The Stories of Mine

メシアな彼女

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【7】作戦開始

オレとカオルは日曜の夕方、例によってアキバデートを楽しんでいた。
夕食は下北沢の「遊牧民」に予約を取ってあったので、そろそろ移動しなきゃ、
なんて時にカオルがオレに聞いた。
「今日は兄メイトとか行かないの?」
「ん?いや、とりあえず考えてなかったけど、何で?」
「今日って、ガン○リンガーガールの八巻の発売日じゃなかった?」
「うをっ。そうだっけ?よく覚えてたなあ。すっかり忘れてたよ。ありがとう。じゃ急いで買ってこよう。
うーん、混んでるなあ。二人で入ると時間がかかって晩飯の予約に遅れちゃいそうだな。一人でダッシュで行って来るよ。
ここで待っててくれるか?」
「えーつまんない。でもいいや。また今度ゆっくり来ようね。」
「OK。じゃ、待ってて。」
オレはダッシュで四階まで駆け上がった。
でもって平積みになっているガンスリン○ーガールの8巻を2冊購入。
もちろん保存用と読書用だ。兄メイトで買うのには訳がある。
そりゃもうポイントをためるためだ。
レジがたまたま空いていたのであっという間に購入し、また階段を駆け下りた。
外に出るとカオルを探す。さっきいたところにはいなかった。
しょうがねえな、どこをフラフラしてんだあいつは!とかぶつぶつ言いながら周りを見回す。
いない。晩飯の予約に間に合わないじゃないか!とか言いながらカオルの携帯電話の番号をプッシュ。
呼び出し音が三回なって、カオルが出た。
「もしもし、カオルか?何やってんだよ、時間がないのに。」
「ごめんなさい、お兄ちゃん。あのね・・・・・・ちょっと待って、今替わるね。」
ん?声の調子がおかしい。震えてる?
「は?替わるってなんだよ。お前どこにいるんだ?」

「私たちの車の中ですよ、松下雪之丞さん。」

携帯のスピーカーから聞いたことのない男の声がした。
なんだ?コレは一体何の冗談だ?
「車の中って・・・・・・お前、誰だ?何がどうなっているんだ?」
舞い上がったふりをする。
相手の思うつぼにはまっていると思わせておくのがいい。
「松下さん、いや、狩人殿と言った方が良いかな?いえね、あなたの大事なこの娘さんを
ちょいと預からせていただいたのですよ。あなたとじっくりお話をするためにね。」
こいつ、オレを狩人と言った。夢喰いか。夢喰いがカオルを誘拐?
「おいおい、オレと話をしたいんだったら直接そう言ってくれればいいだろう。カオルは関係ないんじゃないのか?」
「こりゃまた面白いことを仰る。あなた方狩人殿は私たち―あなた方の言うところの『夢喰い』を見つけると、
問答無用で狩ってしまおうとなさるでしょう。話になんぞならないのが普通じゃないですか。」
確かにこいつの言うとおりだ。
「何が望みだ。」
「先ほど言ったでしょう?あなたとじっくりお話がしたいんだと。大丈夫。あなたとお会いするまでは
このお嬢さんには一切手出しはしませんから。追ってまた連絡しますよ。お会いする日時と場所についてね。では失礼しますよ。」
「ちょっとまて、おい!」
電話はすでに切れていた。

まったく予想だにしていなかった。いきなりカオルが誘拐されるだなんて。 夢喰いの連中、このところ増えてきているのは間違いなかった。
それは感じていたし、実際に狩の回数も多くなっていた。
それにしても「わたしたち」と言っていたが、あいつらが連係プレーをするなど、今までにはなかったことだ。
オレたち狩人同様、単独行動が基本だったのだが。精神生命体同士、考えることは同じ、ということなのだろうか。
やつらがオレのことを監視していたらしい、と言う事実にもわけもなく腹が立つ。
それにしても夢喰いの連中、カオルの存在がどういうものなのかを正確に理解したうえで誘拐したのだろうか。
それともオレと関係のある存在、というだけでオレをどうにかするためだけに誘拐したのか。
後者であることを祈った。
何しろオレたちにもカオルが一体何のためにオレと一緒にいるのか、どういう存在であるのか、
はっきりとはわかっていないのだから。
奴等がどういうつもりかは知らんが、一刻も早くカオルを助け出さねばならない。
くそう、カオルの身に何かあってみろ、あいつら・・・・・・

