Many Ways of Our Lives

ラジカセ

(やっとこれで人並みにラジカセが手に入る。)
太郎は思った。
今まではとにかく親父の顔色を伺いながら親父のお気に入りのサンスイのオーディオセットを「使わせていただいて」いたのだが、
これからはもう自分の機械で自分の好きなときに好きなだけエアチェックできるし、自分の部屋で音楽が聴ける。
海にも持って行っちゃうぞ!彼はうれしくてしょうがなかった。
その時代にはまだ今のようにMDプレイヤー、MP3プレーヤーなどといったものはなかったので、
(不恰好にでかいウォークマンはあったが、まだ高かった。)
ラジカセは若者の必需品で、夏に海に行くときなどもっていったものだった。
かばんに電池をしこたま詰めておいて海辺でガンガン鳴らすのだ。
海から持って帰るとどこかおかしくなっていたりしたが。
ソニーとかナショナルとかメーカー品もそう高くはなかったと思うが、
彼はまだアルバイトの身で、今回のラジカセは通信販売の安ーいやつを見つけて申し込んだのだった。
それが今日来るはずだ。
「ピンポーン」
来た!来た来た来た!今風に言うならキタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
太郎はバイトでためた2万円をつかんで、玄関に向かった。
ドアを開ける。
「こんちは。シントミ電気からきました。森山太郎さんでいらっしゃいますか。」
「はい、そうです。ご苦労様です。」
「じゃあ、こちらが商品です。受け取りに印鑑いただけますか。はい、どうも。じゃあお支払いをお願いします。\19,480-ですね。」
「はいはい、じゃ、これで。」
と、太郎が2万円を差し出すと、相手の表情が急に変化した。
「ちょっと待ってくださいよー。おつりないんすよねぇ。ちょうどじゃないと困るんですけど。」
は?なに行ってんだこいつ。太郎は一瞬何が起きたかわからなかった。

へたれる
切れてみる
やりこめる