Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第四章 変化

【九】名誉挽回!期末テストに集中せよ

梅雨に入ってしばらくたつけど、今年は空梅雨みたいだ。

中間テストの後、ロングホームルームで提案した学級での学習会については、
色々意見も出たんだけど、篠宮がうまくまとめてくれて、まずはやってみよう、ということになった。
一年の時にやってた内容を一歩進めて、各教科の一単元が終わるたびに学習係が予想問題を作成、
都合のつく者は放課後少し時間をとって学習会、そうでない者には作った予想問題を配って、
わからないところは後から質問させるようにした。
放課後は結構みんな部活とかあるので、時間は30分、途中で抜けてもかまわない、としたんだけど、
意外に多くの参加があって、篠宮ともどもほっとしたのさ。

ある土曜日の放課後の学習会の後、篠宮と参加者の確認をしながら話した。
「うん、この調子なら期末は結構期待できるんじゃないかな。」
「そうね、学習会に関してはみんなに評判がいいわよ。気楽に参加できるようにしたのがよかったみたいね。」
篠宮もうれしそうに今までの参加者の集計結果を眺めている。

あの天王山遺跡の一件の翌日、篠宮は見事にいつも通りだった。
それ以来僕らは学級委員としていいパートナーぶりを発揮していた。
また、篠宮の振る舞いが素敵にクールで周りに変な誤解を与えることも全く無かった。
そんな篠宮を見て、クールビューティ好きの青石が心を動かされているらしい。
そのことを知っているのは僕だけだったけどね。
青石からも口止めされているし、人のことに余計な口出しはしないことに決めたんだ。

「ついこの間まで渡部先輩を追っかけてたのに、すぐに目移りするような軽薄な人間だと思われたくないんだ。」
青石が僕に相談がある、と言うから聞いてみたらそういうことだった。
「でもお前が美里先輩を追っかけてたなんて、知ってるのは僕くらいのもんだろ?」
「そりゃそうだけどさ・・・・」
「じゃあ別に気にすることないじゃん。」
「これは僕の気持ちの問題なんだよ。きちんと納得できるまでよーく考えてから行動に移したいんだ。」
ま、そこまで気持ちが固まってるんならそれでいいんじゃないの。
じっくりやってちょうだい。
篠宮自身の気持ちの整理もしっかり付いているはずだしね。
「篠宮さん、好きな人とかいるのかなあ。」
ちょっと前まではいたんだけどね、今はいないはずだよ、とは教えてあげなかった。
そこんとこは自分の力でなんとかしてくれ、青石。
自分で何とかしようと動き出したなら、僕に出来る範囲で協力するから。
淳たちにものすごく後押ししてもらってやっと絵里ちゃんとここまで来た僕だから、
青石がその気にさえなったなら、応援してあげたい、と思ってるんだ。
今はまだ様子見だね。

6月も終わりに近づき、僕らの学習会もかなり盛り上がって来た。
そして期末テスト一週間前。いよいよ学習会の本番だ。
各教科の学習係が作った予想問題集を印刷する。もちろん各教科担任のチェックは受けた。
数学の村松先生は吉竹(こいつは数学の天才だと思う。)の作った予想問題を見て目を丸くして驚いてたそうだ。
その様子を見ていた加藤先生がそっと教えてくれたんだけど、そのあと予定していた問題を少し変更したらしい。
ま、でも範囲が決まってるからそう大幅なぶれはないはずだ。
帰りの学活で宣言をする。
「今日から放課後の学習会本番です。都合の付く人は出来るだけ参加して下さい。
各教科の担当者が個人教授もしちゃったりするからね。早いもん勝ちだよ。」
数学は吉竹、国語は佐島、英語は大竹、社会は篠宮、理科は絵里ちゃんが質問受付担当者となっていた。
(彼らにはあらかじめ問題を持ち帰ってもらって研究してもらっておいた。)
もちろん、参加の方法は色々で、一人でプリントと格闘して最後に答えあわせでもいいし、
一問ずつ質問受付担当に聞いてもよし、何人かでわいわいやりながらでもかまわない。
プリントだけもらって帰って家でやってきて次の日に質問でもいいし、参加する時間も自分で決めてかまわない。
ルールは一つ。人の邪魔はしないこと。

