Many Ways of Our Lives

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おだっくいLOVE

第三章 めざめ

【一】冬休み
本州に来てよかったなあ、と思ったのが、夏休みが長いことだった。
本州に来てがっかりしたのが、冬休みが短いことだった。

説明すると、小学校五年までいた北海道では夏休みも冬休みも二十五日ずつだったんだ。
本州にきたらそれが、夏休みが四十数日、冬休みが二週間程度になったので、
喜んだりがっかりしたり、というわけ。で、僕らも短い冬休みに突入した。

冬休みはほとんど部活が無かった。ちょっと寂しい。
楽器の練習が出来ない。
先生は家にもって帰っていいって言ってくれたけど、トロンボーンを練習できる部屋なんてないしね。
絵里ちゃんにあまり会えない。これはたまりませんや、社長。
でも、冬休み練習の最後の日、ちゃんと絵里ちゃんと約束したんだ。

例によって練習終了後は校門ミーティングだ。今日は風もなく日も照っているので比較的暖かい。
「亮介君、村中君、初詣はどうするー?麻美も誘ってみんなで一緒に行かない?」
絵里ちゃんから振ってきた。
そ、そりゃもう、おいらは何をおいても馳せ参じますぜ、親分。
あれ?淳君のリアクションにいつものキレがありませんが、どうかしましたか?
「いやその、なんつーか、すでに予約がはいっておりまして。」
「歯切れが悪いな。何だよ予約って。」
「いや、えーと、麻美殿が拙者と二人でゆかぬかと・・・・・・・」
「なにそれー、もう決めてたんだー。ずーるーいー。」
ちょっと心配したんだけど、絵里ちゃんの反応は明るかった。そのあと僕は耳を疑う。
「いいもん、山下君と二人で行くから。ねー。」
そういって絵里ちゃんは僕の腕を取り、淳にあっかんべーをした。
何この展開。絵里ちゃんどうした?何があった?てか、淳に「ナイスアシスト!」と言うべきか?
淳があやまる。
「わりいっけねー。先に言っときゃよかっただけーが、忘れえてたっけ。」
というわけで、二日の日、絵里ちゃんとふたりで初詣に行くことに決まった。
これってデート・・・・・・だよね?いやいやこれをデートと言わずして何といいましょうか?

実を言うと、期末テストのあたりから、絵里ちゃんの僕に対する態度がすこしずつ変わって来ているような感じはしてたんだ。
僕んちに来て勉強したり、その後も、僕のことを「亮介兄ちゃん」とか「お兄ちゃん」とか呼んでみたり。
何か心境の変化があったには違いないのだが、今ひとつ自分に自信のない僕は、
なかなかその流れをぐいっと自分の方に引っ張ることが出来なかった。

そういう意味ではこの中途半端な自分を何とかするチャンスかもしれない。
一月二日へむけて僕の気持ちはすこしずつ高揚していったのさ。

「亮介!窓拭いて、窓窓。それが済んだら換気扇だからね!」
大掃除の日は(どこも同じだとは思うが)我が家は修羅場となる。
「ちょっとパパ、どこに行ったの?網戸はもう洗い流したのかしら。菜摘!神棚のお掃除は終わった?
康介!ちょっと来てちょうだい!康介!」
もともと母はきれい好きなので、毎日隅から隅まで磨き上げているんだ。
だから、父に言わせればうちには大掃除など必要ないのであった。
しかしながら、網戸を洗えば埃は落ちるし、換気扇には少しずつ取れずに残っていたものがこびりつき、
力を入れなければ取れないような状況にはなっていた。
要するに普段集中して掃除できない場所というのがあるのだ。
窓なんていうのは毎日磨いてても不思議に汚れちゃってるもんだしね。
それに、母に言わせると、「大掃除をやった、という達成感が大事なのよ。」だそうだ。
双子の妹の方は良く働いている。
実は僕も良く働いている。換気扇の掃除なんて、実は大好きだったりするのだ。
頑固な油汚れがきれいに落ちてぴかぴかになった時の喜びと言ったら!
いや大丈夫、病的なほどきれい好きってわけじゃないから。