オレはすぐにチームの連中と連絡を取った。

「あんたも不用意ねえ。そんなところでカオルちゃんを一人にするだなんて。最近、割と平和だったから。
そんな状況に慣れっこになってボケちゃってんじゃないの?」
「彩子さん、そんな言い方はないでしょう。心配して落ち込んでるのは松下さんなんだから。」
彩子さんの容赦ないツッコミに吉田君がフォローを入れてくれた。
ま、でも彩子さんの言うとおりだ。オレの不注意がこの結果を招いた。
「いや、すまん。吉田君のフォローはありがたいが、正直、彩子さんの言うとおりだ。」
電話が切れた後、オレはすぐに二人に連絡を入れ、俺の部屋に来るように伝えておいた。
で、部屋に入るなり彩子さんに攻撃を食らったわけだ。
「力を貸してくれ。」
「もちろんですよ。」
「はいはい。コレがチームの初仕事って訳ね。」
不本意ではあるがそのとおりだった。
当初の計画では来週の日曜日、アキバで第一回のチームハンティングを開始する予定だったのだ。
それがやつらの予期せぬ行動で、計画を変更せざるを得なくなった。
それでもこのチームをしっかり機能させなければならない。今後のためにも。
「電話に出た男は、オレと会う日時を改めて連絡してくる、と言っていた。その場所に移動し、カオルをどこかに閉じ込め、
オレを迎え撃つ準備ができてから連絡してくると言うことだろうと思っている。」
「まあ、そんなところでしょうね。」
「で、カオルが一体どこへ連れて行かれたかなんだが・・・・・・」
「どうせ発信器かなんか、携帯に仕込んであるんでしょ?」
「話が早いな。当然やつらもそれを考えて、おそらく携帯は捨てたに違いないんだ。ホラ。」
さっき電源を入れておいたノートPCをさす。
液晶画面には地図が映し出され、その一点で光が点滅していた。
「あちゃー。万世橋のあたりで止まってますね。こんなところにアジトがある訳ないからなあ。」
「そういうこと。」
「で?二つ目はどこに仕込んどいたの?」
「これまた話が早いな。カオルのバッグの中と靴のかかとの二箇所だ。」
画面を切り替える。小川町のあたりで光がひとつ点滅している。
「バッグも捨てられたようだな。」
さらに画面を切り替える。広域画面だ。
「三つ目の点滅はここね。靴は捨てられなかったみたいね。」
「立川のあたりですか。ここって・・・・・・昭和記念公園の中じゃないですか?」
「そうだな。そのとおりだ。とりあえず今カオルは立川にいる。でもまだ連絡がない。
と言うことはこの後また移動する可能性もあると言うことだな。いずれにせよ考える時間はありそうだ。
とりあえず明日、月曜だけどオレは休みなんだが、明日以降、君らの予定は?」
「あたしは毎日日曜日よ。冬コミの準備は前倒しで進めてたから余裕はある。」
「僕は学生ですからね。何とでもなります。」
「わかった。で、明日なんだが、とりあえずオレは部屋でやつらからの連絡を待つ。
連絡が入り次第、二人に連絡を入れるから、携帯がなったらすぐに出られるようにしといてくれ。
メールで送るかもしれない。いずれにせよその場所に先に二人で行ってもらって、
様子をつかんでからオレが行くようにしたい。いいね。」
「了解。ま、あたしも部屋で待ってることにはなるけどね。冬コミの準備少しでも進めとかないと。」
「僕は学校に行ってますよ。立川のあたりならいいんだけどな。大学は小金井だし。」
「よろしく頼む。今日のところは以上だ。何か質問は?」
「ありません。」
「ないわ。じゃあね、連絡待ってる。」

二人が帰った後もしばらくオレはPCの液晶画面の光の点滅を眺めていた。
カオルはここにいる。
でも今のこのこオレがここをたずねて行ったりすれば、カオルの発信器のことがばれてしまう。
待つことがこんなに辛いのは初めての経験だった。思いはひとつ。