1日目の今日、参加者は32人だった。のこりの6人もプリントをもらって帰った。
中には「塾の予定があって参加できない」と残念そうな顔で帰る者もいた。
32人中最後まで残っていたのがなんと25人もいた。
終わりごろ顔を出した加藤先生もびっくりしてた。
「山下、なんかすごいなあ。みんなこんな時間まで残って、しかもみんな夢中じゃないか。」
「僕もびっくりです。中間の時に先生があんなに脅かすからですよ。みんな必死です。僕も含めてね。」
「先生!今回の中川君の英語には期待して下さいよ!私が叩き込んじゃいますからね!」
大竹が加藤先生に宣戦布告だ。
中川の奴、困った顔をして見せているが、内心うれしくてしょうがないはずだ。
お前が大竹に惚れていることは、お前と大竹以外のクラス全員が知ってる。
それにしても中川は今まで英語でたしか20点以上とったことがないはずなのだが、大竹、大丈夫なのか?
「まかせといて、今日1日で中川君、試験範囲の単語の3分の1、覚えちゃったから。あと6日あれば十分。やれば出来る子なのよ、この子は!」
お前は中川の母親か?何でそんなにうれしそうなんだ?まあいいや、加藤先生をびっくりさせてやろうぜ。

「よーし、じゃあそろそろ時間だ、片付けようぜ!」
五時十五分、一般下校の時間まで後15分だ。
思い思いにグループを作っていた机を元に戻し、あまったプリントを回収する。
「おつかれー。じゃあまた明日な!」
「じゃあねー、さよならー。」
「お疲れ様!1日目、大盛況だったね!」
絵里ちゃんに声をかけられた。
「いやあ、僕もびっくりだよ。10人も残れば御の字だと思ってたからね。」
「あーら、私はこのくらいは予想してたけど?」
篠宮だ。
「だって、今までの単元ごとの学習会の手ごたえを考えれば、これくらいはね。
みんなも今回の期末に向けて結構必死になってる。中間で先生に檄を飛ばされた原因は本当は誰かさんたちなのにね。」
痛いところを突くねえ。
ま、実際のところ篠宮の言うとおりで、篠宮を始めとしたみんなは中間でそれほど失敗してるわけじゃないんだよね。
絵里ちゃんが答えた。
「それを言わないでよ。大丈夫、今回はちゃんとやってるから。ねえ、亮くん。」
「ああ。期末の学級順位は大きく変動するはずだ。青石も気合が入ってるみたいだし。」
青石の名前が出て篠宮が反応した。
「そうそう、青石君よね。中間の時はどうしたのかしら。1年の時はいつも10番前後をキープしていたのに。
あんたっちはまあ色々あったみたいだからしょうがないにしてもねえ・・・・・今日は早く帰っちゃったけど、
明日はちょっとつかまえて色々聞いてみたいな。」
この件に関してはコメントを避けた。青石、がんばれよ。
「まあ、ひとそれぞれ、色々あるんだろうさ。篠宮だって、今回はちょっと自信あるんじゃないの?」
「ふふふ。そうね。あんたっちの勉強のやりかた見たり、他の人に色々教えてあげることでなんか自分自身の理解が深くなってく様な気がする。
そういう意味じゃ学習会に感謝だな。」
そうなのだ。
人に教えてあげることで改めてわかってくる事とかもあって、誰かと一緒に勉強するのって、結構自分の為になったりするのだ。
以前いきなり絵里ちゃんが家に来た時に色々教えてあげたことがあったけど、その時以来ずっと考えていたんだ。
そういう意味では今回の学習会はうまく行ってると言えるな。
「さあ、最終下校時間だ。帰ろうぜ。」

「絵理、ごめんね、山下君借りるね。」
「はいはい、いくらでもどうぞ。減るもんじゃないし。」
篠宮と僕の帰る方向が一緒なので、こんな冗談を言い合っている。
そこにはぎこちなさなんて何も無くて、篠宮が自然に僕らの仲間になってることを改めて感じた。
「じゃあね、亮くん。また明日!」
「うん、さよなら!」
絵里ちゃんは同じ方向の上田や吉竹なんかと帰っていった。