双子の兄の方は、ダメダメだ。
大掃除をかくれんぼと勘違いしている。
いかに母の目から隠れるかを最大のテーマとしている。
押入れから虫干しの為に布団を出そうとしたら、
やけに重いので広げてみると中から康介が出てきたりね。
父もあまりやる気がない。ほうっておくとすぐに外に出て行こうとする。
世の父親ってのは、大掃除の時にはここぞとばかりお掃除奉行ぶりを発揮しているものと推察するが、
うちのはだめだ。あ、父が母に捕まった。タバコを買いに行ってたんだよー、なんて言い訳は通用しない。
先日パチンコで大量に取ってきたのを誰一人忘れちゃいないし。

大騒ぎとなった大掃除も何とか終了。
母が夕食の準備をしている。いいにおいがキッチンから漂ってくる。

大晦日の今日は、東京にいる父の妹が正月を過ごす為に遊びに来るのだ。
毎年の行事である。で、大晦日の夜は父も母も叔母も大いに飲む。そしてまた酔っ払うんだ、これが。
来るのが叔母さんだけの時はそれでもまだいいんだけど、母方の親戚が集まっちゃった日にはもう、大宴会。
リビングに子供の居場所なし。
そんな時はしょうがないから僕の部屋や双子の部屋が学童保育所となるのだ。

今年は叔母さんだけなので、みんなで比較的ゆったりと紅白歌合戦を見ることが出来た。
日本レコード大賞を見て、終わったらすぐにNHKにチャンネルを変え、紅白歌合戦を見る。
これが日本人の大晦日でしょ?
この頃の日本レコード大賞は、その権威を維持していた最後の頃になるのかな。
ピンクレディーが大賞を取っちゃった頃から、少しずつ何かが変わっていった気がするね。
TBSを飛び出してNHKに急行する歌手達、間に合うのかなーなんて子供心に心配したものさ。
「さあ、年越しそばですよー。」
母がうれしそうにそばを運んでくる。
うちでは真剣にそばで年を越すのだ。
23時55分に食べ始め、行く年来る年を見ながら新年に食べ終わるのが常だった。

大晦日の夜。この日だけは子供も何時まで起きていようが親に文句を言われなかった。
「今年こそは完徹するぞー!」
なんていきまいていてもあっさり零時過ぎに意識を失っちゃったりして。
そんでもって朝めざめて「何で寝ちゃったんだよー、ダメじゃん俺―」みたいに泣きそうになったりして。
うちの父親は文句を言わないどころか、時として子供を寝かせなかった。
いきなり、「初詣に行くぞー!」とか言い出して、家族全員を引き連れ、近くの神社に向かうんだ。
双子が小さかった頃は、眠っちゃったどっちかをおんぶさせられたものだ。で、家に帰ってきてみんなバタンキュー。(死語)
そんなだから、初日の出なんてあんまり見たことがないんだ。
元旦にめざめるといつもお天道様は高くおあがりあそばしてたからね。

この年は父も本格的に酔っ払っちゃって、初詣を提案する前に寝ちゃったのだった。
僕はなんだか眠れず、行く年来る年を見終わった後も、なんか昔の映画とかやってる奴をだらだら見続けた。

この頃は夜中には昔の戦争映画ばっかりやってた気がする。
その時はヘミングウェイの「誰がために鐘は鳴る」をやっていた。
何かすっごく入り込んじゃって、真剣に最後まで見たのを覚えてる。
イングリッド・バーグマンが魅力的だったなあ。
ゲーリー・クーパーもかっこよかった。
ゲーリー・クーパー扮するジョーダンへの協力者パブロの妻をやったカティナ・パクシノウも素敵だった。
役名はなんだっけ、ピラーだったっけかな?なんかそんな名前だった。
ネタバレになるから詳しくは言えないけど、最後は泣いちゃった。
なんだかんだで生まれて初めて徹夜をしちゃったのさ。

六時を回って、空はけっこう明るくなってきていた。
僕はセーターにマフラー、はだしのまんまでサンダルを履いて家を出た。
ホント、清水って気候がいいよね。正月にその格好で外出できるんだから。
そのまま三十分くらい歩いて駒越の浜まで来ちゃった。
浜に近づくに連れて歩いてる人が増えてきた。
浜に着くと、意外にたくさんの人が初日の出を見ようと集まっていた。
焚き火をしている人もいた。雲ひとつない空だった。

七時まで後五分、といった頃、伊豆半島の真ん中くらいからそいつはやってきた。
さーっと光が広がった。
じいちゃんばあちゃんが拝んでる。
これが初日の出か!
僕も拝んじゃった。
当然考えてるのは、
(どうか絵里ちゃんともっと仲良くなれますように。)
に決まってるよね。