カオル、無事でいてくれ・・・・・・

今夜は眠れない夜になりそうだった。
モードを切り替える。これで眠れなくて疲れがたまることはなくなる。
しばらくは人間モードから離れることになりそうだ。
そういえばマスターが言っていた武器の件はどうなっただろう。
確認のため、隣の部屋に移動し、連絡用パネルを起動した。
ブーンと軽い唸りを上げて有機EL液晶画面が美しいロゴマークを表示する。
その後に表示されるメニュー画面から、マスターからの指示に関する項目を選択する。
画面が切り替わり、さらに細かいメニューが表示される。
「物質転送」を選択。マスターの元で転送準備ができているもの(点滅しているもの)を選択すると、
マスター側で物体が分子レベルにまで分解し、こちら側にある転送ボックスにその物体が再構成される。
「量子バリア」と、「電磁ネット」、「電磁ナイフ」、の三つが点滅していた。
早速選択、数量を指定して物質転送を行う。
ものの数秒でそれぞれが三つずつ転送ボックスの中に再構成されていた。
明日にでも二人に渡しておこう。今後、必ず必要になるだろうから。

  翌日、朝の内に武器を二人に渡しておいた。
午前中にその電話はやってきた。

「松下さんですか?お待たせしました。お約束の連絡です。」
「カオルは無事なんだろうな。」
「昨日も言ったでしょう。あなたとお話をするための人質なんですから。そりゃもう、丁重に。」
PCの光点の位置は昨日と変わっていなかった。
でもあわててチームへのメール送信はまだしない。
今から聞かされる場所に移動するのかもしれないし。
「で、何時にどこに行けばいいんだ。」
「慌てない慌てない。まずは注意事項をお伝えしておきますよ。ひとつ、必ずあなたお一人で来てくださいね。
応援など呼ばれては困ります。そのような「誰か」を確認した場合、即座にカオルさんの命は失われると思ってください。」
やはりこいつら、カオルの価値をわかっているわけじゃなさそうだ。
「ひとつ、武器の携帯はご遠慮願いたい。話し合いをするのですからね。無粋なものはお互い身につけたくは
ありませんでしょう。最後に、時間は守ってくださいね。少しでも遅れた場合、カオルさんの命の保障はいたしません。」
「ちょいと待った。言ってることがおかしくはないか?オレと話をするためにこんなことやらかしてんだろうが。
カオルの命を奪った時点でお前たちの命の保障もできないぜ。」
「おかしなことを仰いますねえ。私たちに『命』と言う概念はない筈です。私たちは大いなる方々のために
精神エネルギーを集めるためだけにその存在意義を持つ単なる有機端末。そしてあなた方もそんな私たちを
狩るためだけに存在する端末に過ぎない。もともと一度は『死んだ』身ですからねえ。ロボットと同じで
生命に対する執着と言うものはないはずですが。」
「存在が失われれば雇い主に責任が果たせないだろうが。それがオレたちの行動基準なんじゃないのか?」
「今ここでそのような我々の存在意義に関する問答をしている暇はないのですよ。とにかく今から言う場所に、
指定の時間に来てください。いいですか?一度しか言いませんからね。昭和記念公園の広場ゾーン、
みんなの原っぱの真ん中に大きな木が一本生えています。そこに明日の午前二時。いいですか?今日の夜中ですよ?
午前二時にお待ちしております。私たちも武器は携行しませんが、自衛策として逃亡用の乗り物くらいは
用意させていただきます。あなた方狩人さんたちはお強いですからね。注意事項を守ってないなあ、と思った
その瞬間にカオルさんには命を失っていただき、私たちは逃亡いたしますので。くれぐれもご注意くださいね。それでは。」
「あ、おい、ちょっと待て、オレに何を聞こうって言うんだ?まだ話は・・・・・・」
電話を切られた。
夜中の二時ならまだ時間はある。いったん集まってから行動を起こしても大丈夫だろう。
それにしても、みんなの原っぱとは・・・・・・周囲に隠れる場所も何もない、あいつらにしては上等な場所を選びやがった。
うん、やっぱり先に二人に下見に行ってもらって、それから集ったほうがいいな。
オレは隣の彩子さんの部屋の呼び鈴を鳴らした。