「あれから一ヶ月だね。」
篠宮がしみじみと言う。そういえばそうだ。
「なんかこうやって2人で歩くのも平気になっちゃった。人間って、状況にすぐに慣れちゃうもんなんだなあって思うなあ。」
「そうだね。俺もしばらくは天王山遺跡の前を通るたびにお前の顔思い出してたけど、最近は全然浮かんでこないし。」
「ひどーい。忘れないでとは言わないけどさ。そんな言い方はないでしょ。」
「あんときはねえ、肩がびっしょりになっちゃってねえ。」
「やっぱ忘れて。思い出すと恥ずかしいわ。」
2人で笑った。あの時の事を笑い飛ばせるようになったことが嬉しく、ちょっと寂しかったんだ。
ふと口に出してしまった。
「お前さー、あれ以来気になる奴とかいねーの?」
「え?何言っちゃいるだね。まだ1ヶ月だよ。そう簡単にあっちからこっちへなんてできるわけないでしょ。」
あれ?クールな篠宮らしくないちょっと感情的な感じ?こいつはもしかして・・・・・
「まあなんだ、僕に出来ることがあれば言ってくれよ。応援するからさ。」
「そうねー。ほかに相談できる人もいないし。その時はお願いするかも。」
友達はたくさんいるけど、女の子は口が軽いから相談しにくいのよねーとのことだった。
絵里ちゃんと望月のことを考えるとそんなことはないと思うんだけど、
まあ篠宮がそう言うならそうなんだろう、と特に突っ込まないでおいた。
そんな話をしているうちに家に着いた。
「じゃあな、明日もよろしく。」
「うん、じゃあね、バイバイ。」
「バイバイ。」
今日はもう見送ったりはしなかったさ。
いつも一緒の仲間なんだから。

学習会本番2日目。
土曜日なので、参加者は弁当持参。
放課後3時まで残ってもいいと加藤先生から特別許可はもらっていた。
帰りの学活が終わり、昼食をすませ、1時開始。
土曜日で弁当持参が条件にもかかわらず、クラスの半数以上が残っていた。
参加者二十五人。これも予想以上だ。さすがの篠宮も驚いていた。
「一日目でみんな味をしめただよね。こりゃ期末、結構期待できるよ。」
「そうこなくっちゃ。さ、今日もみんなでがんばろうぜ!」
大竹は中川の家庭教師みたいになっていた。
でもまあ中川に問題をやらせている間、他のやつらの質問にも答えてやってたし、教科担当としては十分な働きを見せていた。
数学に関してはやはり吉竹は天才的だった。
数学が苦手な特に女子にその教え方が好評で、吉竹の周りはちょっとした塾の授業風景みたいになっている。
またこいつが優しいんだよね。
特別いい男って訳じゃないけど、すっきりとした顔立ちと優しい物言いが女子のハートを引き寄せている。
女子の何人かは吉竹に惚れたに違いない。

こいつにはできれば参加してほしくないなーと思っていたのが亀山だった。
こいつはとにかくおちゃらけ野郎で、まじめに何かをやると言う能力に徹底的に欠けている奴だと思っていたからだ。
真剣な話し合いを茶化す。
カップルと見れば冷やかす。
屁はこく。
特に女子からはゴキブリのような扱いを受けていたからね。
当時の僕にはこいつがなぜそんなことばっかり言ったりやったりするのか全く見当がつかなかった。
何か原因があるんじゃないかなんて考えもしなかった。
ただうっとうしい奴だとしか見ていなかったんだ。
その亀山がまじめにやってるんだ。
一日目はプリントをもらってすぐに帰ったから正直ほっとしていたんだけど、
今日の帰りの学活が終わってこいつが弁当を広げた時には「げっ」とか思っちゃってたんだよね。
なのにその亀山が・・・・・

何が起きたのか周りには全く理解できなかった。
ハートマークが飛び交う吉竹の周りにぴったりくっついて数学のプリントに取り組み、時折吉竹に質問を投げている。
数学のプリントを終えると今度は絵里ちゃんに理科の質問だ。
その間ずっと亀山に注意を向けていた僕だったんだけど、こいつ時々ふと篠宮の方を向くんだ。
絵里ちゃんに理科を教わった後、大竹に何かちょこっと聞いてそのあと社会のプリントを取りに来たと思ったら熱心に解き始めた。
真剣に取り組んでる。
さっきのは気のせいかな、と思ったとたん、亀山はまた顔を上げて篠宮を見た。
たまたま僕が篠宮の近くにいたせいで、僕の視線と亀山の視線がばっちり合った。
その瞬間亀山の奴、まっかっかになりやがった。