その日はやっぱり前夜の徹夜がたたって、昼間の正月番組は全て見逃した。
遅い朝のお雑煮を食べた後にやってきた睡魔くんにやられたんだ。
目が覚めたのは午後の四時過ぎだった。

すっかり忘れてたんだけど、両親と叔母からお年玉をもらい、正月気分が戻ってきた。
さてさて明日は一月二日。絵里ちゃんと初詣だ。

朝十時に村松神社で待ち合わせの約束だった。
胸、弾みまくり。
踊り出しかねない気持ちで家を出、歩き始めた。
新春の風が冷たい!懐はお年玉であったかい!
神社までは十五分くらい。気がついたらもう着いていた。
参道の入り口の幟旗の袂で絵里ちゃんを待つ僕。
まだ九時半だっつーの。早すぎるっつーの。
だって、ねえ。絵里ちゃんとねえ。初デートとくればねえ。遅れるわけには行かないし、ねえ。
でも早すぎだあな。
それにしても立派な幟旗だこと。なんて書いてあるのかな。
するといつの間にか隣に立っていたじいちゃんと目が合った。
僕の胸のうちを読んだかのように説明を始める。
「なんて書いてあるかっつーとな、こっちかたん『国威輝四海』、ほいでやあ、こっちかたんな・・・・・・忘れえちまった。
なんかえれえ由緒あるものらしいだけーが、ええ字らあ?。」(出典=電脳六義園通信所)
いやいや、頼んでもいないのに中途半端な解説をありがとうございました。
でも、じーちゃんばーちゃんの筋金入りの清水弁は心に染み入ってくるねえ。
次郎長さんの時代もホントはこんな言葉でしゃべってたのかなあ。

「石松!いつまでもしょろくたしてるじゃねえぞ!」
「へえ、わかっちゃいるだけーが、てゃあしょうと一緒かと思うとうれしくってうれしくって。」

なんつって。

とか何とか言ってるうちにもうすぐ十時だ。
来た!

絵里ちゃん、振袖!
絵里ちゃん、綺麗!
どうでもいいけど、似合いすぎ!

「おはよう!待たしちゃったっけ?」
「いやいや、僕も来たばっかり。」
「わっはっはっは。しょんねえ小僧だ。嘘ついちゃいんな。
おめっちはもう三十分以上前からここでずーっとにやついてたっけずら。」
いきなりさっきのじーちゃんが後ろから口を出しやがった。
余計なことを言うなって!僕の顔は真っ赤になっていたに違いない。
「なーにー、おじいさん、そうなのー?いやこまるー。」
この場合、「い」にアクセントがつくのが静岡流だ。
おばさんたちの会話なんて、時としてこの「いーやー」「こーまーるー」だけで成立してしまうことがある。
これはその場で実際に聞いてみないと雰囲気は伝わらないかもしれないね。

この場合の絵里ちゃんの「いやこまるー」は、「そんなに待ってくれちゃってたんだ、ごめんね。」とも取れるし、
「なーにー、そんなに前から来てたのー?びっくりー。」とも取れるし、
ま、なんとも便利な言い回しではあるが、ちょっとだけおばさんっぽいぞ。

