ラジカセ
しかしながら、次の瞬間自分の口から出てきた言葉は自分でも予想しないものだった。
「わ、わかりました。両替してくるんで、待っててもらえますか?」
太郎はそういうとサンダルをつっかけ、玄関を出ると急いでマンションの階段を降りた。彼の住むマンションの近くには、店らしきものがない。コンビニの類もえらく遠い。3分ほどダッシュしてようやく一番近い酒屋に着く。酒屋に着くとのんきな顔で新聞を読んでいた店主に声をかけ、両替をしてもらう。
「すいません、10円玉までいるんで、そこまで細かくしてもらえます?」
すまなそうに太郎は店主に頼んだ。が、店主は迷惑そうな顔ひとつせず、笑顔で応えてくれた。太郎は少し気が楽になった。母に頼まれてよくここで酒類を買っていたのがよかったのかな。両替をしてもらうとまたダッシュでマンションに戻る。息を切らせて玄関前に着くと、件の配達員は本当に迷惑そうな顔で太郎をにらんだ。
「両替してきたんで、これでちょうどですね。」
はあはあ言いながら太郎が料金を手渡すと、配達員は、
「ほんと、困るんだよね、学生さんとかってさあ。」
そういい残してさっさと帰っていった。
太郎は胸の辺りに何かつかえるものを感じた。それは決して息を切らせていたからではなく、自分の気持ちの中のもやもやであることは太郎にもわかっていた。
(俺ってどうしていつもこうなんだろう・・・)
太郎は到着したラジカセの入った箱をじっと見つめてつぶやくのだった。到着を待っていたときのあの高揚した気分はどこかへ行ってしまっていた。
(いつかは変われるのかなあ・・・)
太郎は心の中で少し泣いた。
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