そうだったのか。亀山の奴、とうとう色気づきやがって。
しばらくまたプリントに目を落としていたが、意を決して立ち上がると、篠宮のもとにまっすぐ歩み寄った。
途中で僕と目が合ったが、僕は知らん振りした。亀山は真っ赤になって言った。
「し、篠宮さん、社会、教えて。」
「いいよー。ちょっと待ってね。この子の答え合わせすぐ終わらせるから。」
亀山、お前ちょっとわかりやすいにも程があるぞ。
篠宮は誰かのプリントの答えあわせを終えると、亀山の相手をはじめた。
亀山の奴、おとなしくまじめに篠宮の話を聞いている。
時々篠宮と目が合っては顔を真っ赤にしてやがる。
おいおい、それじゃ篠宮にバレバレだろうが。
まあいいか、お前がまじめにやってくれるなら僕は何も言わない。
それに篠宮もそんな亀山の雰囲気を知ってか知らずか全くの普段どおりだし。

僕はよろず相談係になっていたので、全教科の質問に答えねばならず、
みんなが入れ替わりで色々聞きに来るのでしばらく亀山から目を離していた。
ふと篠宮の声が聞こえたので、そっちに目をやると、亀山が嬉しそうに篠宮に感謝を伝えているところだった。
後で篠宮に様子を聞いてみよう。
亀山が明後日からどんな風になるのか、ちょっと楽しみだ。

もうすぐ終わる時間になる、と言う時に加藤先生が教室に来た。
「山下、じつはな、他のクラスから、三組で使っている予想問題のプリントをもらえないかと言ってきてるんだが、どうする?」
よーし。そうこなくっちゃ。僕は学習係と篠宮に集合をかけて加藤先生に言われたことを投げかけてみた。
「どうする?みんな。僕はいいと思うんだけど。」
「えー、せっかく作ったのにー、自分らで作ればいいじゃんねー。」
「いいじゃん別に。ただプリントやるだけじゃオレらみたいにゃいかねーら。」
「あたしっちは心が広いんだってところを見せてあげましょうよ。」
「そうそう、余裕のあるところを見せてやろうぜ。」
予想通り賛成意見がほとんどだった。
「と言うわけで先生、OKが出ました。」
「そうか。じゃあ希望クラスにはプリントのコピーを渡すよ。それにしても山下。」
「なんでしょうか。」
「結構みんなやるじゃないか。期末テスト、期待して良さそうだな。」
「はいっ。結構いい線行くと思いますよ。」
「うむ。後よろしく。きちんと片付けておけよ。」
「そりゃもう。終わったら報告に行きますから。」
「おう、じゃあ職員室で待ってるわ。」

「お疲れさん!じゃあ明後日なー。」
みんなが帰った後、学習係と学級委員プラス絵里ちゃんで教室を片付けていた。
ちょっと思うところがあり、青石にも手伝わせていた。
「篠宮、亀山どうだった?すっげーまじめにやってたじゃん。」
気になる亀山の事を聞いてみた。
「えー?あたしもびっくりしただけん、すごくまじめにやってたよ。真剣な目でね。」
大竹が首を突っ込んできた。
「そうそう、中川は私が鍛えてるし、亀まで勉強するようになったら、うちのクラス無敵なんじゃない?
ていうか、亀の篠を見る目線、熱かったよねえ。」
大竹、好きだねえ、そういう話。青石がピクリと反応した。
篠宮が軽く流す。
「そう?別に気になんなかったけど。」
亀山、残念な感じだな。青石が安堵の表情を見せた。
「それより青石君、今回は大丈夫よね。中間でコケてたみたいだけど。なんかあったの?」
いきなり篠宮に振られて青石はびっくり。
「べ、べつになにも。ちょっと体調が悪かっただけさ。今回は負けませんよ。」
ほんとに分かりやすいよな、みんな。
青石、またそんな感じで女の子に夢中になってるとコケちゃうぞ、なんちゃって。
僕が言うな、って感じだよね。
「大体片付いたか。じゃ、加藤ティーチャーに報告してくるから、校門とこで待ってて。」
「うん、じゃーねー。」

職員室に行くと、加藤先生がタバコを吸いながら何か書き物をしていた。
(この頃の職員室って、普通にタバコの煙が充満してたなあ。)
「先生、終わりました。片付けも完了です。」
「戸締りは?」
「窓も扉も鍵閉め確認しました。」
「おう、ごくろうさん。今日は結局何人だった?」
「二十五人ですね。」
「結構残ったなあ。学級委員に学習係も大変だけーが、あとすこし、頑張ってくりょお。」
「はい。」
「そういえば今日、亀山が残ってたみたいだけーが、ちゃんとやってただかね。」
「それが・・・・・実にまじめに。特に篠宮の前では真っ赤になって頑張ってました。」
「何、亀が?篠宮?うむ、亀にはわりーけん、この恋は実りそうにないな。」
「まーた先生、そういうこと言って。」
「おっと、いかんいかん、誰にも言うなよ。」
「了解です。では、失礼します。」