じーちゃんに抗議の視線を送ると、ウインクで返しやがった。このじーちゃん、只者じゃないな。
「さ、いこうぜ、結構人一杯だよ。」
「うん、行こう行こう。」
振袖を着てしずしずと歩く絵里ちゃんはたまらなく輝いていた。
髪をアップに結ってたんだけど、うなじがその、なんというか、たまらなく、
まあ、あれだね、いうなれば・・・・・・って、とっても色っぽかったんだよ!(一人で照れている僕)
絵里ちゃんの歩みに合わせてゆっくり歩くんだけど、それがまたうれしかった。
参拝待ちの列に並んでる間も、たっぷりと絵里ちゃんを鑑賞させてもらいました。
と、いきなり絵里ちゃんがこっちを向いた。目があっちゃって顔を赤くする僕だった。
「えー?なにー。ずっとこっち見てたー?」
「い、いや、今だけ・・・・・・」
って何言ってんだ俺?
ちょっと間があいて、二人で吹き出した。
それまで絵里ちゃんと二人きりのデートに緊張していた僕だったんだけど、これでその緊張が解けたんだ。
「白状するけど、ずっと絵里ちゃんの事見てたんだ。」
今度は絵里ちゃんが赤くなった。え?ということは?
「亮介君、なんか照れちゃうこと平気で言うんだ。」
「ごめんごめん、そんなつもりじゃ・・・・・・」
「責めてるんじゃないよ。私だって、今日は気合入れてきたんだから。」
え?今なんて言った?絵里ちゃんが今日、気合を入れて来ている?と、いうことは?
「朝からお母さんに着付けてもらって、頭も結い上げて、頑張ってきたんだからね。」
頑張ってきた?と、いうことは!この瞬間、僕は天に昇った。
我が生涯に一片の悔い無し!(早すぎるぞ中一)
よし、気持ちをちゃんと伝えるのは今しかない。
「ホントに素敵だ。振袖もとても似合ってるよ。今までちゃんと言えなかったけど・・・・・・。
声を大にして言うよ。絵里ちゃん、僕やっぱり君のことが好きだ。」
絵里ちゃんが顔をさらに真っ赤にした。
「ちょっと、亮介君、声大きすぎ・・・・・・」
はっと我に返った僕は周りを見回した。げげっ。みんな見てる。拍手してる人までいる。
そんなに大声だったのかな?僕も自分で分かるくらいに真っ赤になった。
いや、何も恥ずかしいことをしてるわけじゃないし。せっかく並んだ列なので、ちゃんと参拝した。
「何をお祈りしたの?」
「今まで以上に絵里ちゃんと楽しく過ごしていけますように。」
絵里ちゃんがまた赤くなった。僕もちょっと調子に乗ってるかも。
「絵里ちゃんは何を祈ったの?」
「世界が平和になりますように。」
「へえ、えらいなあ。」
「なんちゃって。私も同じ。今まで以上に亮介君と仲良く過ごせますように。」
おいおい、まるで恋人同士みたいじゃないか。これって、両想いって事でいいの?
なんて、今までみたいに考えちゃった。でも、本当なんだよね。いいんだよね、そう思って。

それにしても、どうして絵里ちゃんは・・・・・・
いいお友達だったはずだよね、僕。それがいつの間に・・・・・・

どうしても気になったので聞いてみた。
絵里ちゃんはにっこり笑うとちょっと遠くを見る目で話し始めたんだ。
「最初はね、好きとか嫌いとか、そんなんじゃなかったの。亮介君といろいろやってると楽しかったし、
でもそれって、他のみんなと色んな事やってて楽しいのとおんなじだと思ってたのね。夏のコンクールの後言ったじゃんね?」
「そうだった。僕もあの時はかっこつけて納得して見せたっけね。」
「えへへ。そうだったんだー。でね、それでも亮介君、それまでとぜんぜん変わらずに私と接してくれたもんね。
で、文化祭とか学習会とか色んな事やってる間に、ふと気づくと、あたし亮介君の姿を探してるのね。
文化祭の後とかも、沙弓ちゃんの事でなんか変な気持ちになるし。それってどういうことなのか、考えるようになったの。」
てか、その時点でビンゴでしょ普通。まあいい、絵里ちゃんだしね。
「でも自分でいろいろ考えても良くわかんなかったもんで・・・・・・」
その時点で分からんのかい!まあまあまあまあ、絵里ちゃんだから。
「麻美に相談してみたっけだよね。」
なるほど。グッチョイス。
「そしたら、『それって単純に、山下君の事を好きになったって事じゃないの?』っていわれた。」
望月ナイス!ふう、やっとここまで来たか。
「で、麻美にどうしたらいいか聞いてみただよー。冬休みに入る前にー。」
うんうん。
「そしたら、『二人で初詣でも行けば?』って言われた。」
え?だって、あの時、絵里ちゃんがみんなを誘ったのに、淳が望月と約束があるからダメだって・・・・・・・
って何、淳もグル?
「ごめんね、白状するけど、実はそうなの。自分で直接亮介君を誘うなんて出来ないって言ったら、
麻美が村中君に相談したらしくて、村中君から作戦を告げられただよねー。」
あいつ・・・・・・しかも絵里ちゃん女優ー。
僕がちょっと遠い目をしたもんで絵里ちゃん、勘違いしたらしく、
「ごめんねー。やっぱ気にするよねー。自分だけ知らなかったなんて・・・・・・」
いやいやいや、違うんだ絵里ちゃん。
「そうじゃなくってさ、僕、やっぱだらしなかったな。うまくいかなかったらどうしようって、そればっか考えて、
絵里ちゃんにそんな事までさせちゃった。僕がちゃんと言わなきゃいけなかったんだ。ごめんね、絵里ちゃん。」
「いやだー。謝んないでー。亮介君ちっとも悪くないしー。あたしが鈍感だったのが悪いっけだよー。」
「なんか、お互いに謝りっこで、僕らなんか変だね。」
目と目が合って、また吹き出した。