  「お待ちしておりましたー。」
彩子さんがドアを開けてオレを招きいれた。手短に説明をする。
「場所は昭和記念公園。目的はまだ良くわからない。時間は明日未明、まあ今日の夜中の二時だ。
時間がまだあるから、吉田君と一緒に下見をしてきて欲しい。みんなの原っぱの真ん中の大きな木の下だとさ。
どこから近づいても丸見えのとっても素敵な場所だ。君らの情報はまだ奴らも掴んでないはずだから、
散歩する振りしてやつらを監視できるような場所を確保してきて欲しい。で、その後、立川駅まで戻ってきてもらって
ミーティングだ。時間は、そうだな・・・・・・夜の八時でどうだろう。駅に戻ったら電話してくれ。場所を伝えるから。質問は?」
「今朝もらった武器のほかにも持っていったほうがいいものはある?」
「暗視スコープくらいかな。デートっぽい服とか持ってんのか?」
「あら失礼ね。スーツもあるし、ドレスも、カジュアルな服装だって色々取り揃えてお待ちしてますわよ。
スウェットじゃ行かないから、普通に。ちゃんとすれば二十代前半に見えるわよ。実際二十三で年は止まってるんだから。
まあ、もともと老け顔だとは言われてたけどね。」
そうだった。オレのお仲間である以上、年はとってないんだ。
言われてみれば、だけど、五年前オレがここに来てから、彩子さんの印象はまったく変わっていない。
「ちゃんとすればきれいな姉ちゃん」だ。
「すまんすまん。普段の印象が印象だからな。つい心配で・・・・・・って、フォローになってないか。」
「まあいいわ。じゃあ早速準備して出かけるから。吉田君には私から連絡が入れとくから。」
「ああ、頼むよ。」
夕べからの展開で精神的に疲れていたらしい。椅子に座ったまま答えると、
「ちょっと何やってんのよあんた。」
「え?」
「え?じゃないわよ。着替えるんだから出て行って頂戴。それとも何?あたしのナイスバディをご鑑賞になりたいと?」
「な、何を・・・・・・」
「はいはい、あんたのカオルちゃんに悪いからね、見せてあげないわよ。さっさと出て行く!」
慌てて自分の部屋に戻るオレだった。

モード切替で体の疲れはまったく感じないが、精神的な疲れは実は徐々にたまっていくオレたちなのだ。
そこで、人間モードに戻し、少し眠ることにした。
(ためしにどこまでいけるか試したときは、精神に一部障害をきたし、もとに戻すのが大変だった。)

五時にセットした目覚ましが鳴る前に目が覚めた。
風呂に入り、さっぱりしてから準備を始める。
今日は休みだし、スーツ姿である必要はない。
動きやすいカジュアルな服装にする。
いつものウェストポーチも、デイパックに変形させる。
どういう仕組みかわからないが、ちょこんとぶら下がっている紐を三回引っ張ると、
ウェストポーチになったりデイパックになったり。
まあ、四次元ポケットみたいなものだから、不思議でもなんでもないのかもしれない。
それにしても、手を突っ込んだだけで頭で思い浮かべたものが掴めるというのは便利なものだ。
考えてもわからないだろうから仕組みのことは考えないけどね。

六時十分過ぎに家を出た。
下北沢駅に着く。井の頭線ホームへ。
ちょうど急行の吉祥寺行きが来たのでそのまま乗る。
吉祥寺でJRに乗り換える。快速の立川行きだ。
三鷹で特別快速に乗り換えようとして、やめる。
別に急いでるわけじゃないし。立川についたのは七時十五分くらいだった。
北口に出た。何年か前に再開発されてから立川の駅前はちょっとした未来都市のような雰囲気を持っている。
JRと交差するモノレールがまたその雰囲気を高める。
待ち合わせ場所をどこにしようか考えたが、立川北駅すぐにあるパークアベニュービルのジョナサンにすることにした。
暇つぶしにビルの三階のオリオン書房ノルテ店に移動する。
ここの品揃えはものすごいので、十分時間はつぶせる。
案の定、あっという間に時間は過ぎた。これからちょっとした戦いになると思われるのに、
気づいたら小沢真理の「PONG・PONG」を購入していたオレだった。
八時十分前、ジョナサンに移動。
店に入る直前に彩子さんから電話が入る。
ジョナサンで待っていることを伝えた。二、三分で来られるそうだ。