【職員室〜加藤先生】

「山下ですか。なにかいい感じに張り切ってますな。」
四組の斉藤先生だ。
「はい。先生のところの村中と離れてからなんかこう、自立心がでてきたというか、
一年のときとはまた違ったリーダーシップを発揮しているようです。」
「村中といえば、山下の学習会に対抗してかどうだか、クラス独自の学習方法を秘密裏に進めているらしいですよ。」
「ほう、どんな内容ですか?」
「『担任にもそいつは教えられません』とか言って教えてくれんのですわ。
まあ、あいつのことだから任せておいてもいいかな、と。」
「そうですね。いずれにしろ今回の期末テストに関してはこちらからほとんどあおる必要がないので、
気楽といえば気楽ですな。」
「まっことそのとおり。どうです、今日の帰り、軽く一杯やっていきませんか?」
ほんと、斉藤さんは好きだねえ。飲みが。
「いいですねえ。あ、小原先生。一組の悪巧みは終わったんですか?」
印刷用の原稿用紙をたくさん抱えて小原先生が職員室に入ってきた。
「望月麻美が今後片付けをしてますよ。三組のプリントをもらっただけじゃ三組には勝てない、とか言って、
ずいぶんプリントの原稿を渡されちゃいました。」
「ううむ、この学年の生徒はまじめなんですかねえ。よく勉強すること。」
「ていうか、何をやるにも面白がってるみたいに見えますけど。」
「面白がってる?」
「ええ。勉強するんでも遊ぶんでも、ただやるんじゃなくて、自分たちで考えた一ひねりが欲しいみたいで。
そこを考えるのが楽しいみたい。」
「そういえば去年の夏休みでしたっけ、ヤングランド事件。」
「そうですね。で、そのときの首謀者たちが今の学年のリーダー格。」
「こりゃ大変だ。まかせっきりではいけませんな。」
「締めたり緩めたり、われわれもいろいろ考えないといけないですね。」
「加藤さんの言うとおりだ。軽く一杯やりながら考えますか。小原先生もどうです?」
「今日は帰ります。望月に渡されたプリントを印刷しなければいけませんし。」
「わかりました。じゃあ、テスト明けの飲み会には参加してくださいよ。」
「そりゃもう。子供はだんなに預けてでも。」
「ははは。じゃあ、お先に。」
「お疲れ様です。」
さ、じゃあ斉藤先生と軽くビールでも飲んでから帰りますか。小原先生、バトンタッチ。

【印刷室〜小原先生】

「小原先生、印刷手伝います!」
望月麻美が職員室に入ってきた。佐藤と吉住も一緒だ。
「ありがとう、じゃあ早速やろうか。輪転機の使い方、分かってるのは?佐藤?望月も大丈夫だな。
吉住もこの機会に覚えてしまおうか。」
中学生は結構こういうのが好きだ。また器用ですぐに覚えてしまう。
正直ありがたい。
それにしても望月の一声であれだけ学級の生徒が動くんだから、この子もたいしたものだ。
それこそ生徒会向けの人材だわ。
できれば会長かしら。立候補してくれないかな。
なんていろいろ考えているうちにプリントの印刷が終わった。
「閉じるのはクラスでみんなでやったほうが早いと思うわ。先生、ホッチキスだけたくさん用意しておいていただけますか?」
「わかった。今日はみんなご苦労さん。もしよければ冷たいりんごジュースがあるが、どうだ?」
「やったー。のど乾いちゃったもんねー。」
「じゃあ、こっちに来なさい。」
三人を職員室の一角に案内する。来客向けのソファーで、本来は生徒立入禁止の場所だ。
「今日は特別だ。普通はこんなところ、生徒が入っちゃいけないんだけどな。」
ちょっとくすぐったそうに三人がソファーに座る。私が振舞ったりんごジュースをおいしそうに飲み干した。
「ご馳走様でした。じゃあ、今日はこれで失礼します。」
「ああ、本当にご苦労さん。ありがとうな。」
三人で楽しそうに帰っていった。
去年の六組もいいクラスだったが、今年の一組もなかなかだ。

村中、山下。望月はお前たちに負けないリーダーだぞ!

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