「おみくじ引いてみようか。」
「さんせーい!」
二人でおみくじをひいた。
「どう?どう?何が出た?」
絵里ちゃんを促す。
「えー、ちょっとまってー。今開いてみるから。ええと・・・・・・わあっ!大吉っ!待ち人来る・・・・・・って、もう来てるしー。(笑)
願い事すぐにかなう・・・・・・ってかなってるしー。(爆笑)勉学さらに伸びる・・・・・・って、いい事尽くめだー!亮介君は?どう?何が出た?」
さすが絵里ちゃんだ。(何が?)
さてさて、僕はといえば・・・・・・
げげっ。
「凶・・・・・・」
「凶?」
「・・・・・・」
「ほ、ほら、よく言うじゃない。気持ちを引き締めるためにいいんだって。
そこに書いてある事を戒めにしてきちんと生活していけば災いから逃れられるんだって。なんて書いてある?」
「待ち人来るも直ぐに去る。」
「う・・・・・・」
「願い事かなわず。辛抱が大切。」
「うう・・・・・・」
「勉学、身につかず。諦めが肝心・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「僕、だめだめじゃん・・・・・・」
「な、何言っちゃいるー?こんなの、ただのおみくじでしょ。そこの枝にでも巻きつけておけば大丈夫。」
そうだよね。ただのおみくじだよね。きちんとたたんで、枝に結び付けて・・・・・・あ・・・・・・破れた・・・・・・
「ごめんね、新年早々運が悪くて・・・・」
と、ここまで来るとさすがに二人とも笑うしかなかった。今日三回目。目と目を合わせて吹き出したのさ。
そのあと、二人で社務所横の茶店でお昼をいただいた。
三学期の抱負やら、クラスのみんなの噂話やら、淳と望月の話やら、部活の今後の話やら、なんだかんだ二時間くらいそこにいたかな。

三十分くらいにしか感じなかったけどね。

バスで帰るという絵里ちゃんをバス停で見送って、そのまま雲に乗ったような気分で家に帰った。
家に着くとすぐに淳に電話したんだ。

「おう、亮ちゃん。そろそろ電話が来る頃だと思っておったぞよ。貴公は運が良い。
わしもさっき帰ってきたばかりじゃ。で、どうっだった?」
「淳・・・ありがとう。」
「なんだよ改まって。ということは、オイオイ、うまく行っちゃったのか。」
「うん。君らのおかげだよ。麻美っちにもよく言っといてくれ。」
「なーんだ、バレちゃったのか。まあいいや。いろいろあったけど、やっとここまで来たな。」
「絵里ちゃんにじゃなくて、僕に作戦を立ててくれればよかったのに。」
「それも考えただけーが、お前さんがなんか達観しちゃってる感じだったもんで、わりーけーが絵里ちゃんに動いてもらった。
都合のえー事に麻美に相談してきたもんでな。これ幸いと入れ知恵をさせていただいたっつーわけだ。」
「ほんとにありがとう、淳。でも、これからどうしたらいいんだろ。君ら先輩カップルをお手本にしてよーく勉強させてもらわないと。」
「情けない事言っちゃいんな。お前らはお前らなりにフツーにやってりゃいいんだよ。変に意識すると台無しになるぞ。」
またこいつは大人びた事を・・・
その後僕は淳に、絵里ちゃんの振袖姿がとても綺麗だった事、うなじがとってもセクシーだった事、
妙なじーちゃんのこと、おみくじでえらい事になった事、あれもこれも全部話して聞かせた。
淳は電話の向こうで笑ったり頷いたり(僕には分かった)実に楽しそうに僕の話を聞いてくれた。

電話を終えて部屋に戻ろうとしたとき、双子が顔を出して、
「やったね、亮介にーちゃん!」
とステレオで声をかけてきた。
「ばーか、何言ってんだよ。」
そう言った僕は確かにニヤついてた。

絵里ちゃん、大好きだー!

最高の正月だった。

このまますんなりうまくいくはずもないんだけどね。だって、僕だから・・・

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