Many Ways of Our Lives

その日は来ていた

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その場所
正明はその場に凍りついた。
頭の中が真っ白になった。
父の身に何かあった場合に届くメール・・・・それが・・・・今・・・・届いた・・・・・
気が付くとほほを流れる涙が止まらなくなっていた。
純一が正明を揺さぶった。
「正明!泣いてる場合じゃねーだろ!親父さんがお前に託したメールを見て、次にやんなきゃなんないことをやんなきゃだろーが!」
正明の目がゆっくりと純一の方を向く。
「父さんが・・・・父さん・・・・」
「正明!」
バシッ!
純一が正明のほほを平手で打った。
彰一郎が純一をたしなめる。
「純一、わかってやれ。あの手紙を読んだすぐあとにこのメールが届いたんだぞ。」
「でも・・・」
「あわてるな、純一。正明君、私のいう事がわかるかね?」
正明はかろうじて首を縦に振った。
「よかろう。携帯を貸してくれるね。メールの内容を確かめさせて欲しい。」
正明は黙って携帯を差し出した。
彰一郎は携帯を受け取ると、メールの本文を開き、読み始めた。読み終えると、念のためにそのメールを自分のPCあてに転送した。
「正明君、今から私はこのメールの本文の内容を分析する。分析が終わったらまたその内容を伝えるから、それまで少し休みなさい。純一、正明君に何か温かい飲み物を。お前もいっしょにいてあげなさい。」
「わかった。正明、こっちに来いよ。」
純一に誘導され、正明は来客用のソファに座った。
彰一郎は転送したメールをPC上で開いた。文面はこうだった。
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北の狩人の勝利。
川の上流に群れる新しきものを得るなり。
神の見そなわす頂上に在りし弓矢を得るべし。

その弓矢もて日が高く在りし時未知なる飛行物体を呼ぶべき場所に打ち込むものなり。
それは平らかにそして取り出すことあるべし。
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「そういうことか。それにしても少し曖昧だな。行けばわかる、ということだろうか。」
「俺には何の事だかさっぱりわかんねーや。」
「ははは、まあそうだろう。普通の暗号ではないし、普通の人には何の意味も無い文章だからね。」
正明がソファから立ち上がってPCの前まで来ていた。
「お父さんと、彰一郎さんの間でだけわかるものなんですか。」
「うん。昔二人でふざけてた時のルールに当てはめればすぐにわかるんだ。それもなんとなくのルールだからまともに解読なんか出来ないんだ。とりあえず行くべき場所だけはわかった。ただ、そこに何があるのかはわからない。正明君、大丈夫かね?」
正明はすっかり立ち直っていた。
「お父さんがどうなったのかはまだわからないわけだし、僕は僕でやるべきことをやるしかないよね。」
「そのとおりだ。行くね?」
「はい、行きます。」
「俺も行く!」
純一が慌てて叫ぶ。
「はじめからそのつもりだったよ。お前の力は借りたかった。ただ、これはただの旅行じゃない。危険が伴うのだ。自分の息子をわざわざ危険な目に合わせることになるのだ。わたしは・・・」
「おいて行かれたらもっと危ないことになると思うぜ、俺は。」
彰一郎がにやりと笑った。
「ま、そういうことだな。お前なら大丈夫だろう。正明君、これから私は君の家に行って、お母さんに事情を話してあげたいと思う。電話を入れておいてくれるかい?」
「わかりました。」
1時間後、3人は正明の家についた。
「お前たちはどこか別室にいてくれ。お母さんと1対1で話したい。」
「わかりました。純一、俺の部屋はこっちだ。行こうぜ。」
30分くらい彰一郎と正明の母、由美子は話し合っていた。その間、正明と純一も色々と話し合っていた。
「なあに、君の父さんだもの、その「奴ら」に追われて姿を隠しただけだよ。」
純一が正明を慰めるように言った。
「ありがとう。僕も少し悲観に過ぎたようだ。もう少しいいほうに物事を考えるようにしなきゃ。」
「少しなんていわずに、とにかく前向きに前向きに行こうぜ。」
「そうだな。そうしよう。」
「それにしても、この文章、いったいどこをさしているってンだろうな。」
プリントアウトされた文章を見ながら純一が言った。
「北の狩人でもうアウトだ。父さんたちはいったいどんなルールを作っていたんだろうなあ。正明はどう思う?」
「僕だって同じだよ。皆目見当がつかない。北のって言うくらいだから北なんだろうな、位しか思い浮かばない。」
「過去への干渉だの、時をコントロールするだの、普通ならいったい何をくだらない事を、ってなもんなんだろうけど、君は見ちゃってるんだもんな、消えちまった奴を。」
「そう。確かに奴は消えたんだ。現在の物理法則ではありえない状況でね。」
「しばらくはクラスのやつらとも会えなくなっちまうな。ちょっと寂しいけど。」
「特に、八木優香と会えなくなるのが、だろ?」
「ばっ・・・何を・・・だーれがあんなおとこ女!」
純一が真っ赤になった。
「やっぱりな。お前以外の誰でも知ってる事実だ。お前が八木のことを好きだってことはな。」
「おれ以外みんな知ってるってぇ?」
正明が笑った。
「そうだよ、みんな知ってる。」
「ってことは、八木もか?」
「ああ、そうらしいぜ。村田が言ってた。っていうか、村田が八木に教えてるところを見た。」
「あのアマぁ・・・」
「八木も真っ赤になってたなあ。でも、うれしそうだったぜ。」
純一が真っ赤になりながら笑う。
「へへへ、そっかー。」
正明はしばらく黙って遠くを見つめていたが、誰に言うとも無く言った。
「そんなあいつらを殺されてたまるか!」
純一が答える。
「ああ、その通りだ。俺達で何とかできるんなら、何でもやってやるぜ。」
ふたりは目と目をあわせ、力強く頷いた。
ちょうどその時、正明を呼ぶ由美子の声が聞こえた。
「正明、純一君とこっちにいらっしゃい。」
ふたりはリビングへと向かった。
由美子の目は赤く、ほほには涙の跡があったが、笑顔で二人を迎えた。
「彰一郎さんから全て聞きました。正明、お願いね。お父さんが頼んだこと、必ずやり遂げてちょうだい。彰一郎さん、本当に宜しくお願いします。」
「わかりました。きっと正明君が賢一君のデータを引き継いでくれますよ。わたしらはそのために出来ることはなんでもするつもりです。それじゃ正明君、今日中に荷物をまとめておいてくれたまえ。明日の朝、車で迎えに来る。今日はこれで失礼します。純一、行くぞ。」
山形親子が帰っていった。
由美子は正明にもたれかかってつぶやく。
「正明、ああ、正明。こんなことになるなんて・・・・賢一さん・・・・」
正明は優しく母の肩を抱き寄せ、力強く言った。
「母さん、俺が必ず父さんを見つけ出す。父さんと一緒に奴らをやっつけるんだ!」
自分の胸で母が何度も頷くのを正明は感じていた。

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