Many Ways of Our Lives

その日は来ていた

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過去への干渉
母親の心配ぶりは並ではなかった。
元々心配性ではあり、2年前のあの事件の時も正明のことを心配して大変なことになっていたが、
今回の父親の失踪に際してはそれはもう見ていられないくらい憔悴しきっていた。
それにしてもこの心配ぶりは尋常ではない。
「母さん、大丈夫だよ、すぐに戻ってくるって。」
「ああ、正明。だといいのだけれど・・・・」
日に日に憔悴してゆく母親を見ている正明もまた悲しくなった。
父さん、いったいどこに行っちまったんだよ・・・・・・
そんな時、純一から言われて、正明は『超常現象』編集局へと再び向かったのだった。
「よく来てくれた、正明君。事態はかなり切迫している。」
正明は混乱した。事態とは?何が切迫しているのだ?
「君のお父さんからの手紙をまず見てもらおう。」
正明は彰一郎から渡された手紙に目を落とした。
読み進むうちに、彰一郎の言う「事態は切迫している」という言葉の意味がわかってきた。
工藤氏の書いた手紙の内容はこうだった。
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山形君、実に久しぶりだ。息子から君の名前を聞いた時には懐かしさで胸がいっぱいになった。
君が現在『超常現象』などという雑誌を主宰しているなんて夢にも思わなかったよ。
なにせ我々が学生時代に行っていた研究は世の中にある超常現象と呼ばれるものは全て科学で説明がつけられるはずだ、
というテーマに立脚していたわけだからね。なにか宗旨替えのきっかけとなるようなことがあったのだろうか。
まあいい。
僕は君と離れてからも独自に研究を続け、ある大いなる疑いを持つに至ったのだ。
その疑いとは、「この世の超常現象と呼ばれるものは、未来の存在が彼らにとっての過去に干渉した結果であるのではないか。」
というものだ。そしてその疑いは、2年前の事件で確信となった。
君も聞いたろうが、私の息子がその事件に関わっている。そして複数の友人とともに、その「過去に干渉する者」を見たのだ。
そう、確かに見たのだ、子供達は!
時間をコントロールするものたち、そんな高度な技術を持つものたちに対抗するすべなどないのではないかと、一旦は絶望しかけた。
しかし、虐殺された子供達の無念と、受けたショックから立ち直れずにいる子供達の心、そして息子を含めた次代の担い手たちの
未来のことを考えると、絶望などしている場合ではないと心を奮い立たせたのだ。
私はそれ以来、今までに作り上げたネットワークをたより、その存在に対する対抗策−時間ファイアウォールとでも言おうか−
を作り上げるに至った。今回、ニューヨークの仲間とそれを完成させ、その時間パッチを適用する為にこの日本に戻ってきたのだ。
ただ一つ心配がある。
奴らが私の存在に気付き、時間パッチの適用を妨害しようとしていることがわかったのだ。
私は奴らに追われることとなる。私の作り上げたネットワークに関わるもの全てが奴らの標的となるだろう。
奴らに殺されることになるかもしれない。
そうなった時の為に、奴らに気付かれること無く、時間ファイアウォールの構築の為のデータを誰かに引き継がねばならない。
もうわかるな。
君にお願いしたいのだ。
私の息子がカギになる。しかしながら息子自身はそのことを知らない。
いつか君と話したね。予知夢を見るといわれる人間は何らかの技術手段によって未来に連れて行かれた可能性があると。
明らかに息子は予知夢を見たのだ。2年前のあの事件をあらかじめ彼は経験していたのだ。
君と話し合ったあの理論は正しかった。
私は見つけたのだ。息子を未来に連れて行った存在を。そして息子が自分自身の意思で自由に現在と未来を行き来する方法を。
その場所に行けばそれが何なのかがわかる。
なんとしても息子をその場所に連れて行かねばならない。
私が自由なうちは自分で息子をそこに連れて行くつもりだったが、やつらに追われているとわかった以上、家には帰れない。
そこで、私に何かあった場合、あるアドレス宛に一通のメールが届くようにした。
メールアドレスは m_kudoh0821@t.vodaweb.ne.jpだ。そう、息子の携帯メールだ。メールを見た息子は君のもとへと行くことになる。
そうしたら君に息子をその場所に連れて行って欲しいのだ。
”その場所”については息子に届いたメールを見ればわかるようになっている。ただ、君でなければわからないようにもなっているのだ。
私には君がやってくれることがわかっている。が、改めてお願いする。息子をよろしく頼む。

P.S.幸い奴らも、時間を完全にコントロールできているわけではないことがわかっている。
でなければ僕などとっくに消されているはずだからね。
だからまだ僕にもチャンスはあるかもしれない。

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読み終えたとき、正明の携帯のメール着信音が響いた。
正明は心臓が飛び出さんばかりに驚いた。そして恐る恐るメールを開いた。

それは父からのメールだった。

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