるんだから。
義之が映画に行きたいとか言ってたから付き合ってあげようかな。
ふふっ。おやすみなさい、あきちゃん。


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