「おう、ここだここだ。」
二人が入ってくるのが見えたので、手を上げて呼んだ。
「ちょっとぉ。これから一バトルだってのに、なにマンガとか買っちゃってんのよ。」
テーブルに置かれた小沢真理のマンガを見て彩子さんが眉をしかめた。
「それだけ余裕だってことですよ。頼もしいじゃないですか。」
吉田君がまた良くわからないフォローをしてくれる。
ま、デイパックが何でも飲み込んでくれるから関係ないってことは二人ともわかってはいるのだ。
「で、どうだった?」
「まあまあ、慌てないで。先に注文とかさせてよ。まっつんは何を頼んだの?」
「まっつん?オレのことか?」
「そうよ。いちいち松下さんじゃ言いにくくて。で?何頼んだの?」
「いや、俺も来たばっかだし。まだこれからだよ。」
「そっか。じゃあ私は・・・・・・本ズワイガニのアメリカンソーススパゲティにしよう。吉田君は?」
「じゃあ僕もそれで。」
「まっつんは?」
「俺もそれがいい。」
「ハハッ。みんな主体性がないのねえ。」
「それがいいと言ったんだぜ。それでいい、じゃない。」
「はいはい。わかりました。おねえさーん。」
彩子さんはウェイトレスさんを呼ぶと、スパゲティを三つ注文した。

「じゃあ、報告するわね。」
そう前置きして、綾子さんは水を一口飲み、話し始めた。
「思ったとおり、あいつら、外をフラフラ出歩いているようなことはなかった。まずひととおりふたりでぐるりを捜索してから、
もういちど、今度は不可視域を設定して回ってみたの。そうしたら今度はあいつらの居場所がはっきりわかったわ。
センサーに三つの信号。そしてモニターにはひとつの光点。敵はおそらく三人。丁度いいわね。」
「何が?」
「だって、こっちも三人じゃない。」
「それは、冗談ですか?」
吉田君がまじめな顔で聞いた。
「場を和ませるための冗談に決まってるでしょ!ほんとにこの子はカタいというか・・・・・・」
「今のところは、だな。応援が来るかもしれないし。」
やつらがそれほど組織的な動きをしているとはまだ思えなかったが、思い込みは危険だった。
3人つるんでるということだけでも今までのやつらにはありえないことなのだから。
「で、やつらが潜んでいるのは?」
今度は吉田君が答えた。
「緑のリサイクルセンターってわかります?」
「いや、わからん。」
「ははは、そうですよね。じゃ、この地図見てください。」
「最初から出してあげなさいよね。」
彩子さんがツッコむ。
「失礼しました。ここ。この林間広場のこの部分の建物です。この地下にあいつら、アジト作っちゃってるみたいですね。」
「そのままつっこんじゃおうか、とか思ったりしたんだけど、吉田君に止められてさ。
『やつらの目的を確かめるためには勝手な行動はいけません。』だって。」
「正解だ。吉田君。あいつら、カオルの正体、というか、存在意義というか、そういったものはまだわかってないみたいだから。
純粋にオレから何か情報を聞き出したいだけ、ってな感じじゃないかと思うんだ。とにかくあいつらが何を聞きたいのか、
それをオレも聞きたい。ところで、吉田君、アレは?」
「はい、埋めてきましたよ。何なんです?あの箱。」
「いや、ちょっとしたネタだよ。」
「ちょっとしたネタって何よ。あたしも手伝わされたんだからね。」
不満そうな彩子さんをなだめるようにして尋ねる。
「まあまあ、後でな。で?」
「うん。いきなりあいつらが手を出してくるとは思わないけど、どうにかしてあなたの動きを封じようとすると思うのよね。」
「うむ。で、ふたりにはそこをバックアップしてほしいんだが。」
「やつらに感づかれないようにねえ・・・・・・ぎりぎり近づけたとしてどこまでかしら。」
「木の上ってわけには行かないですよね。」
吉田君が冗談めかして言う。
「忍者じゃないんだから。」
彩子さんが笑った。
「土遁の術ってのはどうだ?」
オレが言うと、彩子さんがあきれたように返す。
「ちょっとまっつん、まじめに考えてよ。」
オレは大まじめだった。

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